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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (25)再編集版

前話

 カシワの宮にとことこ歩く。 ウルガーはずっと大人しかった。あれだけ私を励まてくれたウルガーはいなかった。
「ね。アーダが田舎料理を作ってくれるのよ。私、すごく楽しみ」
 明るい声で言う。
「また、みんなで頂きますとごちそうさま、しようね」
 それを言うと少しウルガーがうつむき加減だった顔を上げた。
「ごめん。君に気を遣わせているね。一人きりなのに」
「あら。私にはお姉さま達がいるわ。友達だっていずれできるわ。お姉さまの友達を紹介してもらおうと思ってるの。社交の場にも出ると思うし」
「社交の場なんて友達作りなんてできないよ。みんな野心だらけなんだから」
「そうね。だったら、あなたのお兄様達の奥さん達を教えてもらおうかしら」
「それもどうかな。あと一人兄上がいるけれど、奥さんはいないからね。宰相を務めている。結構、父上と違って切れ者だよその話しは夜に。さぁ。お腹が空いたよ。早めの夕食にしよう」
「アーダに言わなきゃ」
「言われなくとも解っております。まずは、お菓子でも食べながらおしゃべりください」
 後ろからアーダの声が聞こえて私達はびっくりする。飛び上がるかと思った。
「アーダ!」
「ウルガー様は医術の後は大量に甘いものを取られますから。エルノーからしっかり聞いております」
「あらら。隠し事はできないわね。じゃ、テーブルと椅子を用意しなきゃ」
 空元気も元気の内とはしゃいで振る舞う私をウルガーは不思議そうに見る。
「ゼルマ?」
「なに?」
 思わず、泣きそうになるのをこらえる。
「馬鹿。気を遣わなくていいんだよ。俺は俺の事で少々しょげてるけれど、空元気を出す必要はない。何も見えてなかった俺が悪いんだ。ゼルマは悪くない」
 そう言って頭を抱き寄せる。泣くもんか、と思っているのに涙がぽろぽろこぼれる。
「私・・・。医術の心はあっても、助手すらできない。ウルガーの何の役にも立っていない。それが悲しいの。全部、私が悪いんだもの。私の無意識がそうさせてるんだもの。私が・・・」
 いなければ、という言葉はウルガーがぎゅっと抱きしめて言えなかった。
「ゼルマのせいじゃない。無意識って大きな範囲をカバーするものがあるんだろう。個人の責任じゃ無い。むしろ、その大きな無意識を使って君を危ない目にさせている。色んな思惑が交差してるんだ。頼むからもう、意識の世界に戻らないでくれ」
 ウルガーの必死の言葉が伝わってくる。私は、この世界から去らないといけないと思っていた。そのためにすることは死。死ぬことだった。それをウルガーはさっ、と察してしまった。またウルガーを苦しめている。
「ごめん、なさい」
「いいよ。死ななきゃ。ゼルマの過去世に戻らないでくれ。それは何十年も後の老人になってからにしてくれ。ひ孫や孫を見せてくれ。ゼルマなしで俺はもう生きていけない」
「ごめん」
 それしか言葉は出なかった。ひたすら、謝ってまた涙をぽろぽろ流していた。

