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【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説:気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (10)再編集版

前話

 夕食が終わって、皆、ばたばたと元の持ち場に戻る。残ったのはウルガーと私。改めて二人きりになるとどうしていいかわからない。ちらちら二人とも見ているんだけど、微妙な距離がある。手を伸ばせば届くけど、ぎゅっと抱きしめるには距離がありすぎる。言ったもののどんな顔でぎゅーすればいいかわからない。急に自分の恋心に気づいてから特にわからない。あの故郷の国で王子に熱を上げていたのは違う感情があった。
「えと・・・」
「ぎゅーっ」
「え?」
 ウルガーが先に私を抱きしめた。私がするんじゃないの? またも頭がパニック。でも力強いウルガーに抱きしめられていると安心感がやってくる。この人が見初めてくれた。助けてくれた。迷子になっていた私を。父を亡くしてただ、寂しく機械的に嫁ぐもんだと思っていた。なのに葬儀の後に婚礼とか、全部私を考えてくれている。王弟殿下の養子の件も頭を下げたと言われていた。
「ねぇ・・・」
「ん? 姫は柔らかいな。いい香りがする」
「ちょっとっ。手を出したら知らないからねっ」
「解ってるよ。手は出さない。お手つき騒動が持ち上がったらゼルマは逃げちゃうから」
「わかってるじゃない」
 上げかけた拳を納める。
「それがゼルマだからね。優しくて思いやりがあってでもプライドは特に高い。みっともないことになるぐらいなら死んだ方がまし、ってかんがえる子でしょ?」
「まぁ・・・。当たってるけど・・・。身も蓋もないわね」
「気に障ったのなら、ごめん。でもゼルマは大事な人なんだ。そう簡単に逃さないよ」
「好きよ。ウルガー」
 ぽつ、と言う。
「ゼルマ?」
「だからっ。聞こえなかったのっ? 好きだって言ってるのよっ」
「怒りながら言わなくても・・・」
「ちゃんと聞かないからよっ。折角告白してるのにっ」
「俺も。ゼルマを愛している。一番愛している。誰よりも。ああ、君の父君とは二分するかもしれないけどね」
「お父様を大事にしてくれるのね。そういう所が好きなの。家族を大事にしてくれて。辛いことばかりなのにまっすぐ立ち向かっている。私みたいにストライキも起こさない。大好き。愛してるわ。ウルガー」
「ゼルマ」
 ウルガーが頤に手をかける。そこで視線を感じる。
「君の父君?」
「遺骨は隣の部屋よ」
「じゃ・・・」
 じーっと扉の向こうを見つめる。
「アーダ!」
「エルノー!」
 二人でお付の名前を呼ぶ。
「申し訳ありません」
 申し訳なさそうに入ってきた執事夫婦にもあきたりず、アルバンも、さらにはフローラもいる。
「あなたたちー。何してるのー」
 ウルガーから離れてみんなを追いかけ回す。
「ヘレーネ。一番の悪い人を捕まえなさい」
 わん、と返事してヘレーネがフローラの服の袖をくわえる。
「お姉様ー」
「きゃー。ゼルマ。ちょっとした好奇心よ」
「だめー。人の恋愛シーン見るのは」
 愛犬のヘレーネとのぞき魔と追いかけっこ数分。私はへとへとだった。座り込むとウルガーがクッションをあててくれる。
「ありがとう。ウルガー。大好きよ」
「ゼルマ。ここで愛の切り売りはしなくていい。二人きりの時だけでいいから」
「あら。謙虚なこと。じゃ。ちゅーもないのね」
「それはある。ちゅー」
 ばこん。
「いつでも出てくるね。魔法のお盆?」
「隠し持てる一回り小さいものも貰ったのよ」
「用意周到だね」
「もう一回殴られたい?」
「いいえ。遠慮しておきます」
 私達のやりとりを笑いをこらえて見ている、のぞき魔たち。
「もう。くっつけたがるのはやめて。もうくっついてるんだから」
 その言葉にウルガーが咳払いをする。ん?
「ああ。ゼルマはまだ知らなくてよい言葉」
「ん?」
「いいから。ぎゅー」
 半ばごまかすようにウルガーは私を抱きしめる。
「うん。ぎゅー」
 私からも抱き返したらウルガーは今までに見たことのない笑顔を見せてくれた。心がウキウキ宇する。恋ってこんなにふわふわしてるのね。そう思っている内にウルガーの声が遠くで聞こえてくる。んん? 思っている内に意識が途切れた。

