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adp design interview - アートディレクター Sitoh inc.市東基さん

all day place shibuyaの空間デザインを少しずつ形にしていく中で、ロゴやウェブサイトなど、多くの方に目に触れていただけるようなデザインをどのようにしてall day placeらしく紡ぎあげていくか。

all day place shibuyaのワードマークやサイン、ウェブサイト、オウンドメディアなどを手がけていただいたアートディレクターのSitoh inc.市東さんに、all day place のクリエイティブディレクションを担当したプロジェクトデザイン事業部 澤田真緒からお話をお伺いしながら、all day place shibuyaのグラフィックデザインをご紹介します。


澤田:all day place shibuyaのお話を聞いた時は、どう思いましたか?

市東:プロジェクトのテーマや目的が明確でしたので、あとはクリエイティブとしてそれをどう解釈するか、デザインの方向性を考えるには十分な状態でした。

まず、流行を追わず旅の本質的な喜びを捉え直して、土地の文化を感じてまちの人と交流する「パブリックハウス(社交場)をつくる」ということが、今回のホテルを作る上での大きなテーマとなりました。

そこからブランドデザインの解釈を「まちの合間に、いつもある、いつもの居場所」のコピーと照らし合わせながら「日常の合間」をデザインテーマとして考え始めました。

澤田:その時は、ホテルのキャラクターがまだ定まっていないような感じでしたよね。

市東:空間デザインの方向性は決まっていましたが「パブリックハウスとしてのホテル」という部分ではまだ漠然としている部分もありました。

ただ、いろいろな人がそれぞれの目的で自由に行動する渋谷では、特定の人物像を作ることよりもたくさんの個性が一つの場所に集まることで象徴になるのではないかと考えを改めました。

澤田:そうですね、実際に働くスタッフも個性を出していけるようにしていきたいと話しているんです。マニュアルとかで動くのではなく、個人で判断したり、好きなことを活かしていければなと。

市東:多くの個性が集まる渋谷だからこそのホテル、という感じですね。

澤田:複数の個性が集まっていることがall day placeだとすると、今のロゴデザインに至るまではどのように考えていったのですか?

市東:まず、渋谷を上空から見ると、多くの人が目的地に向かって歩いている情景を想像しました。そこから人を丸の造形に置き換えて、複数の丸が入り乱れて動いている状態に変換します。そのドットが、ホテルというパブリックハウスへ向かい、集まることでall day placeの文字に変化するデザインを考えました。その集合体をサンセリフ書体に置き換えたのが今回のワードマークです。

all day place プライマリーワードマーク

澤田:特徴的なロゴデザインと比べると、all day place shibuyaのワードマークは、とてもシンプルですよね。

市東:今回のブランドデザインの中で、ロゴマークをどのポジションに位置付けるかをまず考えました。10年ほど前でしたらロゴマークを起点としたコミュニケーションが重点的に行われていましたが、今回のブランドデザインでは、世界観の一部として機能させ、ホテルの内観・外観・接客などに総合的にリンクし、デザインが先導し過ぎない定着を理想として、ロゴマークではなくシンプルなサンセリフ書体をワードマークとしています。

市東:ホテルのワードマークに使用しているLausanneは、伝統的なサンセリフの良さを持ち合わせながら美しい曲線と細かな個性を兼ね備えた書体で、小さなサイズでもとても視認しやすく読みやすい。
この部分が、「渋谷を回遊しながらホテルにたどり着く」というコンセプトや、多くの人がいる渋谷で、外見だけではない個性を持ち合わせた特性ともリンクしたため、この書体をプライマリーワードマークとしました。

澤田:フォントのストーリーもリンクするのは面白いですね。

市東:また今回の発想の起源となったドットを使ったセカンダリーワードマークも制作しました。シンプルなプライマリーワードマークには、グラフィックとしての拡張性に限りが出てしまうため、ドットを用いたデザインで自由にコンセプトを表現していこうと考えました。

ドットロゴのステッカー

澤田:プライマリーとセカンダリーのワードマークはどうやって使い分けするのでしょうか?

