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【創作共同マガジン・連載・民俗学お遊び系恋愛小説】神様ご光臨! 第五話 夏休みはハプニング1

前話

「先生~。夏休みも部活あるんですかぁ?」
 気弱な関口が珍しく口を開いた。
 オフコース! と子松は答える。
「今年は特別サービスだ。ゆいる君歓迎セレモニーとして那須温泉に行くぞ!」
「おんせんー? またー?」
 部員の全員の声がはもった。
「いいじゃないか。暑いときに熱い温泉。通の入り方ではないか」
「ってどこが通だか」
「何かいいたいかね。しのぶ「子」君」
「いえ。何も言ってません」
「では盆休みの14、15、16に行くぞー!」
 気合入れての声に田中が突っ込む。
「普通は盆休みやすみよぉ。せんせいぃ」
「だからこそいいのだ。オフシーズンに行って安くあげる。これこそ部費の良い使い方だ」「けち」
「何か言ったかね? しのぶ「子」君」
「いいえ」
 にっこりと笑ってしのぶ子が答える。だが、目は笑ってない。相変わらず腹芸の応酬なのだ。この二人はどうしていつもこうなのかゆいるにはわからない。嫌い合っているわけでもなさそうだし・・・。これも文芸部の謎のひとつであろう。
 
 盆休みの当日。部員たちは暗い面持ちで校門前に立っていた。電車でえっちらおっちらと行くのだ。これから。荷物は軽めにしてある。だが、本音は観光バスで行きたかった・・・。これが全員の思いである。なんで暑い最中に温泉に電車で行くのだろうかと謎は深まる。闇の部活動では一番を誇る文芸部であっても表向きは弱小部活である。大腕降って観光バスを借り切るわけには行かなかった。
「全員集まったか?」
 子松が点呼をはじめる。
「一人足りません」
 この寒い状況の中で一人冷静に松島が答える。
「なにぃ?」
 子松の声が一オクターブ上がる。
「ごめん。ごめん。寝坊したー」
 そこへタイミングよくしのぶ子が駆け込んできた。
「しのぶ「子」! また遅刻か。いいかげんちゃんと起きろ!」
 スケジュール帳で子松はしのぶ子の頭をぱこんとなぐる。
「いったいなー。子松」
「当たり前だ。先生と呼べ」
「やだねー」
 いつもの言い争いが始まると同時に松島は動き出した。予定はわかっている。ほかの部員もぞろぞろ歩き出す。
「いいんですか? 放っておいて」
 どっち側についてけばいいのかわからないゆいるは悩んだ末松島に駆け寄ると尋ねる。
「いいの。ほっておいてもちゃんとついてくるから」
 ごく冷静に松島が答える。流石は部長だ。統制の取れてないような文芸部だが部長の松島がちゃんと統制をとってまとまっていた。子松は指示は出すもののまともな指示はめったにないため松島が司令塔であった。
 その後ろからしのぶ子が駆け込んできた。ぜいぜい言っている。
「ゆいるー。親友のあたしを置いてくるなんてひどいじゃないのー」
「あ。ごめんごめん。楽しそうだったから」
 おかしそうにゆいるは言って笑う。
「そんなこといっていると子松に子分あつかいされるわよー」
 しのぶ子が真剣な面持ちで指摘する。
「誰が使い走りをさせると?」
 ぬっと子松が顔をつきだす。
「せっ先生。おどろかさないでくださいっ」
 ゆいるは抗議する。いつも子松は予想のつかない行動をとる。
「困るな。ゆいる君。そろそろ慣れてくれないと」
「慣れるも何も。驚かすほうが悪いんです」
 ゆいるは憤慨して言う。
「そうか。それは悪かった。ではしのぶ「子」君をよろしく」
「なんでよろしくなのよ!」
 しのぶ子が子松の後姿に叫ぶが子松はささっと先頭に立って歩き出した。先頭で田中が丈にからみついている。それを止めに入るのだろう。
「うちの部はこのまま変わらないのね・・・」
 はぁ、と松島は深いため息をついた。
 
 電車に揺られてことことと田舎道を行く。
 やがて那須に到達した。駅を降りてゆいるは荷物を下に降ろすと手を天に伸ばした。
「はぁ。やっと体が伸ばせるー」
「電車はいいけれど窮屈だもんねー」
 同じくしのぶ子も背伸びする。
「しのぶ「子」。置き引きにあうぞ!」
「こんな田舎であいません!」
 子松の相変わらずのつっこみにしのぶ子が応酬する。
「さぁ、行くぞ」
 それには応じず子松は先頭に立って歩き出した。
「相変わらずいじわるなんだから」
 しのぶ子のそっとついたつぶやきはゆいるだけしか届かなかった。
 
