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【過去作連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (18)再編集版

これまでのお話

前話

 お父様の領地からお姉さま達と帰ってくるときつーいお怒りとお説教が来た。
「ゼルマ! あなたは世継ぎを産む国母となるのですよ。そのために婚礼の準備もしてきているのに、姉を助けに単身飛び込むなんてなんて危ないことを!」
「失礼ですが、ウルガーもお父様もいましたわ」
「屁理屈をこねるんじゃありません!」
 首を引っ込めるとふいに抱きしめられた。
「私のゼルマ。心臓が止まりそうになりましたよ。あなた達が単身取り返しに行ったと聞いて。ウルガーとヴァルトが一緒だからよかったものの。ヴァルトがいなかったらあなたは殺されていたのですよ。それなのにわざといくなんて。どうしてあなたは全てを投げ出せるのでしょう。ウルガーがあなたをそうさせるのね。強い絆が」
「お母様、私がこの世界にいるのは一時的だと知っていますね? それだけなのです。死んでもまた意識の世界に戻るだけ。死なんて私には意味がないもの。ただ、ウルガーにはもう闇の心を与えたくない。でもお姉様の体には赤ちゃんが・・・。板挟みでした。そして私はウルガーを捨てたのです。こんなひどい娘いませんよね。私、出て行きます」
 一人しゅん、となって出て行きかけた私をウルガーが止めた。
「ウルガーごめんなさい。あなたを捨てたのよ。私。なのに、いつまでもここにいて・・・。場違いだったわ」
「ゼルマ。よく聞くんだ。俺は君を嫌いになったかと聞かれて全然、と答えた。全てをなげうって人を救おうとする君が大好きになった。だから、君の夫は俺だけ。出て行くなら俺も・・・」
「ウルガー? あなたに闇の心を与えようとしたのよ? レテ姫のように。それでもいいの?」
「どうせ、無意識は死と隣り合わせ、なんだろ? だったらゼルマの死と隣り合わせになってやる。ゼルマは過去世の無意識だ。だからこれからも危険は満ちている。だけど。それでも俺はゼルマがいい。途中で死んでもゼルマでなきゃ、だめなんだ。だから王太子の位はどこぞの従姉妹やらにくれてやるよ。この位が欲しくて悪巧みするヤツなんてざらにいる。ゼルマ以上に危ないんだ。二人でそこらの畑でも耕そう。そして子供を育てて、おじいちゃんおばあちゃんになるまで生きよう。うん、と言ってくれゼルマ」
 ウルガーの一生懸命な言葉が伝わってくる。涙があふれる。
「ウルガー。愛してるわ。もう離れたくない」
 ウルガーに抱きついて号泣する。
「つらいな。自分の犠牲になる人が増えると」
「うん」
 涙の下からただ答える。
「でも俺もゼルマの死は受け入れるから。どんなことがあっても大丈夫だから。一緒に生きよう」
「ウルガー!」
 私はしゃくりあげるほど泣いて泣いたのだった。お母様のため息が聞こえる。
「お母様?」
 しゃくり上げながら見る。目も鼻もぐしゃぐしゃだ。
「その無鉄砲な性格は息子と同じなのね。似たもの夫婦というところね。婚礼はどうするの? 大方準備は終わってるわ。しばらくは情緒を安定させるために休息が必要だけれど行儀作法の練習は始めた方がいいようね。余計な事を考えないように」
「お母様・・・と言っていいのかもわからないのですけど、許して下さるのですか? この危険極まりない私を」
「ウルガーも一緒よ。あなたが出て行けばこの子もさっさと出て行くでしょう。他の王子で王太子の仕事を長年してきた子はいないわ。急に任命はできない。そうでしょう? ウルガー」
「母上には負けます。そう。俺は頭にお花を咲かせつつそつなく王太子をこなしてきました。今更、義理の弟達に出来るかというとそうでもないでしょう。各国に顔が利くのは俺ですから」
「とういうことよ。ゼルマ。今度はウルガーの我がままに付き合ってあげて。それから私の事はこれからもお母様、いいわね」
「お母様ー」
 ウルガーが手放すとお母様に抱きつく。母という人の温かさに触れる。いい香りがした。お母様が泣き続ける私の背中をとんとん、と叩く。
「今日はこの宮殿にお泊まりなさい。疲れたでしょう。最新のお風呂部屋があるわ。いずれ華の宮にもと思っていたけれど、体験しておくにこしたことないわね。だけど、ウルガーと一夜を共にするのは婚礼後。いいわね」
「そんなことしませんっ」
 泣きながら真っ赤になる私にウルガーがうなる。
「母上ー。せっかくのチャンスをひねり潰しましたね」
「潰したわね。ゼルマは私と一緒に寝るのよ」
「俺でさえ一緒に寝てないのに」
「当たり前です!」
「いたしません!」
 にわか親子の声が揃った。

