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【千字掌編】薫風の出会い(土曜日の夜には……。#2)

 千夏は行きつけのバーでカクテルを楽しんでいた。いつも、土曜日の仕事終わりにはここに寄る。静かなバーの中で目立つ男性がいた。笑い声が大きい。
「マスター。あの人うるさい。注意してきて」
「千夏さん。ここは自由に過ごすバーですよ。笑っても笑わなくても彼はこのバーの客です。あなたを含めて、ね」
「もう。マスターは甘いんだから」
 そう言ってちらり、と横顔を見る。魅力的な男性だった。だからといって一緒に飲む気はしない。料金をおいて席を立つ。
「マスター。今日も美味しかったわ。また来るわね」
 そう言って千夏は夜の街に消えていった。

 その次の日の日曜日だ。二日酔いはしてないものの頭が重い。近くの本屋まで出かけることにした。薫風くんぷうが心地いい。近くの本屋はマニアックな本を取りそろえている。だが、最近、閉店の噂が飛んでいる。無くなる前に欲しい本は買っておこうという算段だ。本屋で、本の背表紙を目で追っていく。
「あった」
 手に取ろうと瞬間、誰かの大きな手が重なった。
「あ」
「すみません。ご入り用なのですね。どうぞ」
「いえ。そちらこそ。って、あなた、バーで飲んでいた方ではないですか?」
 バーの名前を出す。
「ああ、そんな名前のバーだったな。すみません。うるさくして」
 え? 聞こえてたの?
 自分の顔面が蒼白になってるのでは、と千夏は思う。
「大丈夫ですか?」
 男性は心配そうだ。
「すみません。聞こえているとは思わなかったので……」
「いつも笑い声が大きいと注意されるんです。いつものことですから」
「ほんとーにほんとーにすみません」
 平身低頭に千夏は謝る。
「気にしてませんから。代わりにこの本買ってくれませんか? 僕も読みたいので。土曜の夜に持ってきてもらえれば次の週は僕が読んで、その次の週はまたあなたが読んでと交互に読めば平等じゃないですか?」
 男は柔和な微笑みを浮かべている。
「受け渡しはあのバーで?」
「そう。あのバーで」
 ちなみに、と千夏のチェックが入る。
「既婚者ですか?」
 妙な情がわいては困る。それでなくとも魅力的な男性なのに。
「いいえ。花の独身貴族です」
「なら、買います。またあのバーで」
 千夏が去ろうとすると男性が追いかけてきた。
「お互い、読み進めるところが違うでしょうから、店頭にあるしおりを私が二つ買います」
「所であなたのお名前は?」
「千秋です」
 男性は免許証を見せる。
「あら。私は千夏。一字違いですね」
「千夏さんか。夏生まれですか?」
 いちいち気に障る男ね。千夏は思いながら答える。
「芸のない名前です。キラキラネームとはほど遠いところにいますよ」
「気に障ったならすみません。じゃ、このしおりを千夏さんにしてこちらを僕のにします。それじゃ」
 千秋はそう言って爽やかに去って行った。まるで薫風の様に。
「薫風男め……」
「お客様?」
 レジには長い行列ができていた。
「あ。すみません」
 千夏は慌てて本の料金を払って家に帰ったのだった。

「土曜日の夜に……」

 あまたある知識の泉にあなた達を連れて行きましょう。そして……。

 土曜日の夜の神様はにっこり二人に笑いかけていたのだった。


あとがき

千夏と千秋と名前がでてきて幼馴染みで同じ男性を好きになった話を考えたのですが、なかなか思うように行かなくてChatGPTさんのアンドロイド版に聞いてみたり、本人さんに聞いてみたのですが、使った設定はバーのみでした。あらすじを考えてくれるのはいいのですが、千字オーバーなあらすじだったのでほぼ没。新に指の赴くままに書いてみました。恋物語シリーズが止まっているので、(これは花をメインにしたい)、新に「土曜日の夜には……」というシリーズをこさえました。一応千字掌編とします。越えてるけれど。昨日の愛海をシリーズ1にしてこちらを2にします。ネタ切れになりそうですが。その時はAIさんに手伝ってもらってキーワードをもらいます。人物像などは私が考えたのをつっこんでみます。名前を考えるのが大変です。亜梨子、また登場かも。違う字でアリスとしたいのですが。まぁ、連載も更新しますので昼間にお待ちください。今日も昼から野球観戦。でも夕食を作らねば。買い忘れないだろな。あとでレシピ見てチェックしておきます。二時プレイボールなので。そして、白コリのかーちゃん。やっぱり産んでました。朝起きて取り除いておきました。放っておくと稚魚かカビになるので。これ以上増やせない。では、またお昼に。

あと、私が無言フォローした方以外で相互フォローにしたい方は通年の企画をご覧下さい。

 

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