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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(32)

前話

「ゼルマは以前はどうやって友達を作っていたのですか?」
 お母様の問いにうーん、と答える。戻る前のゼルマの記憶はほぼない。戻ってきてからか、瀬里の記憶になる。
「昔、学校へ行っていました」
「学校、ね。それではゼルマの故郷でも?」
「いえ」
 言葉少なに答える。
「過去世なのね」
「はい」
 私は顔がうつむき加減になる。
「この世界の貴族には行く学校がないのよ。勉強は家庭教師や神殿の神官に教わりますからね。それは辛かったですね。あっという間にこの国に来て、宮に放り込まれたのですものね」
「でも、貴族ってそんなものなのでしょう? お母様」
「そうね。でも、ゼルマは婚礼を無事挙げる事ができれば、街の学校へ行きましょう」
 お母様の言葉に一同、あっけにとられる。だって、国中に顔を見られた王太子妃が街中の学校なんて。しかも、新妻よ。
「母上、その前に俺たちはしなければならないことがあるんです」
「ええ。学校に行かなくても女官達が気を遣って友達になってくれていますわ。今更、行っても年上の新妻ですから、周りの子には刺激が強いでしょう」
「それもそうね・・・」
 お母様が思案する。そして、思い出したかのように聞く。
「しなくてはならないこと、とはなんですか?」
「レテ姫を現と夢の番人から解放することです。そして闇の物語師達を止めないと、野望の言いなりになります。私はそちらの方が気になります。レテ姫はおそらく、最大限の力で私を護ってくれています。おそらく、自殺の記述ができないのもレテ姫が再考するように止めてくれたのです。そして、陰謀の事も知らせてくれたのもレテ姫の力です。大神官様様の本に記述できるとすればレテ姫が力を添えたからでしょう」
「レテ姫の事ばかりに捕らわれてばかりいませんか? 大事なのはあなた。ゼルマがこれから平和に生きていくことですよ?」
「そのために行かないといけないのです。闇の物語師を壊滅させ、新たな物語師の系譜をつなぐことが私とウルガーの使命なんです」
 それだけは譲れなかった。あの幼い日のままで時間が止まってしまったレテ姫。父のとの約束を守り、ひたすら癒やされることなく、孤独な時間を送る、あまりにも幼い姫。護りたかった。ウルガーに大切な日々をくれ、私をまた送り出してくれた姫。私にはレテ姫への愛があった。
「あなた達は、本当に似てるのね。同じ思いを持っている」
 じっと、お母様は私の目を見つめる。私は頷く。
「まずはこのインフルの企みを回避することが第一ですね」
「インフルとはインフルエンザの亊?」
「はい。省略してそう言います。とにかくあの文章が消えないことには。それにインフルはワクチンが有効なんです。ウルガーにがんばってもらわないと」
「ウルガーが?」
「はい。飲み薬はもう完成していると聞きました。でも量産できるかはわかりません。事前に予防できれば、薬が少なくてもすみます。特に小さな子がかかるんです。いろんなタイプがあって、その年の流行するものを予想して作るのです。でも、一度は止めてもらわないといつまで経っても婚礼の日はきませんわ」
「ゼルマ。そう言って最初の患者になるつもり?」
 じと、とウルガーが見る。
「まさか。あんな頭痛のする風邪は御免被りたいわ」
「そういえば、インフルエンザの症状を聞いていませんでしたね。どんな病なのですか?」
「母上。母上は医者ではありませんよ」
 さすが、ウルガーの母親。医療には興味があるみたい。
「わかってますが、聞いていれば覚悟ができるでしょう」
 お母様の言葉にウルガーは頭を抱える。
「この親にしてこの子あり」
 イーロと私のいじりが一致した。小さな笑いが起きた、昼下がりだった
しばらく、私達はただなんでもなくしょうもない事をつらつらしゃべりながら果物を食べていた。
 そして、はたと気づく。持ち込むウィルスは別の形で国のどこかに持ち込まれたかもしれない、と。ウルガーと私は顔を見合わせると脱兎の如く大神官様の元へ走った。お母様とイーロも後に続く。
「大神官様!」
「どうなさった。王太子殿下も妃殿下も」
「あの本見せてください!」
「はて。あの本? ああ、ゼルマの病の事を書かれていた本じゃな?」
「はい!」
 口をそろえて頷く。
大神官様が本を開く。そこには私は死なず、国にインフルエンザが大流行したと記述が変わっていた。
「ウルガー、早く王宮へ戻らないと!」
 焦る私の肩をウルガーは押さえる。
「ゼルマはここにいて。フローラとエーヴィーとマティアス兄上をこちらに避難させる。この宮の主人は君だ。必ず、クラーラ達を守れ」
こんな時に限って、またかくまわれるの? 私にだって・・・。思考は突然止まった。まさか!
「そう。やっぱり君は聡明だね。そうやって君を引き出して感染させるつもりかもしれない。これは警告だ。国と君への。俺はワクチンための血清をとらないといけない。レテ姫の父君はこの国を滅ぼすことが目的だったね?」
 ええ、とあの会話を思い出す。
「なら、その父君の好機だ。それを俺と大神官様なら阻むことができる。君はフローラ達を支えるんだ。母上もここに置いていく。国王に何かあれば施政者は母上だ。宰相の兄上ではない。家族を守ってくれ」
 強い視線でウルガーが見る。私は覚悟を決めた。
「薬を少数だけでも置いていって。ここで発症する人がいるかもしれないわ。それと乳幼児用に水薬も。一番弱いのはクラーラとアイリよ」
「わかった。その作成が終わり次第俺と大神官様は首都に向かう。母上、ゼルマを頼みます」
「わかってます。あなたも気をつけて」
 毅然としてお母様は答えていた。これが国母の姿。国王と離ればなれになっているのに。折れそうな心を抱えて私は足に力を入れた。そしてウルガーの頬にちゅーをする。
「絶対、生き残って」
「わかってる。俺のゼルマ。俺だけの光」
 そう言って予告なしのちゅーをウルガーはしたのだった。


あとがき
やっぱりちゅーなんだなぁと思う今日この頃。この二人にはこれしか語彙がない。兄ちゃんたちにはあるけれど。新連載部分にどういうの? と聞かれたゼルマ答えられないというので思わず、こっちもか。と呆れました。最近、執筆の手が止まっていていろいろと載せられないでいます。冬季鬱のようなものがあるようで。今日も半日寝て半日パソコンデスクの整理でした。執筆時間ゼロ。次にどんな話にするのかも決めてないので、社交界のデビュー編でも入れようかと思います。そんなことせずともいいのですが、貴族はいるんですよね。そういうの。一応王太子妃ですから。お友達が増えたたら怖い。話が広がる。同じように降下現象の子がいればまた話も変わりますし。ライバルは昔に消えたし。出ないと思うのですけどね。王族はほぼ出演済みなのであとは、まわりだけ。周りもほぼ親族ですから。また名前の量産が。いやだー。昨日フローラの子供の名前一個決めたところなのに。それではここまで読んでくださってありがとうございました。また、明日。

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