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京都・嵐山の隠れた名所-あり観!鹿王院編


はじめに

新型コロナウイルスの規制が解除され、再び多くの外国人観光客が訪れるようになった京都・嵐山。

円安の効果もあり、外国人観光客を中心に活気に溢れる一方で、再び季節を問わず混雑するようになり、オーバーツーリズムが叫ばれるほど、思うように観光ができないこともよくあります。

そんな嵐山駅から嵐電(らんでん)という路面電車に揺られること僅か2分、閑静な住宅街の中に鹿王院という寺院があります。 最寄駅にも『鹿王院』と名付けられているにも関わらず、外国人観光客はおろか、日本人観光客ですら存在を知らない人も多く、紅葉が見頃な季節でさえも境内はひっそりとしています。


そんな隠れた名所でもある鹿王院の魅力について、紐解いていきましょう。

嵐電鹿王院駅。有名観光地が最寄りの駅では多くの人が乗り降りしますが、鹿王院駅はそこまで利用者が多い訳ではなく、このようにひっそりとすることもあります。


鹿王院山門から参道を歩く

まず、鹿王院の入口に当たる山門は1379年に建立されました。

その後、1467年から約11年続いた応仁の乱という内乱により京都中が荒廃し、鹿王院も例外ではありませんでした。
しかし、この山門は戦禍から逃れ、創建当時から唯一現存する建物となっています。 また、三字扁額に記された『覚雄山』は、創立者である足利義満の筆によるものであります。

山門。手前には駐車スペースがありますが、停められる台数が少ないのと周辺道路が狭いので、できる限り公共交通機関の利用をオススメしたい。

山門をくぐり見えてくる参道には、まるで紅葉のトンネルのような美しい光景が広がっています。
初夏には新緑の青紅葉が、秋には赤や橙色といった色鮮やかな姿に変え、訪れた人々を魅了します。紅葉以外にも桜やツツジ等、季節毎に様々な花も開花します。
更に、2023年10月下旬頃に竹林の遊歩道も整備され、嵐山にある有名な竹林の小径よりも、より静かに幻想的な風景を堪能することができます
(※竹林の様子は後述)

まだ色づく前の参道の様子。これだけでも何かを誘うような雰囲気が出ています。
紅葉の時期の参道。葉は色鮮やかな色へと変わり、紅葉のトンネルのようになります。
しかも、観光客が少ないので、本当にゆったりと楽しむことができます。


庫裡(くり)から本庭へ

参道を進み、中門をくぐると見えてくるのが庫裡です。
こちらで履物を変え、まず迎えるのが韋駄天像です。この韋駄天像は作者等は不明ですが、技法等から江戸時代初期(1600~1650年頃)のものと推測されています。

紅葉の奥に見えるのが庫裡。
庫裡に入ると最初に目につくのが、正面にある韋駄天像。

順路に従って廊下を進むと客殿の縁側があり、そこから京都市の名勝にも指定されている本庭を一望することができます。
本庭は1763年頃に作庭された『平庭式枯山水苔庭』という作りをしており、三尊石や座禅石を中心とした石組が配置されています。
また、庭園中央には2023年10月に修繕が終了した舎利殿、左側には沙羅双樹等も植えられています。

本庭。右に見えるのが舎利殿で、奥に見えるのが嵐山の山々。

こうした情景を縁側に座り、侘び寂を感じながら眺めていると、つい時間の流れを忘れてしまうかもしれません。ちなみに、客殿に掲げられている『鹿王院』の額についても創立者・足利義満の筆によるものです。

縁側。秋の夜間特別拝観期間には赤い絨毯も敷かれます。
なお、こちらの写真は取材時に通常拝観終了後、一般の参拝者がお帰りになられた後に撮影したもので、拝観時間中には結構参拝者がいました。
客殿に掲げられる『鹿王院』の額。

なお、通常拝観では非公開ですが、客殿にはドイツをはじめヨーロッパで活躍されている現代美術家・藤井隆也氏が描いた五十六面襖絵『楢の枯れ落ち葉』があります。
これは、藤井氏がドイツにある楢の落ち葉を一枚ずつ描いており、一つとして同じものはありません。 特に、こうした落ち葉にはメメント・モリ(『死を忘れなかれ』という警句)の意味も含まれており、藤井氏の作風を端的に表しております。

客殿内部の様子。
客殿にある襖絵。夜間特別拝観時にはこちらで抹茶とお菓子を頂け、そのタイミングで見ることができます。しかし、照明がかなり暗く抑えられてしまうため、上の写真のようにはっきりと鑑賞することは困難です。