「瀬里! 夕ご飯よ」
 お姉ちゃんの声だ。私は突っ伏していた机から顔を上げた。原稿用紙によだれがついている。寝ちゃったんだ。
「今行くー」
 答えてふっ、と気づいた。
「セリ? ゼルマ?」
 そうだ。ゼルマ姫は私が書いた小説の中のお姫様。瀬里から何かないかと適当に作った名前。そしてお姉ちゃんは花織。だからフローラ。ゼルマのお父様の顔は写真でしか見たことのないお祖父ちゃん。それからお父さんは・・・。そこまで考えて、わかった。物語の中から戻ってきちゃったんだー。ウルガーはどうしてるの? 原稿用紙を確かめようとしてると取り落としてバサバサ落ちた。白紙。全部白紙。どういうこと? お姉ちゃんが手を引っ張る。
「早く来なさいって。お母さんが怒るよ?」
「お母さん!」
 一直線でお母さんの元へ向かう。抱きつく。涙がぽろぽろ出てきた。お母さんはゼルマの義理の母、ウルガー王太子のお母さんに似ていた。ウルガー王太子のモデルは隣の幼馴染みのお兄ちゃん。虎雄。だからウルガー。タイガーのままにしないで音だけで探した名前だった。
「変な子ね。さぁ。冷めるから早く食べなさい」
「はぁい」
 お箸を取って食べ始める。すると涙がぽろぽろこぼれてくる。
「瀬里?」
 お姉ちゃんが心配そうに見ている。
「ごめん。ご飯あと!」
 言って自室へ戻る。
「どーして白紙なの。今までのウルガーとの物語がどーしてないのよっ。ウルガー会いたいよー」
 すると、見たことない字が原稿用紙に走った。エリシュオン語だ。ウルガーが書いている。
「この本を見つけた。俺達の今までの足跡をたどった本が。この中にゼルマはいるのか? お願いだ。出てきてくれ。消えないで。俺のゼルマ!」
「ウルガー。私はここよ! 原稿用紙の向こうよ!」
 ばっと原稿用紙を抱える。すると急にまたふわふわとして、そのまま意識が飛んだ。

