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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(26)再編集版

前話

  しかたなく言うとどうやって皿から取るか悩む。
「ゼルマはこういう食事はしたことないの?」
「たぶん。記憶が曖昧ね。昔、こんな事があったのかもしれないけれど・・・」
「じゃ、これがゼルマの分」
 小皿に山盛りされた料理を見て驚く。
「本当にこの量食べれるの?」
「口にしてみればわかるよ」
 一口、食べる。どこか優しくて懐の大きい、誰かのような味がした。胸が詰まって手が止まる。
「ゼルマ! つっかえたのかい?」
 あわてて背中を叩くウルガーにくすり、と笑う。
「懐かしい味がして感動したのよ。もう、大丈夫。ウルガーありがとう。ウルガーは心配性ね」
「君のことに関してはね」
「まぁ、お熱い亊。料理が無くなりますよ」
「だめー」
「俺も」
 二人して料理の虜になった私達だった。

私達は、しばらくマティアスお兄様の傷が少し良くなった頃、別荘と言われる木の宮に向かった。けが人を運べる奇妙な車に乗ってマティアスお兄様と一人の女性が乗り、その後に私達が続いた。マティアスお兄様の心の傷は深かった。お姉様が、その女性に任せておきなさい、というので任せておいた。傷口が深いと心を閉ざす。闇事愛する力が必要なのだ。その方も闇を持っておられるようだった。深い悲しみが少し見ただけで解った。ウルガーが黙って頷いたから私はその方には言葉をかけず、別の車に乗った。

 ある所まで来ると、うっそうとした森にでくわした。その向こうに木の宮があるという。そして木の宮はかつての首都だったと、ウルガーが話してくれた。こんな森の中が? と思ったけれど、一度、攻め込まれて今の宮殿の場所に居を構えて国を護ったため、しばらくこの木の宮は異邦人の都だったという。それも遥か昔の事。いつの間にか木の宮から異邦人は去り、またウルガーの一族が別荘として使うようになったらしい。
 黒い森に見えたそれは回り道をして木の宮に着くと防御になっていることに気づいた。火を放たれれば一巻の終わりだけれど、黒い森に囲まれて巧妙に存在が隠されていた。

車から降りるとマティアスお兄様があの女性と一緒に宮に向かっていく。私はどうしたらいいのか解らずに、たたずんでいるとウルガーが手を取る。
「ここは木の宮と言うだけあっって宮の一室一室に木の名前が付いている。ゼルマはどこがいい? タモの宮なんでどう? 樹木言葉というのがあってね。タモは『幸福な日々、未来への憧れ』を意味してるんだよ。君にぴったりだ」
「そういうウルガーもね」
 ウルガーが幸せを祈ってくれているのを知ってすごく嬉しくて幸せな気分になる。お互いの額をごっつんこする。にぱ、っと笑い合う。
「お熱いこと。ゼルマ、ウルガー。タモの宮を使うのはいいですが、寝台の部屋へは鍵をかけますからね」
 う、とウルガーが固まっている。男の煩悩ってやつかしら。それが面白くてつんつんつつく。
「俺で遊ぶな」
「だっておもしろんだもーん。ヘレーネ。行くわよ」
 私は愛犬と宮の入口へかけていく。その後をウルガーが追って、お姉様とお兄様はギャン泣きしているアイリとクラーラを抱っこして続く。陛下は仕事があるからと、養子になった方のお父様が着いてきた。お母様は陛下に浮気をしないようにと散々釘を刺して、一緒に来てくれた。アーダやアルバンも一緒だ。
 ここでまた新しい生活が始まった。

