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adp design interview - インテリアデザイン 建築家 DDAA/元木大輔さん

渋谷というカルチャーが渦巻くまちで、まちのパブリックハウスとなるようなホテルのデザインを考えると、渋谷の自由に対しての寛大さをベースに持ちながら、まちにも開いたデザインを目指していきたいと考えていました。

そのようなホテルを作るため、建築家のDDAA /元木大輔さんをインテリアデザインパートナーとして迎え、チームを作りながら客室のデザインや共用部を手がけてきました。元木さんは、多分野にまたがるプロジェクトを建築的な思考を軸に活動する建築・デザイン事務所のDDAAと実験的なデザインとリサーチを行うDDAA LABを主宰し、都市やまちとのつながりを感じられるプロジェクトを多数手がけられています。

今回は、デザインディレクションをしていたプロジェクトデザイン事業部 高橋良至から、元木さんにお話をお伺いしながら、デザインが出来上がるまでのside storyをお伝えします。


ー高橋:プロジェクトにお声がけさせていただいた時はどのように感じましたか?

元木:以前この場所にあったカフェを知っていたことや、渋谷から青山はまさに「谷」から「山」へ向かう中間地点です。渋谷と青山両方の雰囲気を併せ持つ、様々なコンテクストがある場所だと思います。また、交差点に位置することもあり、街との関係や雰囲気のイメージがしやすいようにと、通りを含めた模型を作り始めました。

ー高橋:模型が忠実でとてもイメージしやすいですよね。そこから、目指す方向性としては、中と外を積極的に繋げていきたいというお話しをさせていただきましたね。

元木:ホテルの1Fのコンテンツが外にはみ出していて、アクティビティも敷地の外に滲み出ているような場所にしたい。向かいに美竹公園もあるので、ホテル側もパブリックスペースのような性格があると、ホテルに来た人だけのためではなく、渋谷のまちの人も使える方がいいなと思いました。ホテルのエントランスとして大きく構えるのではなく、多様かつ自由に使えるおおらかさが欲しく、正面をより開放的にしたいと提案させていただきました。

all day place 模型

ー高橋:正面を開けるご提案は、目指していた渋谷の日常を表現できる場所に近づいたので、採用させていただきました。

元木:正面を開け放つことで、春〜秋口まで外で楽しめるコンテンツがいいですよね。

ー高橋:そうですね!ビール、アイス、お花屋さんとかあったらいいよね、と盛り上がりましたね。

元木:中に入るお店の雰囲気が滲み出るといいなと思いました。元々1Fの外構は主にホテルレセプションへの動線として計画されていましたが、坂道の段差を生かして段々のベンチや花壇をできるだけたくさん配置しています。手すりや、実はホテルのサインさえもコーヒーやビールを置くことができるようになっていて、至るところに人溜まりができている、みたいなシーンが作れたらと考えました。これから植栽も育って木陰ができると良いですよね。ホテルの利用者だけでなく、周辺の人たちが朝から晩まで多様に使える状態を積極的に許してくれるような雰囲気がいいですね。

―高橋:まさに、そのようなシーンを作りたいと思っています。中と外の境界線をシームレスにしたいと思い、タイルを使うことにしましたよね。

元木:そうですね、外から中まで、連続した同じ素材がいいなと思い、インテリアでも外でも使える素材という視点でタイルを提案しました。外構の公園のようなパブリックな雰囲気を、1Fのお店にも繋げて行けるようにしたいと。実は最上階のスイートルームの一番奥に位置するバスルームまで同じようにタイルで仕上げています。

all day place 1F

―高橋:カラーは緑が特徴的ですが、どんなことを意識されていたのでしょうか?

元木:おおらかな雰囲気にしたく、アスファルトや電柱など無機質なグレートーンとは違う色味で検討しました。タイルの色ムラがでることと、他の色味だと色自体の意味が強くでてしまうため植栽との相性が良いグリーンを基調にすることにしました。

―高橋:実はオリジナルのタイルなんですよね。

元木:はい、岐阜県の多治見で焼いてもらったタイルで、オリジナルの釉薬で色を調整してもらっています。実は1Fの店舗のデザインも合わせて検討するにあたって、Mikkellerさんが入ると決まった時、「デンマークの人から見たら日本を感じる、日本の人から見たらデンマークを感じるデザインにしたい」とリクエストをいただきました。

オリジナルタイルのサンプル

―高橋:デンマークらしさと日本らしさの融合とは、なかなか難しいお題ですよね。

元木:そうですね。実はこのグリーンは多治見周辺で生産されている織部焼や美濃焼の色でもあります。使い方でそう見せていないのですが、実はとても日本的な色です。織部焼は、千利休とともに茶の湯を大成させた茶人、古田織部の指導によって創始されたといわれています。それから、彼は千利休と並ぶ「見立て」の大名人なんです。

元木:見立てとは「物を本来のあるべき姿ではなく、別の物として見る」という物の見方のことをいいます。利休や織部には、町棗(なつめ)という無名の職人によってつくられたどこにでも売っている棗(抹茶を入れる茶器)を厳選して使っていた、、とか京都の桂川の漁師が使っていた魚籠(びく)を、茶席で花入れに見立てた、、とか、船の狭い出入り口を茶室のにじり口に応用した、、など日常的なものを取り入れたり、本来の使い方とはずらして使うといった逸話がたくさんあります。

