見出し画像

【大学入試センターに詩を愛しているとは言わせない・13/13】共通テスト2018試行調査・国語第3問について

改めて問うー現代文講師は詩を愛しているか

 ここまで読んでくださったかたは、ついつい口走ってしまうでしょう、

「現代文講師なんかに‘詩を愛している’なんて言わせるべきじゃない…」

と。そうして、こうつづけさえするのかもしれませんー

「総じて、現代人は、比喩を欲してなどいないんだ。メタファーを嫌悪し、テクストの文字通りの意味しか理解しようとしない。詩を蔑み、蔑ろにして恥じるところもない…
「現代文講師だって、その例外なんかじゃない。彼(女)の書く参考書には、詩への愛がみじんも感じられない…
 「『精妙な音楽がわれわれの欲望には欠けている(La musique savante manque à notre désir)』という一節に習って、'精妙な詩学が講師の指導には欠けている(La poétique [savante] manque à leur lecture)'と言うべきかもしれない…」。

 …なるほど、それは、あながちあやまりとはいえないのかもしれません。
 しかし、わたしも現代文講師のはしくれです。言い訳させてください。元凶は大学入試センターです。かれらの作問にこそ、問題がある。わたしたち講師に責任がある、というわけではありません。

共通テストに詩への愛など要らない

 つまり、「【大学入試センターに詩を愛しているとは言わせない・01/13】共通テストにおける詩の出題について」の冒頭の一文は、「大学入試共通テスト国語2018年の試行調査は、詩が出題されました」というものでした。しかし、それには訂正が必要だということです(短歌をとりあげたエッセイを素材文にした2017年の「大学入学共通テスト(仮称)/マークシート式問題のモデル問題例」については、機会を改めて論じる予定です かもしれません)。
 具体的には、「大学入試共通テスト国語2018年の試行調査は、詩が出題されませんでした」と書くべきだったのです。どういうことなのでしょうか。
 それは、問6(ⅰ)以外で、’詩’が問われていないということです。
 問6(ⅰ)?  …その問題をふりかえるため、詩の内容をおもいだしておきます。
 第1連の「愛ののこした紙片」を「いぶかる」というのは、いわば永遠の「愛」への懐疑でしたね。その懐疑を逆転するのが、第2連以降のふたつの反語でした。すなわち、「いのちをもたぬ」(第3連)、「死」んだ「紙のやうに 生きれば」、「何も失はないですむだらうか」(第5連)というー倒置をふくんだー修辞疑問。そして、「ほろびやすい愛」や「のこされた紙片に/乾杯」(第6連)というシニシズム。こうした詩の内容の把握を問うていたのが、問6(ⅰ)でした。
 この問題は、一見、表現技法の問いのようにみえます。しかし、実際は、詩の内容がわかっていなければ正答にたどりつきにくいという問題だったのです(それゆえ、正答率は第3問中もっとも低く、22.1%にすぎません。4択ですから、これは、ほぼほぼ、鉛筆を転がしたのとかわらない、といってもいいかもしれませんね…参考書等の解説をみると、それも…)。
 とはいえ、こうした詩の内容をたずねている設問は、ほかにはありません。
 たしかに、問2は、詩の本文の「何百枚の紙に 書きしるす 不遜」に傍線部を設定してはいる。しかし、「どうして『不遜』と言えるのか」と聞かれた受験生には、読みやすい散文=随筆の記憶があるはずです。しかも、設問には、「エッセイの内容を踏まえて説明したものとして最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ」ともある。すると、そのエッセイの「ひと夏の百合を超える永遠の百合。それをめざす時のみ、つくるという、真似るという、不遜な行為は許されるのだ」を読み返す、というのは、それほどむずかしくない、ということになるでしょう。そうすれば、韻文=詩本体のほうはよくわからない。けれども、正答選択肢②の「はかなく移ろい終わりを迎えるほかないものを、表現という行為を介して、いつまでも残そうとたくらむから」を選ぶことは、できなくはない、ということにもなるはずです。要するに、この問題は、詩「紙」の内容の把握ではなく、エッセイ「永遠の百合」の再読をもとめているにすぎないのです(こちらの正答率は、第3問の中で2番めに高い59.5%です)。
 それ以外の設問は、さきにふれた問6(ⅰ)をのぞくと、詩「紙」と関係がないのです。

 つまり、共通テストはそもそも詩を問うてなどいない!

