![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27249594/rectangle_large_type_2_a357fbbae7af3e6b0a9b9faa14699832.jpg?width=800)
初心に帰る瞬間(とき)
初心忘るべからず
出典:世阿弥『花鑑』
おっしゃる通りだがこれが難しい。
だけど、こういう仕事をしてるとしばしば原点に帰れる瞬間がある。実際に身近であったエピソードを2つ紹介しよう。
あるイラストレーターの場合
徳島県のとある小学校の体育館。その日は地域の子どもたちを集めてワークショップを開催した。
未就学児から中学生くらいまで幅広く集まってくれて、ギルドからはイラストレーターとグラフィックデザイナーが参加した。
小さい子はキャラクターをねだって描いてもらう。プロたちはそのリクエストを真正面からは受け止めない遊び心を持っている。文字通り、キャラクターの後ろ姿を描いているけど完成まで何を描いているのか分からずに不満そう。
するとある子が「あ、背中だ!」と気付いた途端にワーワーと嬉しそうに騒ぎ出す。
イラストレーターは言う。
前があるなら後ろも横もないとおかしいでしょ?
山だって川だってお花だって道だってあるよ。
手も足もちゃんとあるよ。
後ろ姿のキャラクターが徳島の山に向かって走り出すような絵を完成させると、見ていた子たちがキラキラとした目で聞いてくる。
どうやって描くの!教えて教えて!
イベント後、1ヶ月くらい経ったある日。ギルドに封書が届いた。ワークショップに参加していた保育園の先生から、お礼状の代わりに1枚の絵が入っていた。
添えられた手紙にはこう書いてある。
あのワークショップ以来、子どもたちの絵の質が劇的に変わりました。これくらいの歳の子が、手足を正確に描こうとしたり、ママや先生以外に関わりのないお店の人や周りの風景や背景を描くのは珍しいことです。子どもたちはイベントを通じて何かを感じたようで、愉しくお絵描きしています。
イラストレーターさんやデザイナーさんが、上手く模写するんじゃなく、感じたように描くことが大事だって言ってた意味がわかった気がします!
一緒に送られた1枚の絵には、みんなの寄せ書きのように色んな人や花や道が描かれていました。
あぁ、そうだった。わたしはこういう子どもたちの笑顔が見たくて、誰かに何かを感じて欲しくてイラストレーターになったんですよね。
そしてきっとわたしも褒めて欲しかったんだなぁ…
僕にそう言って笑いながら、その一週間後に会社に辞表を出し、1か月後にはフリーランスになり、そしてイラスト教室も始めた。
あるグラフィックデザイナーの場合
同じワークショップで、イラストレーターは小さい子達に取り囲まれ、グラフィックデザイナーは比較的大きな子達が集まって取り囲んでいた。
意図していた訳ではなく自然とそうなったのだが、子どもたちグループとは対照的に、こちらは技術的なことに関心がある子が多いようだ。
このグラフィックさんがアニメーター出身だったこともあり、影の落とし方とか遠近感などを分かりやすく説明しながら近くの駅前を描いていて、描く度にオーって感心する声が漏れる。
小学校高学年や中学生くらいになると、趣味で絵を描き始めたり、将来の夢の職業になってたりするので、デザイナーを見る眼差しが違う。
こういうワークショップに参加するくらいだから、絵を描くことが好きな子や得意な子なのだろう。普段描いて上手くいかないところをここぞとばかりに聞いてくる。内容が具体的で真剣さが伝わる。
絵の描き方だけじゃなく、どういう道具が必要なのか、いつ頃から目指していたのか、どういう経歴か、どうやったらデザイナーになれるかを聞かれていた。
なんか傍から見ていて面接を受けてるかのように、グラフィックデザイナーの表情がどんどん曇っていくのを感じた。
イベント後に宿に戻り、お疲れ会の時にそのことについて聞いてみると、自分が学生の頃を思い出して、自分の中でいつも自問自答してることと重なってちょっと落ち込んだと言う。
この子達と同じように夢を馳せた職業についたけど、今の自分はなりたいものになれているのか?
そして、最後に飛んできたこんな質問に嘘をついたことをとても後悔していた。
デザイナーって仕事は楽しいですか!?
この質問に、少し躊躇しながらも「楽しいよ」って力なく答えたことを気にして凹んでいた。
中学2年生だというその子は、次の日、駅に見送りに来てくれてデザイナーにこういうのです。
先生みたいなデザイナーを目指したいと思います!
そしてこういうイベントも開きたいです!
キラキラしてて、淀んだオッサンたちには眩しすぎた。危うく浄化されそうになったな!と車内で笑った。
一夜明けて、目標にまでなった感想は?そう聞くと、彼女が独り立ちするまで現役でいられるかなぁ?と何かを決心した表情に見えた。
ワークショップで二人のクリエイターが別々の体験をして、夢に描いていたことを思い出してくれたのは思わぬ収穫だった。
もちろん、普段そんな思いで仕事してたことも知らなかったし、こういう結果を予測しているほど腹黒くもない。
それぞれのキャンバスに描かれた絵が本意じゃなかっことを自身で認めざるを得なかったのは事実のようで、もう一度、初心に帰って描き直す機会と意欲を与えてくれた子どもたちには感謝しかない。
保育園の先生が最後にこんなことを書いていた。
P.S あれ以来ちょっと困っています。
子どもたちに絵をせがまれて描くと「違う!おねぇちゃんたちみたいに描いてよ!」って下手くそ呼ばわりされるようになってつらたん(;A;)
子どもって残酷www
色んな意味でありがとう、お察しします…
我々の中には幼い頃の自分がいる
この子どもが過去・現在・未来の自分の土台を築くのだ
ローン・ジョセフ博士(神経科学者)
『初心に帰る瞬間(とき)』ってお話でした。
弊社のクエストは「関わったら最後まで」。クリエイターやフリーランスの目指し方、働き方を提案。育成からマッチングまでを紹介するサポートマガジン || https://note.mu/aljernon