『御伽高校 文芸部ご一行様』
 温泉旅館に着くと外にはでかでかとそう書かれていた。なんだか恥ずかしいなぁとゆいるは思う。
「いつもながら丁寧だな」
 満足そうに子松は言うと中へすすっと入ってく。部員もぞろぞろ入ってく。
「ようこそ。おいでくださいました」
 女将が手をついて迎える。
「またお世話になります」
 子松が丁寧に言うと頭を下げる。あんな普通な子松を見たのは初めてだ。
「また・・・って?」
 ゆいるが不思議そうに松島に尋ねる。
「高校に入ってからの三年間、私たちはここの旅館にお世話になっているのよ」
 はぁ、とまたため息をついて松島が答える。毎年同じことをしているのかと思うとゆいるはちょっぴり先輩たちがかわいそうになった。
「では各自荷物を置いてからロビーに集合。あ、デジカメ持っている奴はもってこいよ。いいもん見せてやるから」
 意気込んで言う子松にはぁ、と松島がまたため息をつく。
「何が待っているんですか?」
 ゆいるは何がなんだかわからずまたたずねる。
「しのぶ子ちゃんもわかってるはずよ。いつもと同じことをするの。行って見ればわかるわ」
「またデジカメかぁ。もって行くのよそうかな?」
 しのぶ子はぶつぶついっている。
 ねぇ、とゆいるはたずねる。
「何が待っているの?」
 しのぶ子はゆいるを見てああ、と納得したように答える。
「あいつ、ゆいるがいるから特にがんばってるんだ」
 ちょっと寂しそうな声にゆいるはどきりとする。私には丈君がいるのに・・・。なんて乙女チックなことを考える。
 自分の感が正しければ子松はしのぶ子を大事に思っているはずだ。でなければあんなに教師の垣根を越えてしのぶ子と接するわけはない。当の本人たちは気づいていないようだが。
「とりあえずデジカメもって行ったら? 記念になるし?」
「記念?」
 しのぶ子の謎の言葉を繰り返してゆいるはその場にぼうっと立ちつくした。
「どうしたの?」
 丈が声をかけてゆいるは飛び上がりそうになった。
「う、ううん。なんでもない。しのぶ子~。待ってよぅ」
 ゆいるはしのぶ子の後にあわててついていった。
 
「これから何が始まるんですか? まさか依童するとか・・・?」
 険しそうな山を見上げてゆいるは子松にといかける。
「いや。もっとスリリングなことだよ。ゆいる君」
 にやり、と不敵そうに笑った子松が怖くて思わずゆいるはしのぶ子の服に手をかける。
「大丈夫。今日のはたいしたことないから」
 飽き飽きした声でしのぶ子は言う。
 部員たちはぞろぞろと硫黄の噴出す溶岩の上を歩き出す。もちろん溶岩といっても何千年も前のものですでに石と化している。そこらに観光客もいる。
 あるところにくると子松はたっと駆け出してある石に飛び乗った。
「いぇ~い。ゆいる君今のうちに撮影したまえ。記念すべき殺生石に飛び乗る男の画像だ」
「殺生石って・・・。ええぇ~~~」
 言われてみてゆいるは度肝を抜かれた。殺生石といえば鳥羽天皇の寵妃玉藻前が殺されて石になったといわれている。
「せっ。先生。たたられますから。早く降りてくださいっ」
 ゆいるはデジカメどころでなく顔色を変えてあわてて子松をおろそうとする。ほかの部員たちはもう見慣れたもので適当にしている。
「何を言う。こここそが私の御先使いの居場所なのだ。なぁ? 君」
“はい。御前”
 ふいに子松の前に女性が現れた。目の覚めるような十二単を着ている。
「女の人・・・?」
「おお。流石はゆいる君。君には見えるのか」
 感動した子松は石から降りるとゆいるの手をぶんぶんと握手してふった。
「ゆいる。女の人って?」
 しのぶ子が不思議そうにたずねる。
「しのぶ子見えないの? 石のそばに女の人が・・・ってもしかして~」
 ぞぞぞっと背筋が寒くなる。
「いやぁ~。しのぶ子。幽霊見ちゃった~」
 半泣きでしのぶ子にすがりつく。
「幽霊とは失礼な。あれは私の御先使いだ。御先使いは最終段階になると人型になるのだよ」
「御先使いが人間に?」
「そうだ。そうして人とのコミュニケーションによりいっそう磨きがかかるのだ」
「なるほど・・・」
 先ほどの恐怖はどこへやら、ゆいるは女性の幽霊を見て納得する。
「ゆいるには見えるんだ」
 ぼそっと悔しそうな声でしのぶ子が言う。
「うん。って見えないほうがいいよ。怖いもん」
「そうじゃないくてっ・・・。ううん。なんでもない」
 何かをいいたそうなしのぶ子だが、あわてて否定する。
「では。年に一回の逢引も終わったことだし。散会。適当にして宿にもどれ」
 子松は石から飛び降りると頂上を目指して歩き始めた。
 しのぶ子はふっとその後姿を見てくるりと向きを変えた。
「しのぶ子?」
 ゆいるはそのしのぶ子の背中が泣いているようであわててついていった。
 宿に戻ってもしのぶ子は元気がない。
 せっかくの温泉も入らない。そのまま眠ってしまった。
「じゃ、先輩と温泉入ってくるね」
 ゆいるは寝ているしのぶ子に声をかけるとそっと部屋を出て行った。
 しのぶ子は寝ていなかった。ただ寝ているふりをしていた。子松の御先使いを見たゆいるがひどくうらやましかった。禁断の外典を開いたときからゆいるは特別だった。届く存在ではない。だが、子松の御先使いまで見てしまったゆいるのことがひどく嫌だった。そしてそんな自分が嫌だった。しのぶ子はわかってしまった。自分が子松を好きだということを。だからこそあんなに言葉が出てくる。一時でも話していたかったから。普通の部員で終わりたくなかったから。せめて記憶の中にとどめておいてほしかったから。だからわざと反抗的になった。われながら幼稚だと思ったが。
「ごめんね。ゆいる」
 そうつぶやくしのぶ子のほほに涙がつつっ、と流れた。
 


あとがき
何がこのシリーズに人を呼ぶのか謎、です。これだけ異様に人が集まる。共同マガジンといっても参加者がいないため、独り相撲なんです。誰か運命メンバーになって。せめて読み手とか。今日はばてばてなのでまた載せて逃げます。十二単の人をAIで描きたいよー。ことごとく失敗中。なんで帯がでるんだ帯が、裳着だろうが。と突っ込んで私は去る。

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