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【共同マガジン・連載・民俗学お遊び系恋愛小説】神様ご光臨! 第四話 疫病神事件解決編

前話

「すでに依童新聞はチェック済みだ」
 そんなものがあるんだ、とゆいるは心の中で思う。
「彼らが我が校の依童をする生徒たちだ」
 その言葉を受けて来客の三人は松島たちを見た。黒髪の少女が口を開く。
「あんたたちで役にたつん?」
 出てきた言葉は関西なまりだった。意表をつくコントラストにゆいるとしのぶ子はあっけとられたが、丈はともかく松島も冷静にその言葉を受け止めた。
「失礼ね。名前も名乗らないでその言い方はないのではないかしら?」
 松島がちくり、と反撃する。
「それはわるかった。あたしは泉佐保子。道上高校のトップや」
 自慢しながら佐保子は言う。道上と聞いてしのぶ子の体が少し動いた。そっとゆいるは聞く。
「道上って?」
「この高校のお隣さん。かなり優秀な依童をするよ。敵に回したくない高校のひとつね」
 そっとしのぶ子はゆいるに説明する。
「あんたかぁ? 禁断の外典を開いたちゅうんは?」
 いきなりあんた呼ばわりされて、ゆいるは戸惑う。
「神様ご光臨大会のことで来たのじゃないのでしょう? そちらの目的は何?」
 的確に松島は質問を投げかけていく。それがちだった話が元に戻る。
「ああ。彼らの高校にも疫病神予報で来るらしいと知って対策を練りに来てくれたんだよ」
 校長が松島の質問に答える。
「対策ってあるんですか?」
 思わず、ゆいるは身を乗り出した。
「あるっちゅうてもあんたらとは手を組みたくないわぁ」
 ふんと佐保子はそっぽをむく。しのぶ子が怒りの一発を入れようとしているのを見たゆいると丈が止める。
「喧嘩している場合じゃないって」
「わかってるわよっ」
 小声でしのぶ子は反論する。
「で、あなたたちの対策は何なの?」
「教えるつもりあらへん」
「佐保子」
 あくまでも強気の佐保子に気の弱そうな茶髪の男子生徒が、佐保子のセーラー服をちょいちょいとつまむ。
「あ。オレ荒又一平。ここの高校の司書の荒又はオレの父さん」
 一平は人懐っこい笑顔を見せて自己紹介した。
「荒又先生の?」
 松島が一瞬驚いたがすぐに表情を戻す。
「校長先生。彼らはなかなかの腕の方たちとお見受けしました。私たちは彼らの補助に回ります」
「なかなかは余計や!」
「佐保子」
 なんだかあの三人もたいへんなんだろうなぁとゆいるは密かに苦笑する。校長は松島の提案にほっとした顔をする。
「いがみ合いは良くないからな。仲良くやってくれ。決して外に漏れないようにやってほしい」
 はい、と松島は答えて向こうの三人に手で合図した。部室で話そうというつもりだったのだろう。ゆいるはほんの少しびくつきながら後につく。佐保子たちもついてくる。不承不承といった感じであるが。学内の一番奥にある部室に行くとすでに部員は全員そろっていた。
「やぁ。ようこそ。道上高校の諸君。私が子松だ」
 子松が言うと、佐保子が一瞬ひるんだような気がゆいるはした。なぜだろうとは思うが、今はそんなことを考えている時間ではない。世間のすべてを自分たちの行動いかんで変えてしまうのだ。のんびり構えていられない。
「泉に荒又、橘です」
 一番背の高い金髪の男子生徒がぽつり、と言った。礼儀はしっかりしてるようだ。
「対策は幸せを呼ぶものをまきちらすことです。四葉のクローバーにはじまり招き猫、おみくじの大吉、アイスバーのあたり、七福神、なんでもいいですから縁起のいいものを町中にばら撒きます。あくまでも予防策でしかありません。こられてしまったら手の打ち所はありません」
 無口だった橘が一気に言う。そういうと子松はエクセレント! といって拍手をした。
「それだけ考えていればいいだろう。しのぶ「子」! 俺とお前はアイス棒を探すぞ。ゆいる君とやなぎは簡単な作業がいいな。四葉のクローバーを探してくるように。ほかは神社の大吉をもらって来い。御伽高校のものといえばほとんどの神社は協力してくれるはずだ。松島たちは各々、縁起のいいものを見つけてばら撒け。では散会!」
 パン、と子松は手をたたいた。全員がぞろぞろと動き出したそのとき、ちょっとまってや、と佐保子の関西弁が飛び出た。
「依童はせえへんの?」
「それは最後手段だ」
 珍しく子松が真剣に言うと佐保子はぐっ、と言葉を飲み込んだ。
「いくぞ。しのぶ「子」」
 こんなときでも子を強調するのを忘れていない子松を一種ある意味で、ゆいるは感心した。そうとも知らず、子松はいやだというしのぶ子をひきつれて出て行った。
 ぽかん、と子松としのぶ子を見送っていた、ゆいるは近くに丈が来ると、どきどきしはじめた。
「僕たちは河原へ行こう。あそこなら四つ葉のクローバーがいっぱいあるはずだよ」
 丈が優しく言うと、ゆいるは顔を真っ赤にさせながら丈の後に続いた。
 