城門を出ると、城下町に降りることが出来る。ウルガーはしょっちゅう外出してるらしく顔パスだ。一緒だと、私も顔パスみたい。ラッキーだけど私の顔も売っておかないと実家に帰れない。この間、とことこ行けたのが奇跡的。
「ねぇ。ウルガー。市場によってお母様のお土産買おうよー」
「なんで俺にじゃなくて母上なんだ?」
「だってウルガー、特に好きな果物ないもの。お母様は桃がお好きよ」
「俺は葡萄が好きだっていった覚えがあるぞ」
「そうだった?」
「もう知らん。ヘレーネ行くぞ」
 ウルガーはどんどん歩き出す。
「ちょっと。ヘレーネは私の愛犬よ」
「持ってきたのは俺だ」
「そうだったわね」
 急に勢いをなくした私にウルガーが不思議そうにする。
「あの日、お父様は亡くなったわ」
 声が震える。時々、こみ上げるように悲しみがやってくる。喪が明けてもいつになっても時々やってくる。昔より最近の方が悲しみは深い。
「ゼルマ」
 ウルガーが顔を胸元へ引き寄せる。しばらく私は泣いていた。なんとか涙を止めようとしてもあふれてくる。
「ちょっと。こっちに来い。人目がありすぎる」
 ウルガーは私を抱えたまま路地に連れて行く。そこまで行くと私はしゃがみ込んだ。悲しみが襲ってくる。ヘレーネが涙を伝う頬を心配そうになめる。
「ヘレーネ。あなたがもう少し早かったらよかったのにね」
 しゃくり上げながらヘレーネの頭を撫でる。
「ごめん。俺が・・・」
「誰のせいでもないわ。生れるのも死ぬのも操ることの出来る物じゃないんだから」
「俺はゼルマの命を守る。絶対に。もう泣かせたくない」
 そう言って強引に引き上げる。そして涙で濡れた頬にちゅーする。
「ごめん。急に泣いて。時々あるの。一人の時だとかこうして何かの拍子に思い出して。もう、二年も経つのにね」
「解るから。無理するな。泣かせたくはないけれど、泣きたかったら俺の前で泣け。一人で泣くな。何時だって駆けつけるから」
「ウルガー好き。大好き。こうして考えてくれるのが嬉しいの」
 そうしてウルガーの頬にちゅーする。
「ゼルマだけ予告なしのちゅーはいいのか?」
「だって。熱々の大人のちゅーはしないもの」
「大人のちゅーじゃなかったらいいのか?」
「だめ。ダメダメー」
 今日はお盆を持ってきていない。防ぎようのない私は十分、大人のちゅーをされて脱力する羽目になった。本も何も買わず帰ってきた私達にお母様は、呆れていた。しっかり何があったか解ったよう。恥ずかしいったらありゃしない。すかさず、お母様が自分のローズウッドのお盆を貸してくれてそれからは宮殿内で親子の絆を深めることになった。そしてやはりウルガーは危険な面と私の情緒がまだ回復していないことを告げ、婚礼は延期となった。

