『シン・ザ・モデル』
今回は、SaaS事業者やそれに従事するMarketing、Sales、CSの方々向けの内容です。
※私自身BtoB向けのサービスに従事していることもあり、ややそちら側の概念が強い内容となっています。
実際にTHE MODELを体現する立場にいる方々に読んでいただきたいです。
THE MODELは、有名な本の通りに販売プロセスの左から右への流れを考えればいいという話ではありません。
現に著者の福田さんもnoteで『THE MODEL』の内容は、
「原理原則の理解」のための内容であり、実際のフェーズやサービス、組織に応じて自社のモデルをつくっていくことが必要だと述べています。
今回は私の原体験含め、様々なSaaSに従事されている方々とお話してきた中でみえてきた「THE MODEL」のアップデート版である、『シン・ザ・モデル』をご紹介します。
※THE MODELの落とし穴である、「分業による組織の分断」についても今回の記事を読んで解消できるのではないかと考えています。
1. そろそろ『THE MODEL』をアップデートする、ときがきた
皆さんが見たことあるTHE MODELはすごくわかりやすい、シンプルな販売プロセスです。
私も書籍などを通じて学習する中で、非常に理解しやすい内容でした。
「1つの見込み客が受注され、ユーザーに変わり、継続していく」
というストーリーであり、販売プロセスとしてとても綺麗なモデルです。
しかし、実際に現場で動いている人間は、
「Marketingから始まり、Salesで受注まで持っていき、CSで継続させ、以上終わり。」
という横一線の単純なプロセスを実現すればよいというわけではないのが事実です。
本当に、
「左から右」だけでしょうか。
「右から左」はないでしょうか。
「中央から右や左へ」はないでしょうか。
私が自ら、事業全体のプロセスを構築しているときに感じたことです。
多くの企業がTHE MODELを導入して、各プロセス・ポジションを設けています。
ただ、単純な横一線のプロセスだけの認識であるならばそこは見直すべきです。
現に私たちも最初は左から右への横一線でしか、考えていませんでした。
しかし、事業全体を俯瞰してみたときに大きな違和感に気づくのです。
各ファネルごとでの成果を最大化する ≠ 各ファネルごとにがんばる
ファネルごとで考えているうちは、事業全体の成果は最大化されません。
つまり、販売プロセスを構築するのは各ファネルがロープのようなもので繋がっていることが必要だということです。
ロープを繋ぐことができれば、高い生産性を保つことができ、最小構成でも成果を上げられるようになります。
『シン・ザ・モデル』 と 「THE MODEL」の違い
「THE MODEL」は、SaaS事業における販売プロセスを左から右への単純な流れとして捉えた従来のモデルです。
このモデルでは、Marketing、Sales(IS・FS)、CSという順序で顧客が進んでいくという単線的な理解が一般的でした。
一方、「シン・ザ・モデル」は、この単純な左から右への流れだけでなく、右から左、中央から左右への流れも含む、より複雑で相互連携的なモデルです。
このモデルでは、各ファネルが独立して動くのではなく、協力して全体の成果を最大化することを目指します。
例えば、CSの知見をMarketingに活かしたり、SalesとCSで同じKPI(MRR)を共有したりすることで、より効果的な顧客獲得と維持を図ります。
「シン・ザ・モデル」は、各ファネルの連携を強化し、顧客のライフサイクル全体を通じた価値創造を重視する点で、従来の「THE MODEL」とは異なるアプローチを提案しています。
2. 各ファネルのリアルな意見を集めてみた
今回、自社のみならずオフラインでお会いできる他社のSalesやCSの方々ともお話をさせていただき、THE MODELについて様々な意見を交換しました。
どの企業も、THE MODELを採用して自社モデルとしてつくり上げていました。
しかし、その中でも各組織でのジレンマは存在します。
なぜならば、実際は各ファネルでKPIをそれぞれで追っていき、それに伴い「分業による組織の分断」を引き起こしてしまっていることが多いからです。
そこで今回は、各ファネルことに感じているジレンマを簡単にまとめました。
■ Marketing
マーケティングから販売プロセスがスタートするのは合っていますが、
実際はIS・FSと同じ立場で案件や商談を把握し、どのようなチャネルからどのようなリードを生み出せるかのPDCAを回すことを経営層からも求められることが多いです。
マーケティング領域のみで施策を考えるとするならば、現実路線の積み上げ式の施策しか頭に出てこないことが多いので、
・マネーゲームでどれだけ回せるか
・CPAが¥10,000→¥9,500になりました
というような論点になりがちで、コストアロケーションで終わってしまいます。
ただ本当にそうでしょうか?
