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【再掲連載小説】恋愛ファンタジー小説:自分の小説の中で訳あり姫君にになっていました(27) 再編集版

前話

自分の小説の中で訳あり姫君にになっていました(27) 再編集版

軽くノックしても返事がないのでそっと扉をあける。
 中にはエーヴィーがそっとマティアスお兄様の上掛けを直していた。しーっと唇に指をあてる。私達も頷く。
「これ」
 小声で、そっと桃を渡す。
「ありがとう」
 にこっと、エーヴィーが微笑む。この女性に何があったのだろか。離婚したぐらいでここまで悲しみに陥るなんて。それも意に沿わぬ婚礼から離れられたのに。なぜか女性特有の悲しみを背負っているようだった。私の中で、まさか、という推論が成り立つ。まさかよね? そう思って詮索はしない。
「じゃ、これで」
 去ろうとする、私達の背中にマティアスお兄様の声がかかった。
「ウルガー。俺を早く国境警備団に戻せ」
「その体では無理だよ。兄上。まずは桃でも食べて元気出して。ゼルマが持っていこうって言ったんだよ。起きれるようになったらミムラサキの宮で食事を取ってもらうからね」
「俺はいかない」
「行くの。ここの主はゼルマだよ。主の命令に背くの?」
「ウルガー、そこまで言っては・・・」
「間抜け面している兄上にはこれぐらい言わないとね」
「お前に何が解る」
 苦しい声だった。
「わかるよ。俺もゼルマが一年まるまるいなかった。兄上はもう会えない。その俺のつらさが何十倍にもなって襲っているぐらいはわかるよ。じゃ、エーヴィー頼むね」
「はい」
 私達はケヤキの宮を後にした。

ミムラサキの宮に戻ると、お母様が心配そうにしていた。
 私達は首を振る。
「まだ、悲しみに浸ってる。あとは自分のふがいなさかもしれない」
「桃はエーヴィーに渡してきました。とても優しそうな方。二人目のお姉様だわ」
 やや微笑むとお母様が椅子を指し示す。テーブルには桃があった。
「いいんですか? お母様の桃よ?」
「一人で食べても面白くないもの。フローラ達は子供の世話で忙しいし、あとは滅相もないと食べてくれないのよ」
「あ。それ、わかります。今でこそお母様と呼べるけれど、最初はカチンコチンに固まってたもの」
 お姉様のお見合いの時の事を思い出す。
「そうだったわね。ゼルマは少し身分を気にする傾向があるわね。それも卑下する方に」
「すみません」
「謝らなくていいのよ。それもゼルマよ」
「お母様!」
 私が抱きつこうとするとウルガーが止める。
「今日は俺に触らせもしないじゃないか。人にばかり気を遣って」
「って。気を遣うのがそんなに悪いこと?」
「そうじゃいけれど・・・。明日も桃を持っていくのか?」
「話をそらしたわね」
「いいの。明日はどうする? あの暗さは尋常じゃないぞ」
 ウルガーが考え込む。そこへお母様がナイスタイミングで意見を言う。
「行くも行かないも。もともとマティアスの主治医はウルガーじゃないの。職権乱用すれば?」
「それがあったか!」
 ぽん、と片手をうつウルガーだ。
「じゃ、私はエーヴィーの相手とウルガーの付き添いね」
「エーヴィーの事は女性しか解らないことかもしれないわね。特に私やフローラしか」
 やっぱり・・・。離縁して晴れて自由の身なのにあれだけ闇をもっているという事は・・・。お母様にアイコンタクトするとお母様は軽く頷いた。
「そう・・・」
 未婚の私では解決出来ないこと。それは赤ちゃんに関する事。流産か、死産か・・・。それをきっかけに離婚したのかもしれない。男性はそれで終わりかもしれないけれど、女性には心に深く傷を負ってしまう。話すだけで気を狂わせる人がいる、と言うほどだ。そっとしておくべきか・・・。
「エーヴィーもあなたのまっすぐな心にきっと光を見いだすわ。会ってさりげない話をしてあげて」
 お母様が言う。フローラお姉様では逆に嫌な気持ちを持たせてしまう。未婚だけど、私しかいないみたい。
「なんとか、心の闇を追い払ってみます」
 決意を秘めた目でお母様を見るとお母様は軽く頷いて、切り分けた桃をすすめた。私は考えながらその桃にかじりついていた。深窓の姫様の食べ方じゃありません、とアーダに叱られても瀬里の時のようにむしゃむしゃとかじりついていた。何時になったら、私、きれいな妃殿下になれるのかしら。また考え込む私の口にウルガーが桃を突っ込む。
「君は悩むのが趣味かい? たまには物を感じて食べないと」
 私は口いっぱいに桃をほおばっていて答えられないので頷いくジェスチャーをしたのだった。

