他者との比較ではなく自分らしさ
青い空が見えぬなら青い傘広げて…
colors 作詞作曲 宇多田ヒカル
他の人とは違う人生を送りたい。
そう願い続けた、いや、願い続けている自分の人生を振り返ってみると、
いろんなことがあった。
今思い返すと大学2年生のころまでは生真面目な学生だったと思うし、
平凡な人生を歩んでいた。
法学部で司法試験の勉強をして、法曹界の現実を知ってから弁護士を諦めたあとの人生は、
自分で言うのもなんだが面白い人生だった。
長野の山奥で見た夜空に感銘を受けて大学を中退し、旅することを愛するようになった私は国内外を移住した。
長野の山奥で見た天の河は瞼の裏に焼きついて離れない。
猿と一緒に入った露天風呂の温泉は心まで癒してくれた。
新しい生き方を教えてくれた恩師にも出会えた。
しかし全てが良い体験ばかりではなかった。
移住をくりかえす中で痴漢冤罪などという筆舌に尽くしがたい体験もした。
こんなことになるなら…
自分の選択で旅をしていたとはいえ、
3日間水しか口にしないときもあったし痴漢冤罪も経験した。
後悔しないわけがない。
それでも私は、痴漢冤罪にあって留置所に入ったことになにか意味があるのだろうかと考えた。
ひどく抽象的で観念的だが、
“人生が人間にとっての試練だったのなら,,,”
全ての事象は受け手の解釈次第なのだろう。
留置所でそう考えた私に、
宇多田ヒカルの声が頭に響いた。
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完成させないで もっと良くして
ワンシーンずつ撮って いけばいいから
光 作詞作曲 宇多田ヒカル
辛いことが起こったとしても、それが死でない限り、人生の終わりでも完成でもない。
より良い未来は自分たちで作っていくことが出来るし、
未来への筋書きはいくらでも描いていくことが出来る。
その筋書きを確実に大事に繋いでいくことで、
さらに色濃く未来を描いていくことが出来るのだろう。
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僕にとって宇多田ヒカルの声と曲は力をくれる。
だけどこんなに好きで、奮い立たせてくれるのは何故なんだろうか?
それは宇多田ヒカルの生まれとこだわりが関係しているのだろう。
2つのルーツを表現する
“2つ以上のルーツ(国民性)を持つアーティストは多くいるが、
それを表現できる人間は滅多にいない。
大抵は2つのルーツのどちらもうまく表現できずに、
結果として「半分」の線の細さしか発揮できないケースがある。
本物のアーティストならば1+1=2どころか3にする。”
この言葉は国際音楽コンクールの審査員を務めたことのある、
私の友人の言葉だ。
宇多田ヒカルはアメリカで生まれ育ち、
日本とアメリカを何度も行き来していた。
どちらの国でも疎外感を感じていたそうだ。
国民性はもちろん、肌の色も話す言葉も違う。
音楽のリズムも違う。
宇多田ヒカルはその相反する2つのルーツを単純に足すのではなく、
『トリプル』にまで昇華させている。
裏拍で感じるアメリカの闊達なリズムとメタファーな要素がある日本語の歌詞。
この組み合わせは他にはないし、相乗効果を生み出せる稀有なアーティストだ。
特にそれが表れている曲が、
「あなた」だと思う。
力強い曲もそうでない曲も、
宇多田ヒカルの2つのルーツが充分に表現されているからだろうか。
街中で聞こえると絶対に耳を傾けてしまう。
神は細部に宿る
『NHK プロフェッショナル 仕事の流儀』での宇多田ヒカルを見ていると、
メロディーラインだけではなく、
バックミュージックの楽器も全て編曲する。
強弱から音色まで、音符の1つ1つにこだわる。
さながらオーケストラの指揮者のようだ。
宇多田ヒカルは「初恋」の作曲の際に、
最初はドラム奏者やピアノ奏者と何日間もリハーサルをしていた。
だがしっくりこないのだろう。
締め切りのギリギリまで考え抜いた結果の末、
ドラムを楽譜から綺麗に無くし、
今までなかったティンパニを起用した。
何を不要とし何を必要としたのか、
そしてその末にたどり着いた答えがティンパニだった理由は、
宇多田ヒカル自身にしかわからない。
足し算ができるアーティストは当たり前にいるが、
引き算ができるアーティストは少ない。
楽曲全体の調和(細部)を考えたからこその結果なのだろう。
“神は細部に宿る”
それを宇多田ヒカルは知っている。
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他の人とは違う人生を送りたい。
そうではなく私が本当に望んでいたことは、
自分の経験・体験・価値観でできたパレットで発信し、
それが誰かに影響を与えることなんだ。
宇多田ヒカルの表現力が、妥協のなさがそれを教えてくれた。
宇多田ヒカルが一分の妥協もなく歌うように、
私は文章で発信する。
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