実際は、
・ISが整備しているリードスコア的な定量データやコール時に掴む定性データ
・CSが掴んでいるよく利用される機能や導入事例
などを社内でキャッチアップしていき、コンテンツ化したりすることが多く見受けられます。
■ Sales(IS・FS)
流入したリードを案件化させ、商談プロセスを進めながら成約させていくのが基本です。
THE MODELが浸透してきた現代では、Salesは
・IS(インサイドセールス)
・FS(フィールドセールス)
に分けられて各ファネルで独立した概念になっていることが多く見受けられます。
(※連携は同じSalesなので、他の組織と比べると密接であることが多い)
ただ、Sales内(商談プロセス)で案件化率や受注率向上が完結することは基本ありません。
ましてや、サブスクリプションモデルであるならば
「継続してくれる顧客をどれだけ成約できるか」
が事業全体としては大事になり、目先の新規MRRだけを追っていくだけでは事足りなくなっているのが現状です。
現に、FS組織のKPIとしてMRR(新規MRRだけではない)が設定されるのが基本で、受注後にも継続・拡大がされるかが大事になってきます。
逆説的に考えて、『営業力』という言葉のみで片付けてしまうと、
・リストの中身
・先方の温度感
などの、アンコントローラブルなところへのギャンブル要素が残ってしまうだけになり、再現性のない営業活動となってしまいます。
そのため、商談の進め方やクロージングなどのスキル的な向上だけでなく、マーケティングやCSとの連携をし、
・ターゲット選定
・案件化のためのフィルタリング
などをSales組織全体で実行しているサービスが生産性高く、営業活動を行えていることが多いです。
■ CS(Customer Success / Support / Sales / Marketing)
私自身、CS経験が長いので解像度は他の組織よりも高いです。
CSの方々は思った以上に、『なんでも屋』です。
『受注後の顧客を継続させること』これが最低限のKPIです。
近年では、Expansionにも責任を持つのが基本になっており、一概に「Success」という言葉ではカバーできない範囲まで責任と業務が広がっています。
THE MODELの流れをみると、受注後から出てきて顧客を継続しながら拡大もさせていくというような役割であるイメージが強いです。
しかし最初にも述べた通り、実際のCSの方たちは思った以上に『なんでも屋』です。
販売プロセスの向上をさせるには、上記のMarketingやSalesでも紹介していますが、CSからの定量・定性データの共有が重要になります。
ものすごくシンプルな考え方をすると、
CSが1番継続してくれる顧客に近いのです。
そのため、THE MODELの最終地点である『継続数』を向上させるヒントを1番持っているのが、CSであるはずです。
ゲームで言うならば、CSはチートツールであって、MarketingやSalesに圧倒的に有利な情報を与えられる最強兵器です。
CSが持っている情報を、別組織でのコトバに置き換えてみると下記のようになります。
・評判の良い機能 = 潜在顧客が求めている機能
・よくある導入事例 = 潜在顧客の不安払拭できる事例
・継続しやすい顧客の従業員数 = 導入メリットを提示しやすい従業員数
・解約(Churn)理由 = リード時点(展示会やフォームなど)でのフィルター項目
今回は販売プロセスに対する概念なので一部の紹介ですが、社内において「CSは中心的存在であるべき」というホイール的概念が生まれていることを考えると、CSからの社内へのフィードバックはTHE MODELにおいても発生していることは明白です。
3. THE MODELのブラックボックス
各ファネルにおけるリアルな話をしましたが、なぜこれまでのTHE MODELは横一線のプロセスの形で、かんたんな解釈のまま普及できたのかを自分なりに考えてみました。
そこで出た答えとして、下記の3つが考えられます。
① 社内浸透や経営陣への落とし込みにおいては"かんたん"で伝えやすい
