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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(35)再編集版

前話

 私とウルガーは速歩でミムラサキの宮に向かっていた。必死について行く。
「ウルガー?」
 恐る恐る名を呼ぶ。
「今に解るから。ちょっと速く歩過ぎたね。ゼルマはそうして文句もなしに着てきてくれるから、すぐ、思い違いをするんだよね。同じ事が同じように出来るって」
 そう言って隣に並んで、歩き始める。
「ゼルマも出来ないときは言っていいんだよ」
「それはい・や。ウルガーが出来るなら私にもできるもの」
「今の言葉を母上が聞けば嘆くか頭抱えるね」
「ウルガーとそっくりなんだもの。仕方ないわ」
「じゃ、結婚すればおしどり夫婦だね」
 いつもの明るい声に私はほっとする。
「真剣な俺、怖い?」
 見抜かれていた。心理を読み解くのは私が得意だったのに。
「いいえ。惚れ直すけれど、いつものお花が咲き乱れているウルガーの方が好きよ。でも、お医者様しているときも大好きだわ。結局、ウルガーの全てが好きなのね」」
「高圧的になっても?」
「あまり、好きじゃないけど。それがウルガーの別の部分よ。そう言う別々の顔を持っているのが人よ。まるごとウルガーが大好きよ」
「ゼルマ・・・」
 ウルガーが言って黙り込む。
「ウルガー?」
「君ほど優しくて強い人間はいない。まるごと愛するなんてそうできるものじゃないよ。俺も見習おうっと」
 そうして歩きながら頬にちゅーされる。どうやら殺し文句をまた言ったようだ。頭にお花がさき乱れていた。
 そのまま歩いているとミムラサキの宮にたどり着いた。
「ちょっと待ってね。えーと・・・」
 服のポケットをごそごそしている。出てきたのは長細い箱と小さな箱だった。
「なんだか母上のものを渡したような気がしないでもないけれど、受け取って。俺の気持ち」
 そう言って長細い箱をあける。そこには宝石がちりばめられたネックレスがあった。
「君の光のように輝くダイヤのネックレスだよ。着けていい?」
「え。ああ、いいけれど。本当にもらっていいの?」
「いいの」
 ウルガーは背中の方に行くとネックレスをつける。そして前に戻って見る。
「やっぱり君にはダイヤが似合うんだね。そしてこっちは婚約指輪。渡しそびれていた。俺が見定めて作ってもらった指輪」
「え。婚約ってバイオレットウッドの枝の交換じゃないの?」
「そうだよ」
 ウルガーはのほほんと答える。
「俺が贈りたかったんだ。君の誕生月の守護石をつかった指輪なんだ。これで君はやっと俺のモノ」
 左手の薬指に指輪がはまる。ぴったりだった。
「俺のモノって、まさか・・・」
「と言いたいけれど、母上に拳骨制裁とお説教の嵐が吹き荒れるから、それはまた、今度。俺がまた君を迎えに来れたら、その時は本当に婚礼の式をあげよう。大神官様と計画を練っているんだよ」
 まぁ、と声が上がって何も言えない。ようやく口を開いて言う。
「純粋な大神官様をいじっちゃだめよ」
「だいじょーぶ。孫の婚礼とまで言ってるんだよ。父上まで口出ししてきているしね。首都組は今のうちにと楽しんでるんだ」
「ウルガー、お母様がいない間に企みすぎると後が怖いわよ」
「大丈夫。押し倒さなきゃ、文句もないよ」
「ちょっと!」
 あけすけのない言葉に私は頬を膨らませる。
「乙女だね。ゼルマは。早く大人の女性になってよ」
「いーや」
 つんとそっぽを向く。その頬にウルガーがちゅーする。
「じゃ、俺、行かなきゃ」
「もう? 一日もいられないのね。気をつけて」
 ぎゅっと抱きつく。ウルガーは私を折れそうなぐらい強く抱きしめていた。まだ、流行病は治まったわけではない。これからが勝負なのだ。その間にウルガーが無事生きてることをただ、願うことしかできなかった。

「二人とも、もうすぐ夕闇がおります。ウルガーはとんぼ返りするつもりなのでしょう。危険度が増す前にお帰りなさい」
「母上・・・」
「ウルガー、私にも抱きしめさせて頂戴」
 お母様が涙をうっすら浮かべて抱きしめる。
「絶対に迎えに来ますから」
「ええ。決して無理をしてはダメですよ」
「はい。それじゃ、ゼルマ、母上。また」
 ウルガーは何を思ったのか、走り去っていった。車のエンジン音が遠のいていく。
「ウルガーの馬鹿。こんな約束のものを置いて行くだなんて」
 床に座り込みながらネックレスと指輪を遊ばせる。
「あら。その指輪は、ウルガーが?」
「ええ。バイオレットウッドの式で婚約は成立したのに、またこんな約束の指輪を・・・」
「あなたの故郷では指輪がそうなのでしょう?」
「ええ。でも、こんなお金をかけてもらうより側にいて欲しい」
 つい、感じていたさみしさを漏らす。
「もうすぐの辛抱ですよ。あなたは誰をもうらやむ花嫁になるのですから」
「別にパレードしたいとかないのです。ただ、ウルガーに側にいて欲しい」
「緊張の連続で、この宮でも休養にならないのね。いっそ全部放り出してしまいなさい」
 その言葉に一瞬目が点になった。驚愕の思いでお母様を見つめる。
「あなたは我慢しすぎだわ。実のお父様の療養から華の宮の主人となり、婚礼の儀式も延び延びになってその準備も慌ただしくて、元の世界に戻ったり、帰ってきたり・・・。私なら目を回しているわ。思いっきりわがままを言いなさい。ウルガーに会いたければヴァルトに連れて行かせますよ。感染が心配ならワクチンが定着するのを待って行きなさい」
「でも・・・相手はそれを願っているんです。ウルガーに負担をかけたくない」
「そうね。ウルガー達は今あなたが言った大流行に対処しっぱなしだからあなたが行っても相手も出来ないわね。確かにウルガーにはジレンマね。他にしたいことはないの?」
「菜園・・・。菜園で土いじりがしたいです。まるで小さな子供に戻ったように癒やされるんです。砂場で純粋に山を作って水を通らせて・・・。そんな事まではないですけど、ただ・・・。私の手から何かを生み出したい。キュウリ一本でもいい。野菜や花を育てたいのです」
 その答えにふむと考えるお母様。だけど、今、考えることはいけないことだったのかもしれない。長い沈黙にがっかりしたけれど、それはもっと安全になってからね。そう思って心の中にしまった。


あとがき
ウルガー。何回婚約する気? プロポーズの言葉がないからもう一回のちにまたあるという。そして今さら? とみんなに言われる。ものじゃ、女は動きません。ですね。内容出そうになったので慌てて消した私。ずーっと後にでるので決定的瞬間はお待ちください。婚礼に向けてまっしぐらなのに、ちびっ子たちが大暴れ。幼き恋は切ないですな。社交界まででてきてわーん。レテ姫への道が遠のく~です。一日一話は書かないと気が済まないのですが、ここのところ体調悪化して書けなかったので昨日書きかけを保管して、また書いて今日途中から埋めて終わりました。明日で90日目です。一旦毎日更新が途切れてから。予約でしてたのでつい予約してや、と思ってたらなかったという。同じ101になったら足していきます。プラスαもいらないかもね。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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