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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(40)再編集版

前話

「アーダ! エルノー!」
 華の宮に大量のナスを持って帰還する。アーダはその量に愕然としていた。
「どれだけ収穫なさったのですか!」
「タピオとクルヴァに聞いて。さぁ、台所に持っていくわよ。二人とも。とっても素敵な料理長がいるのよ」
「行くー」
「僕もー」
 カルガモの子よろしく、ウルガーとタピオ達をぞろぞろつけて台所へ向かう。
「料理長ー。ナス料理山ほど作ってー。みんなも食べれるわよ」
 どさっと収穫したナスのカゴを置く。
「こんなに。一体どうやって・・・」
 料理長がぽかん、と口を開けている。
「それは弟達に聞いて。みんなも、まかないでもなんでもして食べていいわよ。家に持って帰ってもいいし」
 私の言葉に料理人達がわっと沸く。
「ゼルマ。大盤振る舞いだな」
「だって。そうでもしなきゃ、減らないわよ」
「それもそうだ」
「兄上、大兄様にも配達」
 クルヴァが思い出したかのように言う。
「いいの。きっと兄上も俺からなんて欲しくないさ」
「ダーメ!」
 私とタピオ達の声が重なる。
「じゃ、料理長ここから少し宮殿にも持っていくわ。いい?」
「ええ。この量はとても消費しきれませんから、どうぞ」
「じゃ。遠慮無く」
 私とタピオとクルヴァはまた少しナスを抱えるとウルガーに押しつける。
「兄上!」
 クルヴァがお母様そっくりの調子で言う。
「わかったから。こんなに多くては兄上もびっくりする。これぐらいでいいよ」
 弟達からもらうとまた宮殿に向かう。
「兄上?」
 どうも執務室らしき所にウルガーは行く。私達もぞろぞろ着いてきていた。
「どうした? う、ウルガー?」
 ダーウィット様の目が点になっていた。この方こんな表情もするんだわ。
「父上の菜園のナスです。大量に収穫したので兄上にも、といろいろな人間が・・・」
「タピオも言ったー」
「クルヴァもー」
「そうか。ありがとう。二人とも。不自由はないか? 母御を亡くされて寂しいだろう。もうしばらくはこの国にいるから、遊びにくるがよい」
「ほんと!」
「お仕事の邪魔にならない?」
 タピオは喜んだが、クルヴァは心配そうに言う。
「その仕事はウルガーが引き継ぐから大兄は暇になるよ」
「兄上! 本当に退かれるのですか?」
「どこかの国でのんびり暮らすよ。このニーナとな」
 そばかすが少し残ったメガネの女性がそこにいた。
「母がカンカンでな。この宮廷に出てくるまでに逃げる」
「ニーナお姉様。どうしても出られるのですか?」
「ええ。私の家族も反対してるけれど、こうでもしないとダーウィット様とは・・・」
 悲しそうにうつむくニーナお姉様の肩をダーウィット様は引き寄せる。
「その件、私達も絡んでいいですか?」
「ゼルマ! どうするんだ!」
「それは実際になってみないと解らないわ。明日から作戦会議ね。菜園と」
 ああ、とウルガーが額を押させる。
「また婚礼が延びた」
「まだ、この子達の心は傷ついているわ。そんな中でしても・・・」
「はいはい。わかりました。明日から、な。朝、大兄のここで集合だ。いいな、タピオ、クルヴァ」
「はい!」
 二人が見事にハモって、ダーウィット様達は驚きの目で見ていた。
朝から賑やかなキンモクセイの宮になった。ウルガーはダーウィット様の執務室の前で集合と言っていたのに、いつものように朝食にやってきて、近寄りがたかった兄と会えるときゃっきゃとはしゃいでいた。
「いいこと。この話しはとーっても大事なお話なの。勝手に話したり、はしゃぐだけなら仲間から外しますからね」
 お母様のように言うと、双子の弟達はぴしり、と動きを止める。そしてじっと私を見つめる。
「もう。見つめたって何もでてこないわよ。とにかく、昨日、ウルガーが言ったようにあちらで話すのよ。ここでは一切話さないこと」
「はい! 姉上」
 見事なハモりようで双子は答えると朝餉の席に座る。そしていつもの朝が始まる。
「頂きます」
「頂きます」
 見慣れた朝食の光景。あつあつのマティアスお兄様とエーヴィーお姉様もいるし、フローラお姉様達は娘を連れてまで来て一緒に食べている。もちろん、お父様も。
「フローラお姉様。屋敷の料理人が泣きますよ」
「大丈夫。ここで修行している人を預かっているから、同じメニューをどこでも食べれるのよ」
 思わず、額を抑えたくなる。それぞれ家庭を持ってもこのシスコンは治らないのか、と。
「それでは、なおのこと、修行に手を貸してあげれば良いのに」
「そうよ。ウルガーもっとお姉様に言って」
「あら。大丈夫よ。その子達もこちらの料理場で修行してるから」
 ああ言えば、こう言う。って、私もね。勝手にダーウィット様の恋路に手をかけたのだから。さて、どうしましょうか。
 考えていると、タピオの声が聞こえる。
「姉上。ご飯、いらないの? 食べていい?」
「え? ああ。忘れてた。朝食。タピオにはあーげない」
「えー」
 タピオが不満げに言う。
「お代わりなら大お母様と一緒にもらいに行きましょう。料理長が喜びますよ」
 お母様が席を立つ。今日はヨハネスお父様までいる。流石にダーウィット様とニーナお姉様はいないけれど。ニーナお姉様は今はダーウィット様と一緒みたい。実家を追い出されたような感じだった。いいところのお出のようだけど。どこかで見たような顔だった。でももっと年の経た方の様な気が・・・。
「ゼルマ。また手が止まってるよ」
「あ。ごめんなさい。物思いをすぐしてしまって」
「今日のゼルマの心はどこにあるの? 俺にあるよね?」
 ちらちらと嫉妬しているウルガーを見てると笑いがこみ上げる。
「何、笑っているの」
 ウルガーがムッとしている。
「嫉妬してるからよ。私の心は何時もあなたの中よ。ちょっと考え事しただけで嫉妬するなんて、面白くて。ウルガー可愛い」
 思わず頭を撫でたくなる。そこまですると流石にウルガーが怒るからやらないけれど。
「さて、腹が減っては戦はできぬ、ってね。いただきまーす」
 遅ればせながら私は朝食を食べ始めた。

