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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました(34) 再編集版

前話

「さぁ。ゼルマ、肩出して」
 容赦なくウルガーが言う。
「本当にウルガーが打つの?」
「君の父上にはフローラ達のワクチンを打ってもらう。接触していたからね」
「もう。仕方ないわね。はい。腕」
 アーダに手伝ってもらって肩を出す。
「目をつむっていればいいよ」
 言われてぎゅっと目をつむる。それは前触れもなくやってきた。蚊に刺されたくらいのちく、とした痛みがしたかと思うと既に綿花を打ったところにあててた。
「お風呂入っていいけれど、もまないようにね」
「それ、ここでも言われるの? 聞き飽きたわ」
「そうなんだ」
 へぇ、と面白そうにウルガーが見る。
「君の過去世も見てみたいな」
「意識に出られればどこかの誰かになっているわよ」
「なるほどね」
 二人で会話してると、アーダとエルノーが声を出す。
「今のものを我々にも?」
 エルノーがあんまりにもびびっているからおかしくなってくすり、と笑ってしまう。
「大したことじゃないわ。もっともお父様の方が手慣れてるけれど。点滴をしてくれてるから」
「なるほど。叔父上が、ね。俺も叔父上のように人を救いたかったんだ」
「お母様から聞いているわ。目の前で人を亡くせば誰だって思うわ」
「ゼルマ。ありがとう。君は俺が突っ走っても何も言わなかったね。母上に説教くらいそうだよ」
「もうすでにその準備はしてますよ」
「母上!」
「お母様!」 
 二人で王妃を見る。
「ウルガーは自分が出来る事は誰でもできると思っている節がありますからね。その性根を今度こそたたき直しますからね。ゼルマに無理を強いることはこの母が許しません」
「お母様。性根とまでいわなくとも・・・」
 もともとの遺伝子はお母様から来てるし。流石に遺伝子レベルの話しはできない。ぐっと飲み込む。
「まぁ。ゼルマ。また自分の気持ちを抑え込みましたね。ほら。ウルガー、あなたのその性格がゼルマに悪影響を・・・」
 流石にそれ以上は聞けなかった。すぐに言い返す。
「違います。それは過去世の情報を出しかけて口ごもっただけです。お母様の血を引いてウルガーは生きています。その事を言いかけただけです。お母様も陛下より大きい存在ですわ。陛下には失礼だけど」
 その鋭い私の声に皆がびっくりする。視線を感じる。
「私の過去世はここよりもうんといろんなレベルで文化が高いのです。それをむやみに言うことは歴史をねじ曲げることにも通じます。すでに、私はインフルの予防方法を言いました。それで、きっと歴史が違う方へ行っています。いたずらに私の過去世の事を告げるわけにはいかないのです」
「ゼルマ、そんなに気を張り詰めれば弱ってしまう。俺たちなら何でも聞くから言いたいことを言って」
 そう言ってぎゅっと抱きしめてくれる。
「ごめんなさいね。あなたの心はいつもギリギリなのね。でも、この世界を選んだのなら、私達に何でもいって頂戴。理解できなくてもきっと聞く事はできますよ」
「お母様・・・」
 すでに歴史を変えている恐怖に改めておののいて涙声になる。アーダたちが、ウルガーと私を囲んで腕を回してくれる。

 守られている。そう感じた瞬間だった。
 しばらく、みんなが私とウルガーに腕を回してくれていた。ぽたぽた、涙が落ちる。それをそっとウルガーが拭ってくれる。
「ゼルマ。泣くならいつでも呼んで。今はまた、王宮に戻ってこの大流行を収めないといけないけれど、それでも俺たちはいつでも一緒だ。同じ事ができても出来なくてもゼルマはゼルマ。俺の大切な奥さんだよ」
「ウルガー」
 いつの日からかとまっていた心の時間が再び流れ始める。そして私の涙も。涙が、全てを洗い流してくれているような気がした。
「ウルガーお兄様の奥さん?」
 小さなタピオとクルヴァがお菓子で顔中を汚しながらやってきた。私はみんなの輪からはずれると、小さな双子を両手に抱きかかえた。
「そうよ。ゼルマ、っていうの。お姉さんって呼んで」
「姉上。お菓子持ってる?」
 タピオのその言葉に一気に場が和んだ。私も笑顔になる。
「さっき、イーロがリンゴのような果実をむいてくれていたわ。食べる?」
「ちょっと。ゼルマ! それ俺の・・・いてて。わかりましたよ。母上」
 むう、とウルガーは言いながら、お母様に耳を引っ張られていた。
「さぁ。私の宮に行きましょう」
 そこへ、ウルガーの声がかかる。
「ゼルマ。すまない。その二人を頼む。俺は全員ワクチンを打てばまた戻る。また、後で!」
「ウルガー。また戻るの?」
 そりゃ、そうだろう。大流行しているのだ。ワクチンを打てる人が多ければ多い方がいい。私はウルガーの頬にちゅーをする。
「いってらっしゃい。ウルガー」
「そこは、行ってらっしゃい、あなた、ですよ」
「母上!」
「お母様」
 二人して声を上げて抗議するが周りはニヤニヤしている。
「もう、結婚したも同じですよ。ここまで運命を共にするとなると。婚礼の夜はお預けですけれどね」
「母上! そこだけですか? 遵守しないといけないところは!」
「当たり前です。ゼルマは乙女ですからね」
「どこが」
「うーるーがー」
 ウルガーの答えに双子放り出してウルガーを追いかけ回す。
「相変わらず、ゼルマは無邪気ですね」
「ええ」
「そうですな」
 お母様達がごちゃごちゃ言っている。無邪気なんてもんじゃないわ。乙女心よ。
「乙女心がそうさせるんです!」
「ちょっと不良の乙女にならない?」
 逃げながら、ウルガーが言う。
「何言ってるの! お盆飛ばすわよ」
 ローズウッドのお盆のミニを持ちながら追いかけ回す。
「ぼくもおいかけっこするー」
「ぼくも-」
 双子とウルガーと私が追いかけっこを繰り広げる。
「まぁ。ウルガーとゼルマの子供みたいね」
 お母様はのほほんとしている。
「そんな年の子は産んでません!」
「作った覚えもない!」
「ウルガー! もうちょっと言葉選んで!」
 散々追いかけっこをして大人組はゼイゼイ言っている。子供達は元気いっぱいだ。
「もう追いかけっこやめるの?」
「の~?」
「追いかけっこはお終い。少しお姉さんを借りるよ」
 そう言ってウルガーは私をミムラサキの宮に連れて行く。その横顔は真剣そのものだった。


あとがき
だいぶ、おさぼりでした。体調がよくなくて、パソコンに向かえず、スマホからつぶやきを。環境はいいのに、体調は最悪で。汗をかくと楽だったので、汗をかく必要があるかもしれません。水分不足もありますし。夕食でだいぶお茶を飲んだので、なんとかはいつくばってここだけは。今日で88日目。もうちょっとで前回途切れさせた101日に追いつきます。また、話が延びたので途中からでも読んでいただければ嬉しいです。それではここまで読んでくださってありがとうございました。

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