この国で電子書籍は普及するか
これは、2013年1月に書いたものである。
2013年1月15日、英国のニュースのトップに挙がっているのは、年明け早々から、英国全体に暗い影を投げかけるものであった。
CDやDVD、ゲームソフトの販売大手で、繁華街に大きな店を出しているHMVが、破産の手続きに入ったという。
この大手チェーンは、英国とアイルランドに240店舗を構え、従業員4300人あまりが、仕事を失う危機に晒されている。
音楽や映画、テレビ・ドラマは、もはや街へ出かけて、あれこれ商品を品定めするものではないらしい。すっかり、ネット経由で楽しむものに変わった。
音楽や映画の73%が、すでにダウンロードの形で購入されるので、物理的な商品を販売するビジネスは、破綻を来していると記事は伝えている。
英国の消費者は去年、音楽、映画、ゲームのダウンロードに10億ポンドを使ったと「無頼」が記している。
この新聞は、ほかにも、この大手チェーンについて、興味深いことを教えてくれる。「朝の挨拶」で、この国でもよく知られている作曲家、サー・エドワード・エルガーが1921年にロンドンのオックスフォード・ストリートでHMVの第1号店を開いたという。
100年近くの歴史を誇るメディア販売店も、デジタル化の波を乗り切ることができなかったということだろう。
それから、この店のシンボルになっている犬は、名をニパーといい、フランシス・バロードの描いた絵画「His Master’s Voice」から取られている。テリアの一種で、英国では、ジャック・ラッセルと呼ばれている。なお、店の名は、絵画のタイトルの3語から最初の大文字を取って、繋いだもの。
この傾向が、はたして書物まで進行してゆくかどうかは、大いに興味のある問題である。
筆者の考えでは、書物はしぶとく生き残るのではないか。紙の手触りと刷り上がったばかりのインクの匂いを手放すのは、いかにも惜しい。
CDやDVDを再生するときに必要な機器が、読書には要らないので、この点でも書物は有利である。
電子書籍になると、朗読のサービスも簡単に提供できるので、便利なことは間違いない。それに、索引作りという面倒な作業からも開放されるので、出版社としては肩の重荷が幾分軽くなる。
弱点としては、一覧性に欠けることがあげられよう。新聞についても、同じである。読みたい記事を見つけるのに、骨が折れる。タブレット端末を使って、新聞を読むとき、文字を大きくできるのは、本当に便利なのだが。
本をパラパラとめくって大体の内容を把握したり、面白そうな箇所を探すのは、本来の読書とは、関係がないような気もするが、なかなか、これまでの癖は一朝一夕に廃れるものではなく、これこそ本のキモではあるまいか。
電子書籍の専用機器なら、旅行に出るとき、千冊以上を携行できるというが、文庫を1冊か2冊、カバンの中に入れれば、これで十分、ホテルや旅館で退屈したら、読書に没頭できる。
なによりも、専用機器のバッテリーの心配をいちいちするのが、煩わしいし、費用もかさむ。初期費用もバカにならない。
また、日本語は、ひらがなやカタカナのほかに漢字を使うので、画数の多い憂鬱や薔薇の字など、キチンと表示されるのか心もとない。
少なくとも、ドット数をアルファベット表示専用の機器よりも数倍、増やす必要があるのではないか。
こうして、いろいろ考えてみると、紙の書物は決してなくならないと、筆者はみている。本屋が、どんどん、この国から消えてゆくのは、国力が衰えている証拠であろう。
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