「で。どうして、私とニーナまで土いじりをしなくてはならないのか?」
 ここはヨハネスお父様の菜園。今日も朝から収穫している。今度は菜っ葉を根っこから引っ張っていた。名前は聞いたことのない野菜だった。双子の弟達はやっきになって引っ張っている。そのすぐ側から尻餅をついては笑っている。その純粋な表情に私は癒やされていた。
「そう。その表情だったのだ。肖像画のゼルマ姫は」
「え?」
 思わず聞き返す。
「純真な光がゼルマ姫にはあった。それに私もウルガーも惹かれたのだろうね。今ではこのニーナのそばかすが大好きだけど」
 そう言ってニーナにちゅーする。ニーナもまんざらではなさそうだ。嬉しそうな表情をする。さすが、大人の恋愛。私達とは格が違うわ。
「ゼルマ。俺達もちゅー」
「いたしません、っと。この菜っ葉、しぶといわね」
「それはこうするといい」
 ヨハネスお父様の指導が入る。
「あ。なるほど」
「ゼルマー」
 ウルガーがしつこい。
「はい。ほっぺにちゅー」
「お口がいいー」
「それは二人きりの時だけ! と。この菜っ葉も手強いわね。タピオ! クルヴァ! 手を貸して!」
 ウルガーはちゅー病にかかって助けにならないので、弟達を呼ぶ。慣れたものね。義理の間柄なのに、今では実の弟状態。
「姉上! タピオ引っ張るー」
「クルヴァも」
 三人で引っこ抜くとなにやら白い物体が着いていた。
「これ、大根じゃ・・・」
「あ。そっちの畝は違う野菜だ。菜っ葉はこっちだ」
「で、私達の件は・・・」
「それはこの収穫が終わってから! お父様、今、そっちに行きます!」
 土にまみれて半日格闘する。ダーウィットお兄様もニーナお姉様も気晴らしになったようで、笑顔が浮かんでいた。ただ、一人、苦虫をかみつぶしたような顔をしていたのはウルガーだけだった。どうやら嫉妬の炎に点火したみたい。弟までに嫉妬してれば将来の子供にも嫉妬するんじゃないかしら。
「そうだよ。子供と一緒に取り合うんだよ」
「ウルガー!」
 いつの間にか隣にウルガーがいた。弟達はダーウィットお兄様とニーナお姉様のところにいる。死角になっている所でウルガーは我慢の尾が切れたのか、予告なしのちゅーをしてきた。さすがに避けようがなく、ほんの少し、恋人気分を味わった。だけど、すぐタピオ達が呼んでいる声が聞こえてウルガーはうなりつつ私の手を取って弟達の方に行く。やっぱり、弟のことは大事に思っているみたい。
「兄の恋路を邪魔するなー」 
 ウルガーはタピオ達とじゃれ合う。
「大兄上。恋路って何?」
 クルヴァが聞く。ダーウィットお兄様がしたり顔で答える。
「一番大事にしたい人が現れることだよ。これは父上の言葉をそのまま言ってるけれどね」
「父上も恋路してるの?」
「大お母様にな。今では妻は一人になった。お前達も一番大事な人と幸せになりなさい」
「タピオ、一番大事にしているの姉上ー」
「僕も」
 弟達の爆弾発言にいきり立つウルガーを見て笑ってしまう。
「ウルガー。流石にその年の差婚はないわよ」
 そう言って予告なしのちゅーをプレゼントする。
「もう。子供でもいるんじゃないか?」
「いません!」
 二人同時に叫ぶとダーウィットお兄様が笑う。こんな笑い方するのね、と見てしまう。ウルガーにもその面影があった。
「やっぱりあなたのお兄様ね。そっくりだわ」
「俺は兄上とは違う」
「違うけれど血筋は争えないわよ。面影がしっかりあるわ。私の大好きなウルガーの一つよ」
 そう言って今度は頬にちゅーをプレゼントする。
「ゼルマー。愛してるー」
 そう言って抱きついてきたのを避ける。しっかりお父様の菜園の土とウルガーはちゅーをして、笑いが生まれたのだった。そして私とウルガーはしっかり恋に狂っている恋人達というレッテルをお兄様から頂いたのだった。