「ゼルマ。そんなに思い詰めないで。この世界は君の意思で動いているわけじゃ無いんだから」
「なら、どうして性善説をとってしまうの? 普通ならお兄様がウルガーの命を狙ってエルナが悲しむんじゃ無いの? 私の頭が単純だから性善説になっているのよ。悪は悪。正義は正義って決ってるじゃ無い。世の中そんなにうまくいくものじゃないわ。私が悪いのよ」
 とっさに宮を出て行こうとするのをウルガーが止める。
「ゼルマは少し、休養が必要だね。婚礼を延ばそう。それから、別荘地に行こう。父や母しか知らない別荘に。二人きりが怖いなら姉上達の育児の場にしてもいい。母上も来てもらって。ゼルマには休養が必要だ」
「ウルガー! 王太子が逃げちゃダメだわ。私はここにいるから」
「そうして毎日浮かない顔をして一人で泣くの?」
 ウルガーが言う。言葉が無かった。もう。ウルガーに泣き顔を見せたくなかった。もう消えてしまいたかった。それが表情に出ていたのだろうか。ウルガーがまたぎゅっと、抱きしめる。
「ゼルマ。お願いだから過去世に戻らないで。俺を置いていかないで。俺が俺でいられるのはゼルマのおかげだ。君が闇を追い払ってくれているから生きていられるんだ。君を失えば俺はきっとどこかさ迷って死んでるだろう」
 ウルガー死ぬ・・・。これほど怖いことは無かった。ぎゅっと抱きつく。
「お願い。ウルガー、死なないで。ウルガーがいなかったら私はどこにも行くところが無い。心中してしまうわ」
「心中?」
「二人で死ぬ事よ。よくある事よ」
「それも、いいかもな」
 ウルガーが呟いたとたん、ばこん、とお盆が命中した。
「何言ってるのですか! ゼルマもウルガーも私の息子と娘。そうそう死なせるものですか」
「お母様・・・」
 お母様の目は本当に怒っていた。でも優しい母性もあった。私達の頭を抱き寄せる。
「別荘地に行って休養とあちあちしてなさい。一線は越えては成りませんが。私もフローラ達も一緒に生きます。子育てに格好の居場所を思い出させてくれたわね。さ。ウルガー、角砂糖と溶かした水ですよ。飲みなさい」
「はぁ」
 お盆直撃で思考回路が止まったウルガーが出されたグラスを飲む。
「ああ。手術の後はこれだね。ちょっと喉にひっかるけど。ゼルマも飲む?」
「遠慮しておくわ。ウェディングドレスが入らなかったら困るもの」
「そうそう。若者は常に未来を見てる者ですよ。心中などと考える亊は許しません」
「お母様」
「ゼルマは私にお母様としか言ってないわね。何か言うことはないの」
「ごめんなさい」
「それももう終わったわ」
「それじゃ・・・お母様大好き・・・?」

「よく出来ました。母を求める気持ちはいずれ母になってから変りますよ。今は母や婚約者に甘えなさい。この華の宮もキンモクセイの宮を改修し直さねば成りませんからね。お札も無駄になってしまったわね」
「いいんです。気休めだから」
「ゼルマ?」
 ウルガーが不思議そうに聞く。
「お札の効力はすでに入ってる者には効かないんでしょ。宮殿か別荘地が安全よ。もう入り込んでるかもしれないし。エレナのように」
「そうだたったね。しばらく、婚約期間を延ばそう。ゼルマの心の傷が癒えるまで。それからデートをするんだ。たくさん。歯の浮くような言葉をささやかせて欲しいな」
「ちょっ。ウルガー!」
 ばこーん。
 お姉様のお盆が飛んできた。
「私の妹に変な事を吹き込まないで下さいませ」
「この時間差のお盆なんとかならない? ゼルマのお盆は今、宮殿だね?」
「そうだけど。ここに四枚のお盆があるから借りて突っ込めるわよ」
 にっこり笑って言うとウルガーは急にまた抱きしめる。
「ゼルマが笑った。俺はそれだけでいい。ゼルマの悲しい顔も涙も見たくない。自分を責める声も。この世界はゼルマの無意識だけじゃ無くていろんな無意識が介在している。それは、もう解ってるんだ。そうでなければこれだけ陰謀がでるわけない。ゼルマは書いてないんだから。物語師達が動き始めているだよ」
「でもマティアスお兄様の治療はどうするの?」
「兄上も連れて行く。きっと兄上も闇を抱えてしまっている。傷が癒えるまで別荘で暮らそう。アーダの田舎料理で楽しもう。お菓子もいろいろ作ってくれるよ」
「お兄様の心に寄り添える女性がいれば・・・」
「いるわよ」
 フローラお姉様の声にはっと顔を上げる。
「マティアス様に恋い焦がれている友達が一人いるの。侯爵家のご息女よ。身分的にも性格的にもぴったりだわ。彼女も一度結婚に失敗してるの。心の痛みがわかる人よ」
「お姉様! 絶対その人捕まえてきて!」
「可愛い妹のお願いならいくらでも聞くわよ」
「お姉様大好き!」
 ウルガーの腕の中から出ようとしたけれど頑として離してくれない。
「ウルガー。お姉様に抱きつけないわ」
「それでいーの」
「さぁ。座りましょう。この丸いテーブルは何?」
 お母様が不思議そうに言う。
「みんなで一緒に食事を取るんです。ここの習慣となっています」
「あら。素敵ね。ゼルマはどこに座るの?」
 お母様がウキウキとしてテーブルを回る。いつしかウルガーと私はそんなお母様に救いを見いだしていた。