 河原は寒いぐらいだった。川風が冷たい。丈はブレザーをぬぐと、ゆいるの背中にかけた。
「これで寒さはしのげるから」
「丈君は?」
 丈の優しい行動にゆいるは驚くやら感動するやらあらゆる心情を体験してたずねた。
「僕なら平気。寒いのには慣れているから。ほら。探すよ。コツは五つ葉や六つ葉があるところ。クローバー・・・本当はちがうだけど・・・同じ根でつながっているからひとつあるとその近くにたくさんあるよ」
「わかった」
 ゆいるはそういうと雨の中傘をさしながら必死に探しはじめた。しばらくして、ゆいるは幸運にもひとつめを見つけた。
「丈君。あったよ!」
 うれしそうにゆいるは丈に声をかけた。
「本当だ。このあたりに群生しているよ」
 二人で手分けして探し出す。小さなスーパーの袋はいつしか四つ葉のクローバーで埋まっていた。
「ああ。一生分のつきを拾ったかんじ」
 袋にいっぱいになったクローバーを見てゆいるが言う。
「僕もだよ」
 顔を見合わせて二人はなんだかおかしくて、くすくす笑いあった。
 部室に戻るとそれぞれ作業をおこなった部員たちが戻っていた。道上高校の三人もそれなりにやってきたようだ。今度は集めたものを町中に配る。次の日からその縁起物を配り歩く作業が続いた。授業を受けてそれから放課後町中を歩くから大変だった。人に悟られないようにしなくてはならない。そっとゆいるは四葉のクローバーに願いをかけて配って歩いた。そしてすべての作業が終わった。
「やることはやった。あとは過ぎ去るのを待つのみ!」
 子松の一言で準備は終わった。
 しかし、一週間たっても梅雨の長雨は去らず、次第に町は寂れてく。とうとう道上高校というか佐保子が乗り込んできた。
「ちょっと。あんたらしっかりやってきたんか? うちの高校まできとるやんかー!!」
 関西弁ですごまれて、ゆいるはびくびくする。そのゆいるの手を、隣にいた丈が握って勇気付ける。こういうときの丈は頼りになる。
「おかしいな。予防は確かにしたはずだ・・・」
 子松まで首をかしげる。
「まさかとは思うが・・・」
 すっと子松は動くと「山の人生」をひいた。道が現れる。子松は駆け下りて行った。
「灯台下暗しか!!」
 子松の叫び声に部員もどっと依童部屋に入り込んだ。
 そこには小さな子供が浮かんでいた。
「え? これが疫病神?」
 あまりの可愛さにぬいぐるみかと思ったゆいるである。
“やっぱりここもだめなんだね”
 疫病神はそう言ってぽろぽろ涙をこぼした。その様子にゆいるは胸が痛くなった。
“ボク、どこにも行くところがないよ。どうしてボクを嫌うの?”
「あんたが不幸をよぶからや!」
 佐保子が叫んで御先使いを放った。
“痛いっ”
 佐保子の御先使いシャムネコが疫病神をひっかく。そこから血が流れた。
「だめっ」
 血を見た瞬間、ゆいるは走っていた。疫病神を抱きしめる。いくら疫病神でも傷つけられたら痛むはずだ。ただ疫病神と言うだけで嫌われていく彼が哀れだった。
「あなたが嫌いじゃないの。あなたが作っている状況がだめなの。どうしたらあなたは疫病神から解放されるの?」
“どうしたら?”
 抱きしめられた疫病神が呆然と問い返す。
「そこの馬鹿女どきっっ!!」
 佐保子が叫ぶ。シャムネコが向ってくる。ゆいるは疫病神をだきかかえてぎゅっと目を閉じた。
「ゆいるちゃん!」
 丈の声がしたかと思うと黄金の色をした八咫烏がシャムネコの動きを止めた。
“どうしたらいいんだろう? 生まれたときからそうだった。どこへ行っても僕は一人ぼっち。みんな嫌いっていうんだよ”
 そう言って疫病神は泣く。
「大丈夫。もうあなたは一人じゃない。私がいるから。ゆいるが友達だよ。それにタマも」
“タマ?”
 ゆいるは御先使いを出す。ネコのタマが現れた。
「そうこのネコがタマ。たまに三味線になるけれどね」
“うれしい。ボクのことをそんな風に思ってくれて。でもボクは同じところにいたらだめなんだよね。ありがとう。ゆいるちゃん。タマ。これからは君たちのことを思って旅を続けるよ”
 疫病神はゆいるの手からすりぬけると悲しそうに微笑んだ。ゆいるは泣きそうな顔になった。
“そんな顔しないで。ゆいるちゃん。疫病神さんを外典の力で形を変えてあげて”
 タマが言う。
「姿を変えるってどういうこと?」
“ボクを三味線にしたように疫病神さんを別のものにするんだよ。マイナスをプラスに変えるんだ”
「そんなことできるの?」
 ゆいるは自信なさげにタマに問う。
“できるよ。ゆいるちゃんなら。お願い。ボクの願い事をかなえて”
「タマ。えらいわ。でもそんな難しいことはむりだよ。ゆいるはまだ・・・」
 しのぶ子が近づいてタマに言う。だが、ゆいるは顔をあげて疫病神を見つめていった。
「私やってみる」
「ゆいる!」
 全員の視線がゆいるに集まった。
「心の中で念じて大事に思ってあげればいいんだよね」
“うん。そう。そんな感じ”
 タマがうなずく。
「じゃぁ。行くよ。疫病神さん……メタモルフォーゼ!」
 ゆいるが叫ぶと部屋中に光があふれた。
 
