第二十二回 Gt 虎 |MOVIE TORAVIA「観る人に親近感を与える『ソウ』の恐怖感の作り方と、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』実写化にのぞむこと論」

ちょっとここら辺で『ソウ』シリーズの話でもしておきましょうか。このシリーズはきっと、みんな1回ぐらいは観たことがあると思うんで。

ソウ

ソウ(2004年)

ちょっとここら辺で『ソウ』シリーズの話でもしておきましょうか。このシリーズはきっと、みんな1回ぐらいは観たことがあると思うんで。

『ソウ』はいわゆるスプラッター映画じゃないですか。ストーリーとしては、犯人であるジグソウが罪を犯した人々に救済を与え「罪を犯した君に試練を与えてあげよう。これを乗り越えられれば君は完璧な人間になれる」という感じの話で。
そこで、救済された人たちが「彼のいっていたことは本当に正しかった」といってどんどん信者になっていって、なかなかこの物語が終わらない。
簡単にまとめると、そういう映画なんですよ。

ただそれだけの映画『ソウ』が、なんでここまでブームとなって盛り上がったのか。
それはね、『ソウ』が映画史上初の自分に選択権があるスプラッター映画だったからなんですよ。
だから、この映画って誰にも殺されてないんです。人が殺してる訳じゃなくて、自分で殺してるんですよ。だって、いってるんですもん。ジグソウは「これをやれば死なないよ」って。
そこで、いわれた通りに自分の腕を切り落とすのか、あるいはそれをやらないで死ぬのか。そのどちらかを自ら選んでいく生存ゲームというところが、この映画のグロいところなんです。
自分で選べちゃうから、リアル感がすごいんですよ。人に殺されるよりも自分で自ら腕を切り落とすほうが全然グロく思える。だから、観てる人はヒリヒリするんです。あれがね、いきなり顔につけられた仮面がバーンと閉じて死んじゃうという映画だったら、まったく流行ってないんですよ。自分で自分を傷つけるというのがめちゃくちゃリアリティーがあってグロく感じる映画だから、爆発的に流行ったんだと思うんですよね。

いままでスプラッター映画といえば人に殺されるだけだったのに、自分で自分を傷つけることで頂点まで上りつめた『ソウ』は最高の映画ですよ。

自分もこれを観て分かりましたよね。選択肢があるほうが、観ていて人はヒリヒリするんだなって。
どっちを選ぶのかなっていう不安感も抱きますからね。観てる側としては、あっさり死んでくれたほうが楽なんです。だけど、それでは痛さとかは表現できない。
それで『ソウ』は人に死を選択させることで、死ぬ直前のギリギリ感とか不安感、痛みを、観てる人が自分に置き換えやすいようにしてるんです。

他の映画とは違って、自分がいま映画のなかにいたとしたら、俺はここで死ぬのか、生き残るためにのこぎりで自分の足を切り落とすのか。どうするんだろうって、映画を観ながらみんな考えるでしょ?そこに親近感があるんですよ。

そして、考えるということは、それを想像するじゃないですか?痛さとか不安感を。そこが、この映画のいいところなの。
選択肢が出されたとき、果たして自分はどっちを選ぶんだろうというのを知りたくて、怖くてもテレビでやってたら何度でも観ちゃうんじゃないですかね。

俺はどこまでできるのか。現実世界では体験できない死の選択を直前にした焦り、そんなものをこの映画を通して疑似体験してる気がします。
だから、『ソウ』を作った人は天才だと思いますよ。人の恐怖というか、なにを作ったら観てる人が一番嫌な思いをするか。そこだけを追求して考えながらこれを作ったんじゃないですかね。
それで、観てる人がその恐怖を自分に置き換えやすいように、劇中に出てくる人が犯した罪は軽いものばかりなんですよ。誰もがやってそうな、誰にでも置き換えられるような罪しかでてこないんです。
これがね、出てきたのが大量殺人鬼だとしたら、自分には置き換えられないじゃないですか。逆に罰せられてよかったって思ってしまう。
じゃなくて、もしかすると自分にも当てはまるかもしれないっていうぐらいの罪だからいいんですよね。

日本人って海外のホラー映画を観るとき、残念なことに自分に置き換えられないんですよ。家のサイズ感、出てくる家具とかからして違うから。
だけど、日本のホラー映画だと出てくる家もおじいちゃんおばあちゃんがいる田舎の家に近かったり、街で見かけたことがある取り壊し寸前のマンションに近かったりするから、自分に置き換えて想像しやすい。だから、めちゃくちゃ怖いんですよね。
そういう意味では、海外映画で唯一この『ソウ』は、いままで日本人が自分に置き換えられなかったところを、自分に選択権があるという設定でそこを超えた、唯一の映画なんです。
そう考えると、『ソウ』が世界的に流行ったのも納得できますよね。

これまで日本のホラー映画もたくさん海外でリメイクされてきましたけど。外人がリメイクした日本のホラー映画って、日本人が観たらいまいちピンとこないじゃないですか?
だけど、あれも外人からしたら、自分に置き換えられてめちゃくちゃ怖いってところがあるのかもしれないですよね。

あと『ソウ』といえば、かかせないのが殺人装置ね。よくネタが尽きねぇなっていうぐらい、いろんなのが出てきますから。そこも凄いなと思います。

『ソウ』はスプラッター映画なのにジグソウが手をくだすことなく人がバタバタと死んでいくところも画期的ですよね。だから、果たしてジグソウを罪に問うことはできるのかって思います。

ここからは、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス3』が始まったんで、サイコパスシリーズの話もしておきましょうか。

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