 また、みんなと朝餉と取ってまたイーロの元へ行く。
「はい。桃です。王妃様には後から持っていきますから」
 イーロが気を利かせて言ってくれる。
「ありがとう」
 にっこり笑うとウルガーが顔の向きを変える。
「ゼルマはこっち」
「はいはい。桃が落ちるわよ」
「それは兄上に申し訳ないから、少しの間だけ他所を見てもいいよ」
「どーいう理屈なのかしらね」
 イーロと笑い合ってマティアスお兄様の元へ行く。ウルガーはいつかの時のように医師の眼差しに変っていた。かっこいい、と恋馬鹿な私。これから巨大な闇持ちの二人のところへ行くのに。気を引き締める。
「ゼルマは、そんなに緊張しなくていいよ。おおかた兄上とは俺がやりあうからね。エーヴィーの方をケアしてくれ」
「わかった」
 そしてケヤキ宮へつく。ノックして入る。だって、中から開けようとしないんだもの。
「兄上、お忘れですか? 主治医は俺ですよ」
 ウルガーがにこやかに言うとマティアスお兄様はうなって反対側へ向く。それをやんわりこちらに向かせると治療を始める。
「その間エーヴィーには桃を持ってきたわ。一緒に食べましょう」
 エーヴィーは優しい眼差しで頷く。だけど瞳の奥には言い知れのない悲しみが宿っていた。
「いきなりだけど、エーヴィー、まさかのまさか、かしら? 私にはまだ解らないことだけど」
 そうね、とエーヴィーは声を震わせて言う。
「未婚のあなたにはわからないし、幸せなフローラ達にもわからないですわ」
「そうね。幸せいっぱいだもの。でもお母様は解ってるみたいよ。あの方は経験があるのかもしれない」
 その言葉にはっとするエーヴィー。やっぱりね。
「あの方はウルガーの前にまさかのまさかだったのよ」
「まさかのまさかって、あれ?」
 ウルガーが振り向きもせず聞く。
「そう。あれ」
「何訳のわからんことを言ってるんだ。オブラートに包むような話の仕方をして。何のことだかさっぱりわからん」
「お兄様にはわからなくていいのよ」
 少しきつめに言うとお兄様はムッとする。これは確信犯。話しに引き込もうとわざと言ったの。
「エーヴィーは私の付き添いだぞ。そのエーヴィーの事がわからない事があるのはどういうことなんだ」
「はいはい。兄上、傷が開きますよ。少しなら起き上がれるでしょう。みんなで話しをしましょうか」
 ウルガーが椅子を引っ張ってきてエーヴィーを見る。エーヴィーは観念して話始めた。

「まさかのまさかって、流産だね?」
 医者らしくウルガーが率直に突っ込む。
「ちょっと。ウルガー。これはデリケートな話しなのよ」
「ゼルマ様、ありがとうございます。そうです。夫からの暴力で子を流しました。そして跡継ぎが産めない女はいらない、と勝手に離縁されました」
「でも、その相手には愛情はなかったのでしょう?」
 私が言うとええ、とすぐ答えが返ってきた。
「毎日暴力を振るわれて、耐えかねていました。表顔はいい人でしたが、家庭では暴力をあらゆる人間に振るってました。ある日、子のいるお腹を蹴られて子は流れてしまいました。あの子だけが希望だったのに・・・」
 ぽろぽろと滴を落とすエーヴィーに私はハンカチを差し出した。これはお母様にいただいたお守りのような物。お母様の微笑みでエーヴィーが少しでも楽になれば、と渡した。
「ゼルマ様! これは!」
 泣く涙もひっこめてエーヴィーが言う。
「そうよ。王妃様のハンカチよ。私が何かの時に落ち込んで泣いていたときにそっと下さったの。今度はエーヴィーが持つ番だわ。
「でも・・・」
「もらっとけば? ゼルマは人に何かを与えるのが好きだから。もらっちゃえば?」
「ウルガー様」
「様もいらない。どうせ兄上の奥さんでしょ? 二人が気にしだしていることぐらい見えてるよ。だから、二人っきりは良くないから明日から兄上はミムラサキの宮で食事を取らないと。二人きりだと何かするでしょ」
「お前じゃあるまいし。おまえのちゅーはこの国境まで届いていたぞ」
 ふっと、前の面影が戻った。あの青年らしい顔つきに。
「なので、ちゅーはこのお盆で防ぎます」
 ばこん。
「まだ、何もしてないよ」
「タモの宮だったらするでしょ?」
「タモの宮? ゼルマ妃はミムラサキの宮だろう?」
「タモの宮でデートをする約束なんだ。なのに、一向に行く時間が無い」
 嘆くウルガーに私は言う。
「まずは、イーロに菜園の作り方教わらなきゃ」
「ほら。またデートが延びた」
 すねるウルガーにいつしか小さな笑いが起きていた。
「あ。マティアスお兄様とエーヴィーが笑った」
 一番近いエーヴィーを抱きしめるとウルガーはお兄様を抱きしめていた。
「お前ら、抱きしめる相手が違うだろう」
 マティアスお兄様が指摘するけど、私達は離さない。
「今日はこの組み合わせであってるんだ。ゼルマを抱きしめるのは何時だってできる。でも兄上もエーヴィーも今はここにしかいないからここでしかできない。傷は深い。心の。だからゼルマと一緒に癒やしていって。ゼルマも色んな事がありすぎて心が折れそうだったんだ。命を狙われているからね。俺もだけど」
「そうだったな」
 マティアスお兄様がウルガーを慰めるように抱き返していた。

