豊かな体験
テレビで見たり、インターネットで調べたりで世界を知った気持ちになってしまう。確かに私たちが若い頃よりもはるかに海の向こうの情報は入ります。でも、それは他の誰かの体験であって、自分自身の経験ではありません。
小澤征爾
「大人になったら何になる?」、小学生が卒業アルバムで定番に書き込むテーマです。そう聞かれた私は「たくさんありすぎてわからない」と答えてしまいました。
実は子供のころ、「夢手帳」というノートを持っていました。そのノートに「バスの車掌さんになりたい」とか、「歌手になりたい」、「屋台のたこ焼き屋さんになりたい」、「バスケットボールの選手になりたい」といった、思いつくだけたくさんの子供の夢を書き込むのが楽しみでした。
中でも特に憧れていたのが芸術家です。絵描き、歌手、写真家、ピアニスト、バイオリニスト、数え上げたらきりがありません。それは自分の中にそんな才能があるかもしれない、という儚い希望でもあったと思います。
でも、大人になるということは、反面、残酷な現実を教えてくれることでもあります。ひとつ大きくなるごとに、私の夢のチェックリストには×が多くなり、実現できないと分かったページは破って捨てられていきました。
もしかしたら、自分には歌をうたう才能がるかもしれない、誰よりも速く走れるかもしれない、いやいや、現実はそんなに甘くなく、この才能もなかった、あの才能もなかった、と気づいてはがっかりする。それが私の子供時代だったような気がします。
私は当時歌が大好きで、いつも大きな声で歌を歌っていました。我が家に訪ねてきた人が、近所の方から、「いつも歌を歌っている子供がいる家だね」と教えられたという逸話まであります。ある時、小学校の6年生の授業で先生が、「学校のチャイムを縦笛で再現しなさい」という課題を出しました。私はこれがまるっきりわからず、自分に絶対音感がないことを思い知らされました。私の音楽家への夢はこの時挫折し、さらに中学の修学行で張り切って歌いすぎて喉をつぶした時に完全に潰えてしまいました。なので、今は歌を一切歌いません (笑)。
次に期待したのが絵です。でもこれも残念ことに、目にしたものをそのまま画用紙に描くことができない自分がいて、写生会でもお世辞にも上手い絵が描けたことがない。というわけで、絵描きの夢も早々に夢手帳から破り取られていった次第です。ところが、高校の美術の時間に牛のオブジェを写生していた時、うっかりして絵具を溶く水を画用紙にこぼしてしまいました。あちこち絵具が滲み、とても悲惨な状態になったのですが、描きなおす時間がありません。「もういいや」とそのまま提出したら、その絵が何と賞を取ってしまったのです。突然、絵の才能がある子と見られても、実はおっちょこちょいの失敗作、一番わかっているのは自分です。こんな笑い話のような夢手帳、結局、どの夢もかなうことなく終わりました。
私自身、アリススタイルのヘビーユーザーです。最近、自分のレンタル履歴を改めて眺めてみたら、カメラと楽器をやたら借りていることに気づきました。子供のころの憧れをレンタルという方法を通じて体験している自分にはっと気づいたのです。うまい写真を撮りたい、楽器を弾いてみたい、夢はまだ私の記憶のひだにひっそりと残っていたようです。
実は最近、2回続けてバイオリンを借りました。初めはヤマハのサイレントシリーズという練習用のバイオリンです。誰でも豊かな音色が出せる優れもので、ドレミの音階も弾けないのに、気分はバイオリニスト、弾いているだけで心がとても豊かになりました。気分が盛り上がった勢いで思わず買おうとしたら、シェアハウスの仲間が「冷静になれ、どうせすぐ飽きる」と至極まっとうなお説教をしてくれて、ふっと我に返りました。そして続いて、気をよくして本当のバイオリンをレンタル。木目の美しさに嘆息。手にしただけで感動、でも難しい。サイレントシリーズと違って音がうまく出ず、まるでのこぎりを引いたような雑音が響き、またまたシェアハウスの仲間の失笑を買いました。でもこんな体験はレンタルだからできること。本当のバイオリンは難しい、弾ける人を尊敬、それがわかったことも収穫です。
アリススタイルは、使う時だけ借りる、買う前に試してみる、という左脳的な使い方だけでなく、このようになくした夢を手軽に体験する右脳を刺激するツールとしても使えるサービスです。
日常生活では決してできない経験をアリススタイルでぜひ試してみてはいかがでしょうか。
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