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日常にあふれる「祈り」にふれて。バリの屋台で出会った黒米プディング「ブブール・インジン」

インド周りのトピックが多いですが、ほかの国を旅することも大好き!今回は、バリの思い出を綴ってみたいと思います。バリもヒンドゥの祈りが根づいている地域。日常の所作の一つひとつに、手をあわせるようなやわらかさが満ちているのが印象的な場所でした。ブブール・インジンといわれるライスプディングも、やさしい甘味でとても癒されるのです…

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2018年を終え、2019年を迎える年越しを、インドネシアのバリ島で過ごしました。きっかけは、以前にバリ舞踊家さんによる講演を聞きに行ったこと。バリ舞踊の世界観に影響をもたらしたバリ・ヒンドゥー教や、その祈りの文化が根付くバリの日常の暮らしに触れてみたいと思っていたのです。お話をしてくださった舞踏家さんの踊りからは、なんともいえない心癒される空気、波動のようなものがあふれ出ていて、その根源となっているであろうバリの地に触れてみたい、と惹かれるものがありました。

バリ島の面積は、愛媛県とほぼ同じで約5,700 ㎢。インドネシア共和国全人口のうち、約87%がイスラム教徒ですが、バリ島民の多くはヒンドゥー教徒。その理由は、インドネシアでは、各地でイスラム王朝が力を持つ前にはヒンドゥー教が信仰されている地域が多かったことといわれています。ジャワ島をはじめ、イスラム王朝が力を持ち始めた際に、ヒンドゥー教徒がバリ島に逃れてきたことで、バリがヒンドゥー教の居場所になったそう。厳密にはインドで興ったヒンドゥー教にバリの土着信仰などの影響も加わっており、「バリ・ヒンドゥー」と呼ばれています。

海から歩いて数分の、小さなゲストハウスを拠点にした旅では、バリ・ヒンドゥーが感じられる日常の風景と、黒米を使ったどこか懐かしいおやつ、ブブール・インジンに出会いました。

バリ・ヒンドゥーの祈りと彩りが感じられる日常の風景

小さなお供え物、「チャナン」が道を彩る


バリ島では、ヒンドゥー文化が現代の生活にも深く関わっている様子が、街を歩いていても感じられました。道端や、お店の前、海辺の砂浜など、いたるところに、手のひらほどの大きさのかごに乗ったお花が。これは「チャナン」と呼ばれるお供え物で、毎日のお祈りはもちろん、さまざまな神事に使われているのだそうです。

赤、黄、白、黒(紫)とヴィヴィッドな色は、ヒンドゥー教の代表的な神様たちを象徴しているのだとか。お花だけでなく、果物やお米、甘そうなお菓子、お線香などが添えられていることも。ゲストハウスのオーナーであるケトゥさんに、「バリ・ヒンドゥーのお祈りに興味がある」と話していると、「毎朝お祈りをするのよ。バリの文化に興味を持ってくれて嬉しいわ!明日の朝、見てみる?」と、お祈りに招いてくださいました。

お祈り。手が舞うような。

多くの家と同じように、泊まっていたゲストハウスの庭にも、小さな祠のようなものが。台所やお部屋など、色んなところにお供え物を捧げ、祈り、お香を添え、聖水を撒いていました。

「地面にいる悪霊にも、『荒ぶることなく、穏やかでいてくださいね』って、お供えものをするの。悪いといわれているものを排除するのではなく、物事には両面あることを大事にしているのよ」というケトゥさんの言葉に、バリの人のやわらかな心を感じました。優しいまなざしと所作で祈る横顔は、幼い頃、食事の前に仏さまにご飯をお供えしていた亡き祖母の姿を彷彿とさせました。

太陽に祈るヨガ

ヨガも、バリの人々の生活に馴染んでいるように感じました。宿から数百メートルのところにあるビーチでは、毎朝、ヨガのグループが無料のセッションを行っていました。普段の生活でも毎日ヨガの時間を持つ私は、「こんなに近くでビーチヨガができるなんて!」とラッキーな気持ちに。飛び入りで参加してみることにしました^^