渡り廊下を経て昭堂や舎利殿へ

客殿から渡り廊下を進むと、まず見えてくるのが昭堂です。
この昭堂が鹿王院の本堂にあたり、運慶作の本尊である釈迦如来像や普明国師(春屋妙葩)像、足利義満像等が安置されています。

昭堂。客殿から屋根付きの渡り廊下があるので、雨でも濡れずに行くことができます。

更に渡り廊下を進んだ突き当りに、舎利殿があります。
こちらの建物には、源実朝が宋の国から招来した仏牙舎利 (※お釈迦様の歯)が厨子に安置されています。通常は非公開ですが、この仏牙舎利が宋から博多に到着した10月15日を『舎利会(しゃりえ)』に定められ、開扉供養として一般公開されます。
この他にも、堂内には涅槃図や四方に四天王を安置するほか、天井には雲龍図も描かれています。

舎利殿。約2年半という月日をかけて修理が行われ、2023年10月に再び一般公開されました。
舎利殿内部は撮影禁止のため、入口より撮影。奥に見えるのが涅槃図です。

この他に茶室も

こちらも非公開ですが、鹿王院には茶室が2室あります。
この茶室は大河内山荘等を手掛けた数寄屋師・笛吹嘉一郎(うすい かいちろう)によるもので、俳優の大河内伝次郎が普明国師55 年忌を前に、昭和11年(1936年)に隠寮として寄進したものを活用しています。

入口向かって左側には四畳半の数寄屋造が、右側には六畳の書院造の茶室があり、用材の吟味等、笛吹氏の秀でた力量が侘び寂びを感じる造りとなっています。

通常、拝観できるのはここまでで、奥のガラス戸の向こう側に和室があります。
数寄屋造りの和室。広さは四畳半あります。
書院造の茶室。こちらの広さは六畳。
両和室を仕切る壁。奥に見えるのは、夜間特別拝観で披露される『狂言のおもてなし』に使われる衣装。


一度は訪れるべき秋の夜間特別拝観

11月中旬頃~12月中旬の約1か月間、鹿王院では事前申込制・各日150名限定で夜間特別拝観が行われます。
境内の紅葉や舎利殿等をライトアップし、昼とは別世界の風景を楽しむことができます。その美しい光景に、思わず息を吞むかのような気持ちを味わうこと間違いありません。

ライトアップされた参道。昼間とは異なる幻想的な景色が広がります。
竹林エリアもご覧の通りライトアップされます。
夜間特別拝観時間では拝観人数を絞っているので、ゆったりと鑑賞することができます。
ライトアップされた本庭と舎利殿。この期間中でなければ見ることのできない光景です。

また、この夜間特別拝観では客殿でお抹茶や和菓子も頂けるほか、平日限定で京都の伝統文化である狂言のおもてなしもご覧になることができます。
特に、紅葉最盛期には満席になる場合もありますので、お早目のご予約をお勧めします。

提供される抹茶は祇園辻利薄茶『東峯の白』、お菓子は菓匠おくむらの薯蕷饅頭 『鹿王院』。
饅頭には鹿の絵柄もあります。
平日には狂言のおもてなしが行われ、境内を優雅に闊歩します。
役者はランダムで約20分ごとの出演となりますので、どの姿を見られるかはその時次第。
写真提供:鳥本 秀男 様


おわりに

国内外で有名な観光地である京都には、まだまだ知られていない名所がたくさんあります。
その中でも、鹿王院は嵐山からも至近の距離で、アクセスも良好です。嵐山に訪れた際には、ぜひ少し足を伸ばして鹿王院を散策してみませんか?

夕暮れ時に浮かび上がる月と鹿王院本庭。
恐らく、通常の拝観時間では見ることができない光景です。


今回の鹿王院編について、皆様へのお願い

通常、『あり観!』でご紹介する場所は、一般のお客様同様、通常公開されているエリア内のみとしております。

しかし、今回の鹿王院編につきましては、知人より「鹿王院の魅力を紹介してほしい」というご依頼の元、鹿王院並びに関係者のご協力の上、ご紹介させて頂きました。関係者の皆様には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

なお、今回ご紹介した非公開エリアは予め許可を得て立ち入り・撮影をしております。通常拝観時にこれらのエリアに立ち入ると、トラブルの原因となりますので、みだりに立ち入らないようお願い致します。

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