「ここ、どこ?」
 薄もやの中に子供が一人いた。寂しそうな目をして。
『ここは分岐点。現と夢の。あなたは夢の住人となりたいの? それでも邯鄲の夢の中よ。そこでも泣いて怒って恨んでいくのよ。それでいいの?』
「あなたは?」
『ウルガーの最初の婚約者。レテよ。夢の番人をしているの。あなたが今、夢を選べば現は消える。そこまでしてウルガーと会いたいの? 毒殺されるかもしれないのに』
「行きたい」
 私は断言した。
「ウルガーが探してる。あの人を放っておけない。ずっと側にいるって約束したのに。また闇に引き込まれてしまう。ウルガーの闇を消したいの」
『あなたが生み出した世界よ。私を殺して、ウルガーの闇を作ったのもあなた。お父様を殺したのもあなた。それでも?』
「違う。私はそんなところまで書いていない。あの好色王子の餌食にかかってたんだもの。その後のことは誰かが書いたの。葬儀だってまだだし。お父様が可哀想」
『優しいのね。私は自ら毒を飲んだの。そう父から指示されて。そしてエリシュオン国を奪い取る手はずだった。だけど、出来なかった。私はそれからここで話を動かす人間を探していた。父がそうしたの。エリシュオン国を滅ぼそうと』
 つらつら話すレテに私はそんな事はどうでもいいと思っていた。早くウルガーに会いたい。それだけをひたすら思っていた。
 なのに。
いつまでも続く書いた覚えのない事を言われてムキになって言い返す。
「そんなこと私は書いていない!」
 思いのままに怒りをぶつける。
『そうね。書いていないわ。勝手に作られたのよ。物語を進める者達に』
「誰なの?」
『それは秘密よ。知ればあなたもここの人間になる。ここから出てウルガーの元へ行きたければいいわ。あの人を救ってあげて』
 冷たい声の姫は最後は泣き笑いしていた。本当にウルガーを好きだったんだ。
「絶対に幸せにする。エリシュオン国を守る!」
『それでは、道を開くわ』
 眩しい光が目に入って何も見えなくなった。ウルガーの声が聞こえる。
 『ゼルマ。ゼルマ!』
「ウルガー!」
 手を伸ばすとしっかりと握る手があった。
「引っ張って! 現から夢へと戻るの。あなたの元に!」
 ぐいっと引っ張られて私はキンモクセイの宮にいた。金木犀が咲いている。時間が戻ったの? 私は寝台に寝かされていた。
「いや。一年経っている。あの楽しい夕食のあと君は追いかけっこした。そして抱きしめている間に急に消えた。荷物を探している中に本を見つけた。そこに文字を書き込んだ。そしたら急に君の声が。そして光の中から現われた。レテのお願いという声とともに。よかった。俺のゼルマ。戻ってきたんだね」
 まっすぐな目が辛かった。あの姫を殺したのは私だった。私があの筋書きを書いた。ウルガーが苦しむ原因を作った。みんな。私のせいだ。私が書かなければみんな幸せだったのに。
 涙があふれる。両手で隠して泣く。こらえていた嗚咽がもれる。ウルガーはただ、優しく頭を撫でていた。
「知ってるの? すべてを。私がこの不幸の連鎖を作ったことを」
「不幸の連鎖じゃない。ゼルマは帰ってきてくれた。そして今、自分が書いた事がと自分を責めている。そんな必要はない。レテは可愛かったけれど、君と結婚できる方が嬉しい。だから、泣かないで俺のゼルマ。君こそ本当の家族と別れたんだ。辛くないのかい?」
「そんなものどっかに消えたわ。不謹慎にも戻れたことが嬉しいのよ。私がお父様を殺してレテを殺して・・・っ」
「違う。君ではない。この本はこの国の装丁だ。どこかにこれを書いておいた人物がいるんだよ。君の書いた話は王子様にダンスを申しもこまれるところまでだ。そのほかはきっと誰かが書いた。字が違った。ゼルマの国の言葉の字の後にエリシュオン国の字があった。この本を操っているやつがいるんだ。俺たちはそいつを倒して婚礼の日を迎えないとね」
「ウルガー!」
 私は悲しみで張り裂けそうになりながらウルガーの胸の中で号泣した。
 ウルガーはいつまでも泣かせくれたのだった。レテ、ごめんなさい。あなたにはウルガーは譲れないの。
 いいわ、幸せにしてあげて。そう言う声がどことなく聞こえてきた気がした。
 私はいつの間にか泣き疲れて眠ってしまった。それでも急に目が覚めた。夢の中でおねえちゃんやお母さんを見て。ウルガーがまだ抱きしめていてくれた。
「どうしたの? ゼルマ。何か怖い夢を見た?」
「怖いわけじゃないけど、捨てた家族の夢を見たわ。もういない家族の」
「それもまた、つらいね」
 ウルガーがぽつん、と言う。
「うん」
 私もぽつん、と言う。
 そこへフローラお姉様が飛びこんできた。
「ゼルマ! ここに戻ってきたのね!」
 そう言ってぎゅっと抱きしめてくれる。涙が頬に付いていた。
「お姉様、泣かないで。みんなの元に戻ってきたのよ。喜んでくれなきゃ」
「そう言うあなたは悲しそうだわ」
「一つの家族を捨てたの。だから、戻れたの」
「ゼルマ。辛いわね。家族を失うことは。私はこれからもずっとあなたの元にいるわ」
 そう言ってぎゅーっと抱きしめてくれる。
「私が姉として守るから。もう、悲しそうな顔をしないで」
「お姉様も嫁がないと。いいお相手はいないの?」
 その言葉にお姉様が泣き笑いの表情を浮かべる。レテとはまた違った表情を。
「嫁いでとっとと出てきたわ。側室や妾を山ほどこさえるつもりの人だったから。恋に浮かれている内はよかったけれど、蓋を開ければ好色男なだけだったわ。再婚相手は絶賛募集中よ」
 明るいお姉様にほっとする。
「お姉様ー」
「ゼルマー」
 姉妹でいちゃいちゃする。するとウルガーがお姉様から私をぶんどる。
「フローラは明日、お見合いだから、自分を磨けば? ゼルマの世話は俺がするから」
「何言ってるんですか! 湯浴みや着替えは殿方は入室禁止ですっ」
「あ。それがあったか」
「あったか、って」
 お姉様と顔を見合わせて笑い合う。幸せな時間がまた戻ってきていた。過去の家族はどこかへ消えていきそうだった。その内アーダも戻ってきておいおいと泣く。エルノーが困っている。アルバンも姫、と行って目を潤ませている。
「そんな、死んだ人が蘇ったみたいに泣かなくても・・・」
 私が気を遣って言うとアーダが声を上げる。
「まさに生き返って戻られたのも同じです。一年以上もどちらへ!」
「あ。アーダ、私もどうしてそんなに時間が経ってるかわからないのよ。一日の間、もっと短い時間で起こった事がまるまる一年過ぎてるんですもの。だから謎は謎のままにしておいて、湯浴みとかしたいんだけど。お腹も空いてるし。だって、夕食食べようとしたのを止めて部屋へ戻ったらこれなんだから」
「まぁ。一年間も空腹で・・・。急いで料理をっ」
 アーダが脱兎の如く走り出す。
「そんなに急がなくてもいいのに」
「みんな君が好きなんだよ。本当に捨てて良かったのかい? 元々の家族を」
「いいの。ウルガーは恋人だけど虎雄は恋人じゃないもの」
「とらお?」
「年上の幼馴染みだった人。この世界の人じゃないわ。いらないの、そんな人。ウルガーでないとだめなの」
「ゼルマー。ちゅー」
「お姉様! お盆」
「はい!」
 ばこん!
 派手なお盆の音が鳴り響いたのだった。