「さて。どの宮にしようかしら。タモはウルガーとデートするところだし」
 入口で思案していると、ウルガーが手を引く。
「君の宮はこっち」
 華の宮より一層複雑な木の宮を一緒に歩く。握っている手が温かい。ウルガーは生きてるのね。ちゃんと。なんとなくそんな事を思いながらついて行くと、一つの宮にたどり着いた。
「ミムラサキの宮。樹木言葉は『聡明』、『愛され上手』。ぴったりだよ」
「って。私は賢くないし、愛され上手でもないわ」
「何言ってるの。俺の闇をいち早く察して救ってくれた人はゼルマだけなんだよ。ゼルマの聡明な目がなければ俺は闇に埋もれて死んでいった所だった」
 ウルガーがふっと抱き寄せる。
「ウルガー」
 名を呼ぶしかできなかった。だけどもう一つ言いたい言葉があった。
「愛してる。大好きよ。ウルガー」
「ゼルマ。俺の女神。俺も愛している」
 顔がなんとなく近づいたとき、これ、とお母様の声がかかった。ばっと離れる。振り向くとマティアスお兄様と女性以外が見ていた。
「お姉様! 見てるなら止めて下さい!」
「いえ、とってもいい雰囲気だったから」
 乳幼児を抱いてにこにこだ。顔が険しいのはお母様だけ。
「別荘に来るより、婚礼のパレードがよかったかしらね」
 ぶんぶん、と私は首を横に振る。まだ、本が読み終わっていない。それほど分厚いのだ。
「いちゃいちゃするのはいいけれど、一線を越えてはダメですよ。特にウルガー。あなたが年上なのだからちゃんと紳士として振る舞いなさい」
 図星に頭をぽりぽりかく。
「反省してます。浮かれすぎてました。兄上が大変なと時に・・・」
「マティアスの事は放っておいて大丈夫です。エーヴィー、がきっと愛の力で更生させますよ」
「エーヴィーと仰る方なのですね。私にとっても大事なお姉様が一人増えるのね。でもあの悲しみに満ちた目を見ると放っておけません。私達にもマティアスお兄様とエーヴィーと会える時間を作って下さい」
 私が言うとウルガーがこつん、と頭を殴る。
「また。ゼルマのお人好しが始まった。与えすぎてるよ。君は、いつも。たまには受け取る方もしないと」
「もう、十分もらったわ。ウルガーさえいればなんの不満もないわ」
 ウルガーが固まる。
「何か悪いこと言ったかしら?」
「その逆ですよ。殺し文句を言ったのです。この言葉でウルガーの頭には花が咲き乱れますよ」
 お母様の言葉にウルガーを見ると、しばらく固まっていた、ウルガーの表情が輝いていた。私を抱き上げてくるくる回す。
「やっぱり。ゼルマは最高の女性だ。誰もこの愛を引き裂けないよ」
「私達より熱いわね」
「お姉様! ウルガー離して」
「いやだね。もうしばらくゼルマを堪能させて」
 私を降ろすとぎゅっと抱きしめる。
「俺だけのゼルマだ。この木の宮では。タモの宮に早速行こう」
「これ!」
「今回ばかりは母上の声も通りません。安心して下さい。寝台の部屋には行きませんから」
 言うだけ言ってウルガーはタモの宮に私を連れて行くと、甘い時間を過ごしたのだった。あんなに甘い時間を送ったのは今までに無かった。後から思い出しても恥ずかしいぐらいだ。これをあの本に書くの? 渋っていたらウルガーが「タモの宮でちゅーしました」と書いて閉じてしまった。それからはお姉様達顔負けの情熱的な時間が過ぎていったのだった。

そして、身動きの出来ないマティアスお兄様はエーヴィーと一緒に夕食を取っている。私達はまた、いつもより一回り大きなテーブルを囲んで夕食を取っていた。相変わらず、私が「いただきます」と言わないと誰も手を着けない。
「たまにはウルガーが言ってよ」
「この宮の主人もゼルマだからね」
 へ?
「ここは王宮専属の別荘じゃないの?」
「も、あるけれど、後宮の役目も持っているんだ。だからゼルマが言うまで誰も食べないの」
「何? ただの別荘じゃないなんて。ウルガーどれ程後宮持ちなの?」
「あと、季節によって変る施設が二、三」
 王太子の大きな権力にびっくりする。
「ほら。アーダの料理が冷めるよ」
 口をぽかんと開けていたけれど、周りは私をじっと見ていた。
「あ。じゃぁ、いただきます」
 手を合わせて言うとみんなが真似して料理を食べ始める。大皿に盛っている田舎料理はいつもより美味しかった。
「ここの菜園で採れる野菜が美味しいのです」
 感想を言うとアーダが答える。
「えー。じゃぁ。華の宮にも菜園作りましょう。地産地消よ」
「なんですか? その地・・・なんとかは」
 お母様が聞く。
「その場で採れたものをその場で食べるという意味です。輸入に頼らず、自分達の食べ物は自分達で作るんです」
「あら。いいわね。陛下の趣味は菜園よ。これを聞けばもっと範囲を広めそうね」
「お父様が菜園を・・・。お忙しいのに」
「雑草を抜いている無心の心が好きなんだそうよ。華の宮の菜園はゼルマとウルガーにまかせるわ。地産地消、ね」
 ウルガーが苦い顔をする。
「母上。今、一から農業をやれ、と言いましたね。王太子の仕事を放り出しますよ」
「代りはいくらでもいますよ。宰相の兄が腕を振るうところです」
「それならいいや。頭にお花咲かせてようっと。ゼルマ、あとで菜園の話しを聞きに行こう」
「ええ」
 幸せな時間が流れている。ここにマティアスお兄様とエーヴィーがいればいいのに。
「また。ゼルマは人の事ばかり考える。ゼルマは俺だけ見ていればいいの」
「でも、マティアスお兄様、二人きりの食事なんてさみしすぎるわ」
「大丈夫ですよ。悲しみを抱えたもの同士心通わすものがあるかもしれません。そのためにここに来て二人きりにしてるのですから」
 お母様が太鼓判を押す。
「そうね。あのお二方は深い悲しみをもっていらっしゃるわ。まるで、この夜が真っ暗になったかのように。お互い、話し合えば心が通じるのかもしれませんね」
 まぁ、とお母様とお姉様が声を上げる。
「ゼルマはそこまで見る事が出来るのね。すごいわ」
「流石はウルガーの闇を追い払った姫ね」
「そんな。大したことではないです。目を見ればわかります。どれほどつらい気持ちを持っているか。さ。料理が冷めます。食べましょ」
 マティアスお兄様とエーヴィーがどんな風に食べているか心配しながらも笑顔を浮かべ、安心させて料理を食べ始めた。ウルガーが、そっと耳打ちする。
「さすがは俺のゼルマだ」
「おだてたってちゅーはでませんよ」
「ちぇ」
 小さな笑いが起こった幸せな時間だった。