 したがって、共通テスト(の学習/指導)には、詩への愛など不要なのです(それを証明してしまっているのが、現今出版されている参考書なのです)!!

 入試に詩を出さない社会/国に生きる
 あなたに、
 詩を愛しているなんて言わせない。


【参考文献】

・安達雄大、『現代文講義の実況中継』、語学春秋社、2020年。
・アルチュール・ランボー、『対訳 ランボー詩集』(中地義和・編)、岩波文庫、2020年。
・梅澤眞由起、『大学入試 全レベル問題集 現代文 ②共通テストレベル[改訂版]』、旺文社、2020年。
・浦貴邑・中崎学、『大学入学共通テスト 国語[現代文]の点数が面白いほどとれる本』、KADOKAWA、2020年。
・エデュケーショナルネットワーク編、『はじめての共通テスト対策 国語』、Z会、2019年。
・エドガー・アラン・ポオ、「詩作の哲学」(八木敏雄・編訳『ポオ評論集』所収)、岩波文庫、2009年。
・河合出版編集部・編、『2021 大学入学共通テスト 攻略レビュー 国語』、河合出版、2020年。
・Kanda Gaigo、「大学入学共通テスト対策【国語】 Chapter 3」(https://youtu.be/eSPBBaLO_xc)
・現代文 まなびの礎ー大学への現代文・小論文ー、「大学入試センター『プレテスト現代文』(2018 年 11 月実施)の分析と共通テスト対策」(http://nakanogendaibun.com/wp-content/uploads/2020/07/2018-11pretestbunseki.pdf)。
・教学社編集部・編、『大学入学共通テスト スマート対策 国語(現代文)』、教学社、2019年。
・教学社編集部・編、『2021年版 共通テスト赤本シリーズ③ 共通テスト問題研究 国語』、教学社、2020年。
・小池陽慈、『大学入学共通テスト 国語[現代文]予想問題集』、KADOKAWA、2020年。
・国語専門学習会・種、「大学入学共通テストとセンター試験と詩と」(https://tane-kokugo.site/2019/12/21/kyoutsuutest/)。
・ゴロゴネット編集部・編『新・ゴロゴ 現代文 共通テスト編』、株式会社スタディカンパニー、2021年。
・清水正史・多田圭太朗、『大学入学共通テスト 現代文(記述式・マーク式)実戦対策問題集』、旺文文社、2019年。
・駿台予備学校・編、『2021-駿台 大学入試完全対策シリーズ 共通テスト対策問題集 センター過去問題編 国語』、駿台文庫、2020年。
・Z会編集部・編、『ハイスコア! 共通テスト攻略 国語 現代文』、Z会、2019年。
・武田塾チャンネル、「『詩の問題ってどう対策するの??』共通テスト現代文の対策本選び!|受験相談SOS」(https://www.youtube.com/watch?v=NI9e2ksulpA)。
・独立行政法人・大学入試センター、「問題のねらい、主に問いたい資質・能力及び小問正答率等」(https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00035678.pdf&n=01_問題のねらい・正答率等(国語).pdf)。
・長尾誠夫、『3日間で完成! 共通テスト国語で確実に7割とる方法』、彩図社、2020年。
・晴山亨・立川芳雄・菊川智子・川野一幸、『読解を深める 現代文単語〈評論・小説〉』、桐原書店、2009年。
・宮下善紀、『最短10時間で9割とれる 共通テスト 現代文のスゴ技』、KADOKAWA、2021年。
・代々木ゼミナール・編、『2021年版/大学入学共通テスト 実践問題集 国語』、日本入試センター、2020年。

・Stépane Mallarmé, Crise de vers, in Œuvres complètes, tome II, édition de Bertrand Marchal, Collection Bibliothèque de la Pléiade, Gallimard, 2003.

(2022.1.27.)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?