「このテーブルもしかして、小さい?」
 大皿に盛られたおかずを見ながら私は言う。
「椅子がキュウキュウよ」
「そうだなぁ。母上も父上もいるからなぁ。人数が増えた。エルノー、もう一回り大きいテーブルはあるかい?」
「はい。ご用意いたしております。お子様が増えたときのためにいくつかのものを運ばせております」
「じゃ、一番大きいヤツね」
「ちょっと。エルノー一人に持たせる気?」
 私がウルガーに肘鉄を食らわして文句を言う。
「解ってるよ。アウグスト兄上もお願いします」
「いいよ」
 若い男二人がテーブルを取りに行く。そのほかはご高齢なので言わない。それを察したのかお父様が苦笑いする。
「まだまだ、そこまでじぃじじゃないよ。ゼルマ」
 そう言って後を追いかける。それを見ると陛下が腰を浮かせるけど、お母様に座り直さされる。
「あなたはもう十分じぃじですよ」
「男のプライドだ」
「しょうもないプライドなんて捨ててしまいなさい。ねぇ。フローラ、ゼルマ」
「は、はぁ」
 お姉様はお母様の言葉に困惑している。さすがに君主を老人扱い出来るのはお母様だけ。
「なぁに。みんなお父様の肩を持つの?」
 不満げに言うお母様に、すぐさまいえ、と姉妹の声が重なる。顔を見合わせて笑い合う。
「いい姉妹ね。私達。この子達もそんな姉妹になってくれるかしら」
 ゆりかごで寝ているアイリとクラーラを見てお姉様が言う。
「お姉様の子ですもの。きっと立派な可愛い子に育ちますわ」
「ゼルマのように素直な子になって欲しいわ」
「ダメです! 私に似ては。私なんて・・・」
 性格悪いし、嫉妬深いし、と言いかけたところにウルガー達が帰ってきた。
「ゼルマに似ちゃいけない理由ってなに?」
 ウルガーがいたずらっぽくと書ける。
「知らない! 答え解って聞いてるなんて」
「解らないよ。俺はゼルマがとってもいい姫だと思ってるのに本人はまったく思ってないんだから」
「ほら。答え知ってるじゃ無いのっ」
「まぁまぁ。痴話げんかおよしなさい。それよりテーブルを移動させますよ」
 お母様が指揮権を担う。
 全員でテーブルを取り替えてアーダの田舎料理が山ほど積まれたテーブルにびっくりする。
「本当に、これだけ食べれるの?」
「アーダの田舎料理は絶品だよ。さぁ。頂きます」
 ウルガーが頂きますの音頭を取る。
「頂きます」
 いつもの言葉が飛び交った食卓だった。


あとがき
ここ数か月使っていたスティックSSD。認識しなくなってきて、初期化してみたりいろいろしていて疲れました。結局、AC両用のメモリに変えてやり過ごすことになりました。ポータブルでは持ってるものの持ち運びの簡単なものだったので、ショックは人一倍。壊れたらうん十年分の書類が消えるー。もう、スティックSSDにはすまい、と基本に立ち返る。おかげでこれしか更新する余裕がない。今日はエアコンが新しくなったりとか気疲れしてしまい、ダウンです。もう寝よう。でも隠しておいてと頼んだポテチが台所に。誘惑が~。食べようかしら。自分のお金で買ってるし。とにかく、これだけ投げ込みます。ここまで読んで食いださってありがとうございました。

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