食事が終わると早速、タモの宮に行くと思えば、ウルガーは裏庭に出て、菜園を私に見せてくれた。
「わぁ。いっぱいお野菜が・・・」
「ここの管理をしているのはエルノーの一族から来た、イーロだよ」
「始めまして。ゼルマです」
「ゼルマ姫お初にお目にかかります。少しお加減が悪いとか・・・」
「精神的に少し参っただけよ。それよりマティアスお兄様の方は?」
「食事を残しがちです。エーヴィーも」
 イーロが心配そうに言う。
「二人で暗い話の中にいるのが悪いのかしら?」
 私はウルガーを振り返る。
「だが、まだ、起きて食べるには傷口が塞がっていない」
「好物はないの?」
「母上と一緒で桃が好きだ」
「じゃ、それを持って少しお伺いしてみましょうよ。外の世界に触れることも必要よ」
「そうだな。一度、お見舞いに行くか。イーロ、また菜園の作り方を教わりに来る。桃はあるかい?」
 イーロは優しく微笑むと桃を四個持ってきた。
「二個は王妃様に」
「まぁ。イーロも優しいのね。もちろん、お母様にも持っていくわ。ウルガー行きましょう」
 ああ、と言って四つの桃のうち二つを持つ。
「先に母上に持っていってどうすれば入れるか聞いてみよう」
「そうね」
 それが問題だわ。門前払いを食らうことだってあるもの。
「お母様ー」
 食事していた場所にお母様は編み物をしてヘレーネを従えていた。
「もう。ヘレーネったら。お母様にべったりで」
「散歩に連れて行くのが私が多かっただけですよ」
「ヘレーネ。おいで。アニマルセラピーよ。それからお母様に贈り物。桃を頂いたの。マティアスお兄様もお好きみただから、おわけしようと。扉があくはどうかはわかりませんが」
「そうね。好きなものなら食べれるかもしれないわね。ただ、あの二人はまだ悲しみの途中よ。あまりかき混ぜないことね」
「はい。拒否されればまたそっとしておきます。エーヴィーがどんな方かも知りたいのです」
 お母様の言葉に頷いて、私達はケヤキの宮に行く事にした。扉の前で緊張する。その片手をウルガーがぎゅっと握ってくれる。
「兄上。ウルガーとゼルマです。桃をお持ちしました」
 固く閉じられている扉が開くか開かないか。私は緊張で固まっていた。


あとがき
今日はこのひとつでお許しください。またも快適すぎるエアコンにて眠り病発症。なんとか起きて更新してます。執筆をしたいところですが、このまま素直に寝たほうがいいのかしら、と思って迷ってます。森の宮と木の宮。最初森にしてたのにいつの間にか木に代わっていて仕方ないので木に変えました。テキストエディタの一括変換は持っていないので。探さないと。とりあえず、おやすみなさい。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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