 ちりん。
 
 光があふれる中、音がして、こつん、と床に落ちた音がした。
「疫病神さん?」
 浮いていた疫病神はすでにそこにいなかった。
“ゆいるちゃん。床を見て”
 タマが言う。
「床? あ、鈴」
 ゆいるは転がっている金色の鈴を手にした。禍々しい空気はもうなかった。明るい澄んだ空気が依童の部屋を満たしていた。
「マイナスをプラスにか。ゆいる君やったじゃないか。さすがは外典の持ち主だけのことはある。タマの鈴にちょうどいいみたいだね」
 子松がいつものシニカルな笑顔でなく純粋に喜んでいる笑顔を見せる。
「はい。ちょうどタマに鈴を付けてあげたいと思っていたから。これからはいつも一緒だね」
“ありがとう。ありがとう。ゆいるちゃん”
 疫病神は泣いているようだった。
「泣かないで。私には悪い人はいないと思うから。それは神様だって同じでしょ。好きで人を不幸にしていたわけじゃないから」
 ゆいるが鈴となった疫病神に言う。
「あんた、甘いわ! 今日はうまいこといったかもしれへんけれど次はそう簡単にはいかへんで!!」
 佐保子はそう叫ぶと部屋を出て行った。ほかの二人も部員たちに頭を下げてから出て行った。
「ゆいるやったじゃん!」
 しのぶ子がそう言って抱きつく。
「タマの鈴とはねぇ。やるじゃない」
 田中がうっふん、と言って、タマののどをなでる。タマはのどを鳴らしていいのかどうか悩んだ。
「あら。やだ。タマ。あたしを嫌ってるの?」
“そうじゃなくて・・・”
 この複雑な心境をどう説明して言い代わらないタマは一応のどを鳴らし始めた。ゆいるは自分髪を結んでいたリボンをとって鈴を通すとまたタマの首につけた。
「わぁ。タマかわいいよ」
“ほんと? ゆいるちゃん。うれしいよ”
 疫病神事件は一件落着し、またのんびりとした御伽高校文芸部にもどった。
 次にゆいるが力を発揮するのはいつのことか、それは誰にもわからなかった。
 


あとがき
そう。ゆいるはポニーテイルをしている。のを、イラストではロングヘアのまま。今度から見出し画像作り直そうかしらね。相変わらず、冷房病の私です。思考ができない。ということでここまで読んでくださってありがとうございました。

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