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【千字掌編】土曜の月と鈴虫と……。(土曜日の夜には……。#16)

 夏も盛りかと思う頃にもう、立秋がやってきて、夕涼みにアパートのベランダに出てみると、りんりんと虫の声が聞こえる。
 猛暑。外での運藤は中止してくださいと言われている昨今。それでも季節は秋に向かっているのだ、とさやかは実感させられる。
 
 夕闇の中、行き慣れた近くの公園に行く。まさしく、秋声。夏の暑さを物ともせず、虫たちは愛を奏でていた。
 適齢期を過ぎたさやかにはそれは寂しく聞こえた。恋をすることなく大人になったさやか。どうやって出会って結婚するのか今でも謎だ。そんな物思いをしていると、やにわにかさかさと大きな音が聞こえる。
「誰?」
 思わず詰問してしまう。
「あ。すみません。鈴虫取りに夢中で……」
 虫かごに虫を捕る網。そんな子供の姿がいきなりいい大人に変化していた。
「鈴虫、お好きなんですね。鈴虫寺はご存じですか? 一年中鳴いているそうですよ」
「一年中?」
 あまり光の中で表情が読めないが男性の顔が明るくなる。
「でも、その鈴虫寺、お茶菓子に死んだ鈴虫を粉にして入れているそうですよ」
「えっ!?」
 男性の顔が驚きに満ちる。
「ウソですよ。鈴虫寺のウソの受け売りです。行かれたことないんですか?」
「そんな時間がないのと知らなくて。鈴虫は好きですが、寺のことまでは……」
「ま。マニアックなお寺ですから。でも一生に一つだけお願いを叶えてくださるそうですよ」
「一生に一つだけ……」
 じっと男性はさやかを見る。
「何か?」
「あなたのような素敵な人と出会えたのも仏の縁かなーと。まるであの月のように美しい」
「褒めたって何も出ないですよー」
「だたの一生のお願いの例です。って。あ」
 意味合いによってはプロポーズの様な物だ。
「いいですよ」
 ふいに、さやかの声が静かな公園に落ちた。
「って。私達、いわゆる、ゼロ日婚しようとしてませんか?」
 焦ったさやかが取り繕う。
「ですね」
 男性も慌てている。真意と建前が揃わないのだ。
「いつか。いつか、一緒に鈴虫寺に一緒に行きませんか? 一生にひとつのお願いをしに」
 ようやく落ち着いた男性が言う。さやかは穏やかな声で答える。
「いいですよ。その時は指輪下さいね。って、やっぱり、私達ゼロ日婚しようとしてますね」
「それには名前を名乗らないと。私は秋月元」
「あら。月は秋の季語で、秋はつけなくて良いのに。秋秋って言っていますね。私は森さやか。名前は平仮名なので幼稚園の頃から平仮名のお付き合いですよ」
「可愛い名前だ」
「またまたー。褒めても何も出ませんよー」
「もれなくさやかさんが一緒に鈴虫寺に行ってくれます」
「あら。やられましたわ」
 ころころと鈴虫の如く笑い声を上げるさやかである。

 秋には肩の隣が寒くなる季節。
 その季節が完全に来る前に二人は遅い春を迎えていた。
 月と鈴虫を証人に。
 
 土曜の夜の公園には恋が落ちていた。


あとがき
一応、題材探しに時間が無くてChatGPTさんに初秋の季語と指定して適当に提案してもらってその中から鈴虫と月と「さやか」という名前と「鈴虫取りに夢中な男性」というネタだけ借りて、かき上げました。もっと早く、月の話が来るはずだったのに最後の最後にきて月の話という。月と単に書けば、俳句では秋なんですよ。それをChatGPTさんは知らなかった。「秋月」というキーワードを出してきた。いちいち訂正すると訂正版のショートショート書かれてしまったけれど、私はその話をまったく取り上げず、こんな話になってしまった。たしかにChatGPTさんの話は美しい。だけど、自動生成には頼る気ない。あくまでも自分の手で、が基本です。アンチ自動生成です。ネタをもらっても設定をもらっても自分なりの言葉で解釈し、書く。そうすると己の体験談も生きてくる。俳句は今はお休み中だけど、いずれまた再開する予定の趣味の一つ。経済的な17文字です。俳句愛はこの辺に。土曜が出勤でころっと忘れておりました。鈴虫寺一度おいでませ。京都にありますよ。そして驚くあのあの話を交えた法話をお聞き下さいませ。とても思い出に残るお寺でした。

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