あとがき
はい。ここで降下という現象の初お目見えになります。ゼルマは夢の中の人物。無意識の産物であり。そうでない。それが難しいんです。ただ、反映しているならいいけれど、この後にややこしい人達の話がずーっと後になって出てくるんです。いや、フローラの話の時からあったか? 遠すぎて忘れている。

そしてやっとあらかたのものを書き写し、野球みながら正式なノートに書き写していたのですが、居眠りしそうになり、とにかくわかってるだけのところを書いて終わろうと、終わって、このストックの山のここにきました。

明日は通院二科。そして午後からはメガネの受け取り。休日ですが休日ではない。書いてる暇も無い。野球はあるけれど。そして体調がまたおかしい。頭が忙しい! あちらこちらを考えないと行けないから。とりあえず書き漏れは無いとは思うけれど。乗っ取られたわけでもないし。(Hotto Mottoにお弁当の注文が行かなかったのはメールアドレスが一字抜けてました。汗。
しかも、最後の文字に。基幹のとこ間違えちゃだめでしょ、です。
ATパスポート考えなくて良かった。あれは地獄だわ。知ってるけれど計算ができない。法則は見つけたけれどそれを応用する事ができなかった。最初はわからないままに一通り読む方が良いらしいけれどじっくり読んでいたので難しいのです。こつこつとできるのがいい。と。アカウント事件は終わりましたが、ストックあるいは一日一話が書けないと意味がないので、少々続きはお待ちください。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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