 いつものように朝食をみんなで取っているとお母様が入ってきた。お姉様とお兄様は婚礼以後、一刻後に出仕のためにおられないけれど、アーダ達との食事は続いていた。
「お姉様になにか?」
 不安そうに聞くと軽く微笑んで首を振る。
「フローラとアウグストには産休を取らせました。心配は無用です。アーダとエルノーも久しぶりに旅行にでも行ってきなさい。このキンモクセイの宮から改装の手をつけ始めますよ。その間、ゼルマは私と宮殿で礼儀作法のお勉強です。カシワの宮は当分手をつけませんから、ウルガーは仕事を続行しておきなさい。じゃ、ゼルマ行きますよ」
「ウルガー」
 すがるような目で婚約者を見るけれど、ウルガーは合唱してちーん、と祈っていた。知ってたみたい。
「ヘレーネも一緒でいいですか?」
 側を離れない愛犬を見て、お母様に連れて行かれながら聞くと二つ返事で許可が下りる。
「リードやお皿が」
 キンモクセイの宮の改装に手をつけ、宮殿となると、当然、寝泊まりも宮殿になることは目に見えていた。この間、お泊まりしてお母様は私と一緒に寝るのをいたくお気に召したようで・・・。ウルガーの側に行くのも大変だった。何かというとゼルマ、と呼ぶんだもの。
「ウルガーが全部持ってきてくれますよ」
 先日、危険極まりない行動をとった私としては逆らいようがない。
 あっという間に宮殿に着く。そしてお母様の着せ替え人形となる事、数刻。本来の目的の、礼儀作法のお時間となった。厳しいったらありゃしない。本を頭の上に載せてまっすぐ歩く。何度も落としては叱られる。一応、故郷の礼儀はたたき込まれていたけれど、過去世の記憶が主になっている私にはあまり役に立たなかった。記憶がほぼない。なので振る舞いようがない。
「あのう」
 と非常に言いにくく言う。
「私、故郷の礼儀作法も記憶にないのです。初歩からお願いします」
 申し訳なさそうに言うとお母様は、口をあんぐりあける。
「よくそれで今までいられたわね」
「たぶん、自然と出ていたのだと思いますが、意識して出すのは難しいんです。ので・・・」
 奥歯に物が挟まったような言い方で非常に申し訳ないけれど、そう言うしかなかった。
「わかりました。あなたは絵本が大好きだったわね。ウルガーと一緒に女の子の作法が書いてある絵本を探してきなさい。お金は渡しますから」
「え」
 今度は私が口を開ける番だった。
「あなたは本から知識を吸収するのが早い子ですからね。それを見ながら最初から始めましょう」
 お母様がにっこり笑う。
「お母様大好き!」
 思いっきり抱きつく。その人間の資質を引っ張り出す事がお母様は得意なのかもしれない。それでも嬉しかった。その後ろでウルガーのうなり声がした。
「ウルガー」
「最近、俺にも抱き抱きさせてくれないのに。母上は別? ヘレーネの物持ってきたのに」
 お母様から離れると私はウルガーに抱きつく。
「ウルガーが予告なしのちゅーをすぐ仕掛けるからでしょ?」
「男の子だもん」
「ちゅー魔」
「なんとでも」
 二人で言い合っているとお母様がウルガーを呼ぶ。
「これでゼルマに礼儀作法の絵本を買ってあげて」
「俺が買うよりゼルマが選んで買った方がいいから、これはゼルマのお金」
 ちゃりーん、とまた掌にウルガーがお金を落とす。
「ウルガー。大好き!」
 思いっきりウルガーに抱きついて本代を落として慌てて拾う私。
 それをにこやかに見ている母と息子。
「ウルガーも手伝ってよ」
「はいはい」
 そんなに多くはない小銭を二人で拾う。掌のお金を数える。額が多い。
「こんなに・・・」
 これじゃ、一冊じゃすまないわ。
「桃をいくつか買ってくれたらあとは全部本につぎ込んでいいですよ」
「お母様!」
 表情を明るくして言う私にまた焼き餅を妬くウルガー。ごめんね。
「じゃ、ウルガー。アルポおじいさんのところ行きましょ」
 率先して手を繋いで歩く私にウルガーも上機嫌になった。


あとがき
すいません。しばらく長文が載ります。これでも分けに分けて連続流しをやめたんです。あの連続流しほど恐ろしいものはない。で、この再編集版が当分続きます。お暇なときに読んでください。ここまで読んでくださってありがとうございました。あとは大奥だー。

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