お互い大切な人を抱きしめた後、私達はミムラサキの宮に戻った。菜園へそのまま行く、という事も出来たけれど。たぶん。今日もお母様が一人じゃつまらない、と桃を切って待っているような気がしたから。桃は時間が経つと変色する。見栄えが悪くならないうちにミムラサキの宮に戻る。
「おや。ちょうど良かったわ。桃を切っていたの。二人ともお食べなさい」
 ほらね、とウルガーを見る。
「お手上げ。俺の分、一個あげるよ」
「何を勝負してたのですか?」
 優しく静かにお母様が聞く。私達、いえ、私が流産の事を聞いて心を痛めてしまうのをすでに先読みしていたのだろう。お母様は限りなく懐の大きい方だった。
「お母様が一人で桃を二個も食べれない、って言ってると言ったんです。ウルガーはそれぐらい食べれる、って言ってましたけど」
 そこへおい、と突っ込みが入る。
「そこまでひどく言ってない」
「じゃぁ、どう言ったの?」
 ちろん、とお盆を見せながらお母様がウルガーを見る。
「はいはい。俺の負けですよ。どうして女性だけローズウッドのお盆があるんだ? 俺にも欲しい」
「エルノーならなんなく作りますよ。でも、これはエリシュオン国の伝統ですからね。男性が持っていれば間違いなく馬鹿呼ばわりですよ。お花の咲いた王太子様」
 お母様がおどけて言う。まるで私の心の痛みを消すかのように。
「はいはい。いつも頭にお花が咲き乱れてますよ。桃ください」
「どうぞ」
 親子のほのぼのとしたやりとりにぽーっと見とれる私。
「ゼルマ?」
 親子一緒にハモって名前を呼ぶ。
「やっぱり親子ねぇと思って。やりとりならともかく今のハモり具合なんて・・・」
 くすくす笑ってしまう。
「そんなに笑わなくても・・・」
 ウルガーがすねる。
「あら。お母様似って嬉しくないの?」
「それは・・・その・・・」
 妙に歯切れが悪くなる。
「いい大人がお母様大好きなんて言えば気持ち悪いからな」
 あらぬ方向から聞こえてきた声はマティアスお兄様の声だった。
「お兄様、お体が・・・」
 慌ててとんで行く。でもよく見ればエーヴィーが支えていた。
「ミムラサキの宮がどんな具合か見たくてな」
 まだ暗い影はあったけれど、少しは救いが見えてきていた。さっきの抱きしめた事がきっかけになったようだ。ほっと心の中でひと息つく。外への興味が出ればまずまずだわ。
「傷が塞がってないと言う割には食事を一緒に取れと難題を弟がいうから、来てみた。なかなか明るい宮だな」
 フローラのあかちゃんがはいはいしているのを見てマティアスお兄様は言う。エーヴィーが辛くならないかしら、と心配したけれど、その顔は優しい母の顔だった。流した子を思いだして辛いだろう。でもそれよりも子供が大切だ、とその瞳は言っているような気がしていた。お母様もエーヴィーもお姉様も子を持てばあんなに強くなれるのかしら。ふっと思考の泉に浸っていた。


あとがき
今日はいろいろすることが重なって遅れました。朝、緑を更新した後じぶん銀行で仕事中に電話がかかり(スマートウォッチに入る)仕事中にでれません! と無視して帰り道の駅で交渉。そのあと帰ったらもう二時すぎ。買い物してやっとパソコンちゃんを使える。パソコンの存在がばれそうになりましたが、パソコンラックに立てて細かいところがわからないため、前からあったといって通してごまかしました。怒りのショッピングで買ったのですが、調べてみれば法人向け。なのでよけいなアプリは一切なく、指紋認証できてなんと便利なことか。そして、なぜか執筆したい病が。でも訳あり毎日書いてたし、かといって緑を急にはできない。何か書きたいけれど何を書けばいいかわからない。訳ありのいいシーンを書かないといけないけれどこれはまだ、書く気になれない。なにか、久しぶりに途中まで載せていたものを載せようと思います。知恵か本か。って暗号みたいな題名の名称です。ぜんぶは長いので書くのが大変で。またファイル見繕ってきます!ここまで読んでくださってありがとうございました。

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