私達はヨハネスお父様の書斎に集まっていた。ニーナお姉様が信じがたいことに水道管を壊したので、当分、宮殿住まいのお母様達も華の宮に行く事にもなるけれど、その前に、ニーナお姉様とダーウィットお兄様の今後の作戦会議が必要だった。いい案がでない。私も絡ませてもらったけれど、アデーレ様の人柄を聞くと「愛し合ってるんです」は通用しないと思った。
「既成事実を作る」
 は?
 ウルガーの言葉に私は耳を疑った。それはお手つき説を本当にすることだった。まぁ、バイオレットウッドの式だけでもいいかと、同意する。ニーナお姉様はびっくり仰天している。そりゃそうだわ。いきなり婚礼にもなりそうなんだから。お母様も同調して私の婚礼のものを回し始めている。流石に婚礼衣装は無事だったけれど。

 とにもかくにも急遽、バイオレットの式と婚礼の式が行われることとなった。

 お母様の婚礼衣装を借りて同時にバイオレットウッドの式と婚礼の式が始まる。

 後ろで見ていた私は素敵な婚礼にぽーっと見とれている。そんな私をウルガーが面白そうに見ている。
「そんなに婚礼がしたかったらすればいいのに」
「そういうわけにはいかないの」
 こそこそ話しているとお母様が一睨みする。
 すみません、と目礼するとよろしい、とでもいうような視線がやってきた。
「やれやれ」
 ぼやくウルガーに肘鉄を食らわす。

 式が終わった頃、宮殿にアデーレ様がやって来たと侍従の方が報告していた。私達はさっさと華の宮のバラの宮に二人を押し込むと何でも無い顔をしてアデーレ様と面会した。お父様がよりいっそう威厳高く見える。やはり、どんなに優しい方でも国王という職に就くと自然と厳しい態度も取らざるを得ないのだ、と思う。
「遅かったな。アデーレ。ダーウィットとニーナはもう婚礼の式を挙げた。バイオレットウッドの式も、な。その重要性は解っておろう」
「ですが、陛下。私はダーウィットの実母です。婚礼相手を見る資格があります」
 後ろに怒りの炎が見えた気がする。
「ウルガー王子は王太子を廃嫡なさるおつもりだったのでは? ならば長男のダーウィットが王太子となり、それ相応の女性と婚礼するはずではないのですか?」
「ニーナの家はもと公爵家。身分は釣り合っている。その家系は我が王室とも同じ。それを聞いてもそれ相応の女性というのか?」
 はい、とアデーレ様が言う。
「そこにいるゼルマ姫がニーナという女性よりも釣り合っております」
「それももう、遅い。ウルガーとバイオレットウッドの式を挙げた。そして我が国の未曾有の流行病をおさめた二人。二人の間を裂くことは国王の私が許さぬ」
 きっぱりはっきり言われたアデーレ様は悔しげに唇をかみしめていた。
 そして立ち上がる。
「わたくしは帰ります。ダーウィットにも二度と会いません。あんな不出来な息子を息子とも思いたくもありませんから」
 その言葉に誰もが反射的にいきり立った。お母様がアデーレ様の頬を叩く。
「母ならば息子の選んだ人を信じなさい。あなたの息子はこの国になくてはならない逸材。それが気に入らぬなら孫も見るのも諦めなさい」
「ええ。そうしますとも。ベアトリス様。すべて、わたくしは放棄いたします。勝手にしてますわ。さようなら。陛下」
 さようなら、と言った時によぎったものは何だったんだろうか。憎しみでも無かった。正妃になれなかった悲しさだろうか。息子と絶縁する悲しみだろうか。とにもかくにもなんらかの哀しみがアデーレ様の瞳に現れていた。
「アデーレ様。孫だけは見に来てあげてください。言えた義理ではないですが、赤ちゃんはアデーレ様を必要とします。一度だけでも見てあげてください」
 思わず声をかけたけれど、ちらとも見ず、アデーレ様は去って行った。

 こうして、宰相殿下と王太子の確執に幕が下りたのだった。


あとがき
この兄弟紛争のスピンオフストーリーが超ショートショートであります。再編集版は一から十まで入ってしまいましたが、連載時には間に入っていたのでした。明日からは構成を考えつつスピンオフをお届けします。電車で更新できるよう設定しておかなきゃ。週末にはハイスペックPCが買える。やった~。その合図を待ってるんですけどね。明日かも。しかしハイスペックになるとPCの本体の色が黒になると初めて知りました。白がいいよー。そしてちまたで人気のCPUの違いも聞きました。最近はゲーミング用なのね。値下げの週末を待つ。ここまで長々と読んでいただきありがとうございました。

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