海風を感じながら、地元の人も、旅人もみんなでヨガ^^

地元の人がたくさん集まる中、旅で訪れている外国人も数人いて、快く受け入れてくれていました。

元旦の朝にも行ってみると、108回太陽礼拝のセッションが行われていました。ヨガの「太陽礼拝」というポーズの流れでは、煩悩が浄化されていくといわれています。108の煩悩を手放していくために、各地で年末や年始に「108回太陽礼拝」が行われています。

日本の夏のような気温の中で動いていると、暑くて汗が滴り落ちてきて、なかなか辛い……。でも、聞こえてくる先生のカウントに何とかついていくしかない。太陽礼拝は「礼拝」という言葉にも表れているとおり、太陽への畏敬の念も込められているといわれています。海の向こうから輝きを放つ太陽を感じたり、波の音を聞いて無心になったりしながら、ひたすら流れを繰り返していると、やっと「One Hundred Eight!」の声が。「終わったー!!!」身体はへとへとだけど、いっしょにヨガをしていた人とニコっと微笑みあって、ハッピーな気分がじんわり湧いてきました。

ほっこりする黒米ライスプディング「ブブール・インジン」



ブブール・インジン。一見、お赤飯のような見た目…?

砂浜のそばに出ていた小さな屋台を覗いてみると、なにやらおやつが売っている様子。どれもおいしそうで、いくつか盛り合わせにして詰めてもらうことに。

お赤飯みたいな色のお米を使ったものが、なんだか素朴な色合いで気になりました。宿でケトゥさんに聞いてみると、「それはブブール・インジン。黒米のライスプディングよ。ブブールは、インドネシア語でお粥のことなの。稲作文化のバリにとって、伝統的で身近なおやつね。私も大好きでよく食べるわ。マーケットでも売ってるし、作るのも簡単よ」

食べてみると、もちもちした触感と南国らしいまったりした甘みに、ほっぺがゆるゆるに。なんだか、おぜんざいや、水無月を思い出すような、ほっこりする味。「お米を一晩浸水させて、お鍋で辛抱強く、コトコト炊いて。シンプルだけど、時間をかけて、愛情を込めて作るレシピなの」と、ケトゥさん。

お茶といっしょに出されることもあれば、朝ごはんから夕食まで、食事にもなるそうで、素朴な味。心身が整う感覚がして、毎日の朝食に玄米粥を食べている私にとって、ブブール・インジンは、夏の日の朝、ヨガの後にぴったりだ!と感じられました。

美しいものを美しいと思えること

聖水の寺院、ティルタ・ウンプルに集まる人たち

聖水の寺院として有名なティルタ・ウンプルや、バリ舞踊を見に、ウブドにも訪れました。そこでも、多くの祈る人々の姿が。吹き出す聖水を額につけ、お祈りしていると、「生かされていて、ありがとう」という気持ちが不思議と湧いてきます。

ウブドでのバリ舞踊

バリの旅は、現地の生活・文化に根づく美しい祈りに触れるものになりました。色鮮やかなチャナンや、バリ舞踊の衣装、表情、ガムランの幻想的で優しい響き、そして毎朝のお祈りの姿。美しいものを、美しいと思えることが幸せで、大げさかもしれないけれど、「生きていてよかった~!」と感じる旅でした。

現在の日本では、毎日お祈りをする人は少ないかもしれませんが、2、3世代遡れば、神様や仏様にご飯をお供えする習慣がまだ多く見られただろうと思います。ブブール・インジンは私にとって、人を生かしてくれる恵みであるお米を通して、バリと私たちがつながっていることを感じさせ、また食事の作り手の愛情を思い出させてくれる一品となりました。

思えば今でも、「いただきます」「ごちそうさま」と手を合わせることは、バリの日々の祈りに通じるように感じます。旅先の日常から、自分の日常に帰っても、普段の当たり前の暮らしの中に、穏やかさを見出していけますように。

*日本で手に入る材料でつくるブブール・インジンのレシピも投稿予定です^^お楽しみに◎

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