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重症喘息の新星!テゼスパイア皮下注の可能性とは?

いつき博士です。
アレルギー患者教育向けサイトを運営しております。

昨今、重症喘息の抗体医薬品が
発売ラッシュとなっています。

今回新たな治療薬として期待されている
炎症反応の起点「TSLP」を標的とする
テゼスパイアについて勉強していきます。

テゼスパイア(TEZSPIRE)の名称由来は、
TSLPを阻害する「Tezepelumab」により
患者さんのもっと良くなりたいという
想いを呼び起こさせ (Inspire)
喘息で苦しむひとがいない未来を願う (Aspire)
という意味が込められているようです(^^)

1.そもそも重症喘息とは?

吸入薬や内服薬ではコントロール不良で
治療に難渋する重症喘息患者さんのうち41%
年に1回以上症状の増悪を経験されています。

1-1 喘息を悪化させる因子

「外的因子の刺激」「Type 2炎症の亢進」
2つの要因が関与していると考えられています。

外的因子の刺激●
自身の喘息症状・発作の要因として挙げた患者の割合

天気の変化、湿度、冷気、温風 77%
ウィルス感染 その他の感染 70%
通年性/季節性アレルゲン 66-67%
運動/身体活動 65%
ほこり 59%
57%
大気汚染 57%
強い匂い 55%

1-2 重症化のメカニズム

上記の外的因子により
TSLPが誘発され、Type2炎症が亢進します。

TSLPは主に
上皮細胞から産生されるサイトカイン
獲得免疫細胞への作用(Th2細胞の分化
自然免疫細胞への作用(リンパ球の活性化
を介して複数の炎症経路を活性化します。

結果、気道過敏性を誘導し
気管支が浮腫み、狭くなることから
呼吸が苦しくなります。

TSLPとは胸腺間質性リンパ球新生因子
Thymic Stromal LymphoPoietinの略です。

気道過敏性を誘導する前に
炎症を抑える薬として
現在、5つの抗体医薬品が選択可能です。

抗IgE 抗体→オマリズマブ(ゾレア®︎)
抗IL-5 抗体→メポリズマブ(ヌーカラ®︎)
抗IL-5 受容体α抗体→ベンラリズマブ(ファセンラ®︎)
抗IL-4 受容体α抗体→デュピルマブ(デュピクセント®︎)
抗TSLP 抗体→テゼペルマブ(テゼスパイア®︎)

今回、TSLPを抑えることで
どのような結果になったのか?
見ていきましょう!


2.NAVIGATOR試験

コントロール不良な重症喘息患者さんを対象に
プラセボ群と比較した
有効性安全性を評価した海外試験です。

2-2 試験デザイン

無作為化二重盲検プラセボ対照第Ⅲ相試験

対象患者:12-80歳のコントロール不良な重症喘息患者
比較  :テゼスパイア210mg vs プラセボ(1:1)
     4週毎に皮下注射、52週まで継続
評価項目:52週間における年間喘息増悪率
     安全性など

1061名の患者さんが無作為に割り付けられ
相当な症例数を集めた試験
試験の信頼性が高いデザインですね。

アジア人の割合は全体で30%程度です。

高用量吸入ステロイド使用患者 約75%
好酸球数≧300cells/μLの患者 約40%
含まれており、重症例が多いことが
データからみてとれます。

2-3 試験結果(有効性)

【主要評価項目】
喘息増悪率の年換算率
(→患者1年あたりのイベント発生をもとに算出)
テゼスパイア群で56%有意に低下しました。

テゼスパイア群 0.93(95%CI 0.80-1.07)
プラセボ群   2.10(95%CI 1.84-2.39)

【副次評価項目】
サブグループ解析の結果、
バイオマーカーによらない喘息抑制効果を示しました。

また、生物学的製剤として初めて、
Type 2炎症の3つのバイオマーカー
血中好酸球数・FeNO・血清総IgE値
の低下効果を示しました。

重症症例を集めた試験なので
当たり前の結果ではあるものの
喘息のコントロールが不十分な患者さんには
選択肢として考えられる薬剤ですね。

2-4 試験結果(安全性)

頻度の多い有害事象は、
鼻咽頭炎上気道感染症頭痛喘息でした。

重篤な感染症、癌の発生率は
群間で差を認めていません。

注射薬のため、もちろん注射部位反応の副作用が
1%以上の頻度であります。また、頻度不明ですが
心臓障害もありそうなのでこちらは観察が必要ですね。


3.いつき博士の考察

今回は、重症喘息患者さんにとって
新たな治療選択肢として期待が高まる
TSLPを標的とした「テゼスパイア」
について勉強しました。

新たなアプローチの薬として市場に出ましたが
実は10年前から発見されていた機序で
日本呼吸器学会や日本アレルギー学会からも
早く上市するように言われていたとのこと。
今後の喘息治療のキードラッグになりそうですね。

また、TSLPは炎症の起点となることから、
今後は他のアレルギー疾患にも適応が追加される
可能性が高いようです。

複数のバイオマーカーが陽性を示したとき
使用できる新たな抗体医薬品の1つとして、
今後の活躍に期待ですね!

余談ですが、
最近は研究報告を画像化した「Visual abstract」が
論文初めに記載されているケースが多いです。
これを見るだけで中身の議論をするのは難しいですが、
簡潔にまとめられているので参考にしてみて下さい!

《参考文献》
Tezepelumab in Adults and Adolescents with Severe, Uncontrolled Asthma. N Engl J 2021
https://www.pmda.go.jp/files/000265640.pdf
AstraZeneca ホームページ