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【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:最後の眠り姫(4)

前話

「ここ?!」
 でーんとそびえている建物を見上げて私は言う。クルトは簡単に頷く。
 何か黒い板のようなものをクルトは玄関のある一部に触れさせると玄関が開いた。
「鍵なの? それが」
「ああ。あとで君にも渡すよ。持っているのは俺と君だけになるから」
「二人だけ? 何かあったらどうするの?」
「大丈夫。そういう防犯対策はしてるから。少し建物が古いのはあの手紙が見つかって解読した何代か前の王が建てたからなんだ。でも改修工事はしているから中は最新だよ」
 そう言ってすたすた歩いて行く。私は速歩で追いつくのが精一杯。
「ちょっと。待ってよっ」
「あ。ごめん。早すぎたね。あの奥の部屋が君の自室だよ。隣にお手洗いとお風呂がある。そしてその一番奥の扉を開けると俺の宮殿と回廊でつながっている。鍵はしてあるから、誰かが入ってくることはないよ。まぁ、結婚すれば、こっちが生活空間になるのかなぁ?」
 そんな夢想いらないわよっ。この宮殿で生活するほかに安全な生活はないかしら? 思いを巡らしてるとクルトが面白そうに見ている。
「逃亡を企てているね?」
 ぎくっ。つい、挙動不審になる。
「君は今、この世界ではあかちゃんと同じ。そう、簡単に逃げられないよ。俺の姫」
 ちゅーと言ってクルトは私の頬に唇を触れる。
「ちょっ・・・!」
「やり逃げー」
 ケラケラ笑ってクルトは奥のドアをあけて回廊に逃げる。
「ちょっと待ちなさい!」
 私も回廊にでる。ミストが心地いい。そこで一人の少年がいた。というか小さな男の子が。
「エレオノーラにそっくりだな」
 子供はぽつり、と言う。
「え?」
 クルトを追いかけるのをやめて子供を見る。
「その、まさか・・・。まさか・・・」
「聡明なところもそっくりだ。いかにも私が魔皇帝の生まれ変わりだ。一度、アメリアの子として生まれ変わったが、この時代にも生をうけたらしい。困った事があればこのじぃじに聞けばいい」
「ヴィルエヘルム! 迷い込んだのか? ここは兄とこの姫だけの空間だ。姫と会いたければ兄をとおしてからにしろ」
 おじい様となる魔皇帝の生まれかわりのヴィルエヘルムは急にトーンを変えるて小さな男の子に変わる。その変わり身の速さには恐れ入るわ。
「ごめんなさい。兄上。ヴィー、間違えて入ったの。兄上に会いたくてきたのに回廊にでちゃったの。姉上、なのですね。仲良くしてください」
 にこっと無邪気な笑みを見せる。って、ほんとーにおじい様なのよね? 疑いの目で見ていると小さく肯く。やっぱり。問題が山ほどやって来て頭が痛い。
「姉上?」
「ちょっと頭痛がするだけよ」
「それはいけない。脱水症状かもしれない。飲み物を手配するから自室で休んでて。あの浸透圧のはあきらめているから、だいじょーぶだよ」
「そう。じゃ、クルト、ヴィルヘルム、また後でね」
 額を抑えながら回廊を後戻りする。そして自室と言われていた部屋に入る。まるでそこだけ時代が戻ったようだった。私の過ごしていた時代の飾り物で一杯だった。花も。家具もなにもかも。こんな世界にあるとは思えなかったけれど。衣装釣りにこの部屋で過ごす服が釣ってあった。私は部屋に鍵をかけると着替える。私の時代の服とは大きく違う。あまりにも開放的で身につけるのにおどおどしてしまう。ただ、どこからか涼しい風が吹いてきていて、この部屋着は長袖でほっとした。
 ふいにノックが聞こえた。
「クルト?」
「ああ。果物と水分を持ってきた。好きなだけ摂ればいい。頭痛は環境の変化からかもしれない。少し、ここで休めばいいよ」
 扉を開けてクルトが入ってくる。
「また、夕食の時間に来るから。王族の中でも古代語を話せるのは少数なんだ。君は当分、ここと東屋と、俺の宮殿を行き来することになる。姉上のところは危なすぎて行かせられないよ。向こうから来ても入れないようにね」
「確かに、カロリーネ様は少し限度が過ぎる方みたいね」
「うまいこと言うね。俺がいては休憩にならないから、一人でゆっくりしてて」
 クルトが去ろうとすると、その手をとっさにつかんでいた。考えてもいなかったのに。
「一人が心細いなら昼寝するまでいるよ。さぁ。その椅子に腰掛けて」
 ふかふかの椅子に座って身が沈みそうになる。
「すこし前側に座るといいよ」
 座り直すとちゃんと背筋が伸びた。
「じゃ、まずはこのハーブティーからね」
 クルトがカップを渡す。心地よい暖かさだった。冷たい飲み物なんて眠る前にも数回しかなかったから暖かい飲み物の方が安心できた。
 そうして、意に沿わぬ婚礼相手と一緒にお茶を楽しんで、自分の頭を疑った、日だった。


あとがき
ついでにこちらも更新。訳ありの題字の変更は後回し。とにかく出さないと。焦りは禁物ですが、エッセイばかりでは面白みがない。久しぶりに小説を書けてすっきり。ストレスでしたから。書けないのが。時間的にと体力的に無理な日々でした。アカウントノート消失事件が大きい。その間に日は経ち……。

新作も出たし、再掲連載小説も出たし。今日は安眠できそう。一昨日から寝れなくて。作業時間は九時半で終わるのですが、その後何をしても寝れない。昨日は痛みでロキソニン飲むためにご飯を食べ(二回目)、今日、体重が恐ろしい事になってました。八千歩歩いてるんですが。血糖値も血圧も高めで歳を感じる。

では、落ち着いて明日は「星彩の運命と情熱」を書けたら良いなーということでここまで読んで下さってありがとうございました。

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