元木:スイートルームのベッドサイドにあるブラインドはぐにゃぐにゃの照明の明かりの強弱を調整するための、いわば人力の調光システムです。そもそもブラインドは太陽光の調光用の道具ですよね。よくホテルでは枕元のベッドサイドランプが調光できるようになっていますが、同じ機能をアナログに実現しています。これも見立て的なデザインですね。
(ちなみに「へうげもの」という漫画が古田織部がモデルになっていて、オススメです)

―高橋:DDAAさんが手がけるものには、トラックの荷台に使うラッシングベルトや工事現場用の単管パイプを使ったプロダクトなど、まさに見立て的な手法によるものが多く茶道の考え方とも近いものがありますよね。1Fの方向性が決まってから客室のデザインを検討していきました。

元木:そうですね。ホテルのエントランスロビー用に、単管パイプを金でメッキしたパーテーションや、ラッシングベルトで固定されているスタンディングテーブルをデザインしています。日常的なものの非日常的な使い方、ラフな素材とラグジュアリーな素材、無機質なグリッドと有機的な素材、、など、できるだけ質感や素材が多様だけど、全体としてはまとまっている、、という状態を意識しています。

客室には傷や水にも強いメラミン化粧板という、極めて一般的な素材を使っています。日常的に目にする素材を使った、見慣れたものの、見慣れない使い方というか、まさに見立て的なデザインですね。また、メラミン化粧板も外のタイルと揃えてグリーンを採用しています。

―高橋:ホテルのコンセプトである、渋谷の日常を体験してもらいたいというのにもリンクしますね。

元木:さきほどの町棗のように、誰かの日常は誰かにとっての非日常であったりします。一般的な素材だったとしても、使い方次第で上質だったり非日常的なものは作れます。

―高橋:客室のデザインで意識されていたことはありますか?

元木:特にコンパクトなお部屋は東京や渋谷らしいなと思います。コンパクトなお部屋に、要素や機能がたくさん詰まっているとうるさく感じるので、備品や収納、水回りはできるだけ1箇所に集約できるようにし、1つの素材だけを使ってスッキリとデザインしています。

テレビボードに、セーフティボックスや、マグカップなどのアイテムを集約

―高橋:洗練されたような空間になりましたよね。

元木:コンパクトなお部屋だからこそ、要素を減らし、一つの素材で作るようにしたからでしょうか。ベッドも椅子もサイドテーブル、水回りやハンガーラックなど、メラミン化粧板を使って、できるだけ複雑な加工をしない簡単な作りでデザインしています。また、小口を切りっぱなしで使うことで少しラフな印象を持たせています。1Fのミッケラー/アバウトライフコーヒーブリュワーズの家具も、一部をDIYで作ることで丁寧にしつらえすぎることなく、ノイズを許容できるおおらかさを取り入れています。その他も植物を入れたり、ぐにゃぐにゃ曲線のライトや無垢の木材などの有機的な線など、アナログの良さを取り入れることでデザインを厳密にしすぎず、少し肩の力が抜けたような部分を作っています。硬すぎる印象にならないよう意識しました。

―高橋:洗面台のステンレスをグラデーション状に磨いたミラー、ブラインドの使いかたなど一般的な素材を普段とは少し異なる仕様にしたり、新しいチャレンジもできましたね。

元木:グラデーション状のステンレスミラーはお部屋を広く見せるという機能的な面もありますが、タイルやメラミン化粧板だけで、厳密にコントロールしすぎると息苦しくなってしまうので、ムラのようなものを取り入れようという意図で提案しています。タイルの色ムラや小口を切りっぱなしで使っている理由も同じですね。

―高橋:誰でも受け入れるようなデザインのバランスを意識できたと思います。では、元木さんにとって渋谷はどんなまちですか?

元木:渋谷らしさはあるけれど、常に様変わりしているまちですよね。かつてはレコードが一番売れたり、クラブもたくさんある。副都心でもあり、スクランブル交差点は世界でも有数の観光地です。ファッションやビジネスのまちでもあり、センター街の雰囲気と奥渋谷や青山方面では雰囲気が全然違います。色々ある多様な状態が渋谷の日常だと思います。真面目さもありつつ、遊べる、多様さが渋谷のいいところだと思います。

―高橋:all day place でどのような滞在をしてもらいたいと思いますか?

元木:渋谷は、日常的な美味しいお店も、ハレのお店も、観光地もありますよね。なので、お部屋に留まるだけでなく、外に出てまちを楽しんでほしい。一方で、ホテルでくつろぐのもいい。どちらも心地よく、渋谷らしく自由に、楽しんでもらえたら良いなと思っています。all day placeは、渋谷のまちのように雑多なものを許容してくれるおおらかなプラットフォームになると良いと思います。

―高橋:ありがとうございました!ぜひ、渋谷のまちとのつながりを、体感しに来てしていただきたいですね。


元木大輔 / DDAA
建築家。1981年埼玉県生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画勤務。2010年、建築、都市、ランドスケープ、インテリア、プロダクト、ブランディング、コンセプトメイクあるいはそれらの多分野にまたがるプロジェクトを建築的な思考を軸に活動する建築・デザイン事務所DDAA設立。2019年、コレクティブ・インパクト・コミュニテイーを標榜し、スタートアップの支援を行うMistletoeと共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。2021年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館参加。著書に「工夫の連続:ストレンジDIYマニュアル」(晶文社)、「Hackability of the Stool スツールの改変可能性」(建築の建築)がある。


公式 web site はこちらから

photo ©︎Kenta Hasegawa

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