140字小説 その101~105

101
夜が明ける。庭園の花々は、太陽の光が差すと、ピタリと歌うのを止めた。風が吹いても、もう何も聞こえない。それが僕には残念でならない。花の歌を記したノートをしまうと、僕は大きく伸びをした。自然と、花の歌が口をついて出て、しばらく止めることができなかった。

102
祖母は迷路造りが趣味だった。家の裏にある山を使って、複雑怪奇な迷路庭園を造った。一度入ると、三日は出られないと言われている。祖母も、最期は迷路の中に入って姿を消した。時々、祖母が迷路の中を歩いている姿を見ると祖父は言うのだが、きっと見間違いだろう。

103
庭園の中にはベンチがあり、いつも二人の男女が座っている。二人は古写真のようにモノクロで、肩を寄せ合いながら真直ぐ前を見て座っている。ベンチに座れないと客から苦情がくることもある。だが、二人を邪魔すると死人が出るので、管理者は無視を決め込んでいる。

104
実家には小さな日本庭園がある。その奥に、稲荷の祠が祀られている。毎年、夏になると小さな女の子たちが庭で遊ぶ。朱色の着物を翻しながら、楽しそうに遊び、夕方になるとフッといなくなる。代々、狐遊びと言われているが、私には彼女たちが狐だとは思えない。

105
庭の中央に穴が開いた。中を覗いてみると、下に海と島が見えた。島の中にはいくつも街が見える。綺麗な煉瓦造りの街並みに思わず引き込まれそうになる。だが、家族の顔が頭を過り、慌てて穴から遠ざかった。今も穴は開いているが、防水シートで塞いでいる。

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