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大人も楽しめる童話集

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大人も楽しめる哲学的な童話
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#哲学童話

【大人も楽しめる童話】『不眠症のひつじ』

「ママ,まだ起きてる?」 こひつじが聞きました。 「ええ,起きてるわよ,ぼうや」 「ぼく,眠れないんだ」 「変ね,ママもなんだか眠くならないわ」 ひつじの親子は,小屋の中でよりそいながら, ひそひそ声で話していました。 「ママ,知ってる?   人間は眠れない時,ぼくたちの数を数えるんだって。  今日,牧場に来てた人間たちの話を聞いちゃったんだ。  じゃあ,ぼくたちは眠れない時,何を数えたらいいんだろうね」 「そうねぇ,じゃあとなりの牧場にいるお馬さんの数を数えてみる?」 「

【大人も楽しめる童話】『いたずらな太陽〜北欧のお話〜』

今からずっと昔のことです。 太陽と月は,昼と夜の間, 交代で空に出て仕事をしていましたが, ある日,太陽が病気になってしまいました。 太陽は交代の時,月に言いました。 「月さん,明日一日,  昼番をお願いできないかしら。  ちょっと調子が悪いのです」 「いいですよ。どうぞおだいじに」 月は快く引き受けました。 自分もいつか病気になるかもしれない。 その時は,夜番を代わってもらうかもしれないから, 太陽が具合の悪い時は, 気持ちよく代わってあげようと思ったのです。 月は

【大人も楽しめる童話】せっかちなカメと のんびりやのセミ

「いいお天気ですねぇ」 「そうじゃのう。60年前に,   わしらが出会った日も,   こんな天気じゃったのう」 アオウミガメのカメ吉じいさんと カメ子ばあさんが,砂浜に上がって 甲羅干しをしながら,仲よく話していました。 2匹とも80歳の,カメの夫婦です。 もう長年連れ添っている, ベテラン夫婦なのです。 スチャチャチャチャ…。 「あぁ,早くしないと。   また会合に遅刻しちまうぜ!    急がなきゃ、急がなきゃ!」 カメ吉じいさんとカメ子ばあさんの前を, ひ孫のカ

【大人も楽しめる童話】つり目のパンダ

パンダと言えば,目の周りの黒い毛が, たれ目のように見えてかわいいイメージがありますが, このパンダは違いました。 目の周りの黒い毛がたれ目ではなく, つり目のようにつり上がっているのです。 このパンダの名前は,パンキーと言いました。 パンキーのお父さんもお母さんも, 目の周りの黒い毛はたれ目でした。 ふたごの弟,ピンキーもたれ目です。 パンキーだけが,突然変異で つり目になってしまったのでした。 こんな姿をしているので, パンキーは動物園のパンダ仲間たちに 怖がられてい

【大人も楽しめる童話】羊飼いの少年

ちひろは小学一年生の冬休みに, 初めて眠れない夜を経験した。 あまえん坊で,小学生になってからも 両親と一緒の寝室で寝ていたのだが, ある日突然,お母さんに 「もう小学生なんだから,  そろそろ一人で寝られるようにならないとね」 と言われて,両親と違う部屋に寝かされてから, 眠れなくなってしまったのだ。 ちひろは夜中に何度も寝返りを打っては, 枕もとの時計の音を聞いていた。 次の夜も,その次の夜も,ちひろはなかなか寝付けなかった。 夜中に布団をかけに部屋に入ってきたお母さん

【大人も楽しめる童話】眠りの国の落とし穴

「今日生まれたばかりのみなさん,こんばんは。  ではみなさんに,これから眠りの世界を案内しますね」 集まったたくさんの赤ちゃんたちの前で,ガイドさんが言いました。 毎日夜の九時になると,その日に生まれた赤ちゃんたちを集めて、 眠りの国を案内するツアーが行われているのです。 ムーも,今夜ツアーに参加した赤ちゃんの一人でした。 まわりの子たちと同じように,胸をおどらせています。 ムーはまわりをみまわして, 「ボクと同じ日に生まれた子は, こんなにたくさんいるんだなぁ…」 と考え