市東:プライマリーワードマークは、公式な場やホテル内での展開を想定し、セカンダリーワードマークは、渋谷やホテルらしさを表現するので、ホテル外に向けたアプローチで使い分けて行こうと思っています。

澤田:元々は大文字の「ALL DAY PLACE」で検討していましたが、市東さんからのご提案で小文字の「all day place」になりましたよね。

市東:渋谷を行き交う人が「all day place」に立ち寄り、また別の場所へ向かうという「日常の合間」をデザインテーマとし、アルファベットの表現もそれを踏襲した表記を考えました。例えば小文字の「a」の部分では人が渋谷を回遊している動線のイメージを連想しました。また「all」の二本線には一時停止のポーズマークがあり、一時的にホテルに留まることも文字の造形デザインから連想し定着させていきました。

澤田:シンプルな中にも遊び心が入ってますよね。先程のお話でも、「ロゴマーク=顔」ではなく、一つの要素とのことでしたが、他の要素はどのように考えて来ているのでしょうか。

市東:ウェブサイトやオウンドメディア「all streets」のオンスクリーンメディアから、サイン・インビテーション・アメニティのプリントメディアなど、たくさんのデザインをさせていただきました。これらをブランドデザインとして伝えていくため、各展開デザインはそれぞれの個性を持たせながら、一貫した印象になるようにディレクションしています。
ただ、これらはデザインが先導するというよりはコンテンツ自体に魅力や気づきがあることが重要となるため、それぞれのコンテンツの個性を高めていくことで「all day place shibuya」となっていくのではと思いました。

ローカルガイド all streets

澤田:一つ一つは少し違うけれど、全体でみると「all day place shibuya」になるということですね。ちなみに、ホテルだからこそ意識した点はありますか?

市東:ホテルコンセプトの一つである「渋谷の日常」を表現することは、クリエイティブ全体の中でとても大きなポイントだと思いました。単一的な表現やデザインがホテルの象徴となることなく、渋谷にいる人々のライフスタイルに自然に浸透していくかが、長期的なホテルの在り方とデザインの関係でとても重要と意識しました。

澤田:そうですよね、一つの要素だけでは全貌はわからないですよね。ホテルが長く続く上で、デザインも変化することもあると思いますか?

市東:長期的に見た場合、渋谷のまちの在り方やホテルの存在も、もちろん変化していくと思います。今回のホテルのワードマークに関しては、普遍的なサンセリフ書体を象徴としているため時代の変化に大きく左右されることなく、長期的に存在し続けられると思い全体デザインを設計しています。

澤田:市東さんからご提案いただいたデザインは、とても「all day place shibuya」らしく、それを表現できているなぁと感じてます。

市東:私が考えるクリエイティブは、表現を上塗りするのではなく、その個性を最大化することを軸に考えていくので、ホテルのコンセプトを作られた皆さんにはそのように思われるのかもしれないですね。いつもデザインをご提案する前には、プロジェクトの背景や言葉にまとめられていない想いをヒアリングして、そこからクリエイティブとしてのテーマを抽出していきます。それらを形にすることで、これまで紡いできたバトンをさらに遠くまで渡していく、そんなスタンスで取り組んでいます。

澤田:all day place shibuyaでは、DDAA元木さんのインテリアデザインと、写真家の伊丹豪さんなど、多数のクリエイターが集まっていますよね。ブランドのデザインを行う上で考慮したことはありますか?

市東:今回のプロジェクトでは、空間・写真・コンテンツなどそれぞれが個性を持ち合わせて独自で主張し合うことが魅力的だと思いました。そのため今回のアートディレクションではそれらの個性を一つにまとめるのではなく、「all day place」というホテルの範囲の中で集合させるという捉え方が良いのではと考えました。そこからグラフィックデザインとしてそれぞれの個性を最大化した形で、デザインのコンタクトポイントを作っていくようにしました。

澤田:私たちも最初にご提案をいただいたときに、今まで議論してきた「all day place shibuya」らしいデザインが出来上がって、とても感動しました。

市東:ご提案した際には、最初にホテルのキーワードをデザイン的な解釈の言葉に変換して、「all day place」としてどのようなブランドデザインが最適かをお伝えしました。それによって、アウトプットをより理解していただくためのベースができたのかもしれません。ホテルのキーワードの解釈と「日常の合間」をデザインテーマとしたワードマークの展開を中心に、以降のデザイン提案はより理解や安心感を持たせながら挑戦的にデザインすることを心がけました。
これからもそれらを軸に「all day place」の個性を拡張していきたいと思います。

澤田:ありがとうございます。スタッフや、ゲストの皆様と、日々変化・アップデートをしていく場所にしていきたいと思っているので、今後どのように変わっていくか私たち自身も楽しみです。

all day place shibuyaのロゴやwebサイトをはじめとしたデザインを手がけたSitoh inc.市東さんにお話をお伺いしました。
all day place shibuya のドットが館内の一部に隠れているので、ぜひご宿泊の際に探してみてくださいね。


市東基 / Sitoh inc.
アートディレクター。1981年北海道生まれ、2013年フリーランスとして独立。2016年にブランディング・デザインコンサルティングを主軸としたSitoh inc.を設立。企業理念・哲学を最大化した文脈を抽出し、クリエイティブによって世界観を体現する企業スタンスの構築に取り組む。@sitoh_inc


公式 web site はこちらから

top photo ©︎goitami



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