歌香

歌には香りがついている。船乗りの歌、歌姫の歌、酔いどれの歌、それに人魚の歌。海上の嵐に巻き込まれ、沈んだ海の底で嗅いだのは、爽やかな潮の香りだった。香りを放つ歌の主は、蒼い鱗を纏った人魚で。彼女の瞳が私を捉える。久方ぶりの話し相手。歌と変じた呟きの、嬉しげな香りの底へと私は沈む。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?