多くの企業でTHE MODELについて大きな意味を考えずに、導入するのが「あたりまえ」になってきているところもあります。
サービスリリース直後から各ファネルごとに組織が立ち上がっていき、自然とTHE MODELが出来上がってしまっていることはそこまで不思議なことではなくなってきています。
やはり書籍なども含めてとてもわかりやすく、すぐに落とし込みやすい概念であるがゆえに、自社モデルをつくらずともなんとか成り立ってしまうという課題があります。
マネージャークラスになると、ファネル間の連携などを気にして「カオス」の存在を認識するのですが、それ以外のメンバーや経営層になると各ファネルへのフォーカスが強くなります。
カオスになることは問題ではなく、そのカオスを認知して改善していけるかが重要になります。
※カオスは何かが生まれる予兆なので、ポジティブです。
② "結果"オーライなので、事業として上手く回っていればそこまで意識しなくてもよい
THE MODELに関わらず、販売プロセスを導入する上で1番重要なのが"結果"です。
ビジネスの現場では正直、結果が出ていることがすべてです。
どれだけカオスな環境であろうが、各ファネルのKPIや事業の売上が達成されればOK。
逆に、どれだけ綺麗なプロセスや中身であろうと結果が出ていなければ評価に値しません。
特に成熟期よりも前の草創期・拡大期においては正直なところ、結果以外のプロセスなどを細かくフォーカスしなくてよいフェーズがもあるのが事実です。
「本当はそうあるべきだが、結果が大事」を最優先にし、細かい連携に目を向けないという意思決定も1つの選択肢ではあります。
ただ、完全縦割り型組織になることはありえないので、「どこまでを連携するのか・しないのか」という基準を設ける必要はあります。
③ 各ファネルごとでの"KPI"設定があたりまえ
ファネルごとに組織が分かれていることで"KPI"設定が縦割りになることがあたりまえになってしまっていることも1つの原因です。
そもそもTHE MODELの図において、各ファネルごとに追っていくべきKPIが分断されていることもあり、より縦割り型組織のイメージが強いわけです。
一部、「セールス&マーケ」という言葉がよく言われるのですが、
それはそれぞれの"KPI"が、{ 要素分解しやすい = 確定要素が多い } ので一緒に括られやすいという傾向があります。
一方でCSは、孤立する傾向があります。
"KPI"を区切ることは、「一点集中」のイメージがありますが、単一のファネルで販売プロセスは動くわけではありません。
複数のファネルが支え合って、最大の成果を上げることが重要です。
そもそもジレンマを感じるということは、間違ってはいないけど大正解ではないという感情なので、THE MODELのこれまでの在り方は決して間違っているわけではありません。
ただここからは現場レベルでの大正解を出すためのアクションを提示します。
4. 『KPIロープ』を導入する
ファネルを分けてそれぞれで生産性高く動いていくことで営業効率UPをできるのが、THE MODELのメリットです。
しかし、それは「ファネルごとに動けよ」ということではないのにも関わらず、多くの組織でなかなか連携ができずにお互いに牽制し合うような構図ができてしまっています。
同じ経営目標に対して向かっているはずなのに、なぜこのようなことが起こるのか。
それを簡単に表したものが下記となります。
ベストなのは、一緒のルートで山を登ることです。
しかし、実際の業務に当てはめて考えると、同じことをするわけにもいかないので簡単に実現できることではありません。
それではどのように見えてる景色や進捗を合わせていけばよいのでしょうか。
同じロープを持てば良いのです。
また、あまりにも遠くなってしまうとロープが切れてしまいます。
一定の距離を保つためにも近づいて一緒に進むことが必要です。
また、少し離れて一緒に進みたい場合はロープを伸ばして、人を増やします。
そうすることで中間が生まれ、全員で均等に進んでいくことができます。
このようなことができると、各ファネルごとでの牽制はなくなります。
よく、「MTGをして情報共有をしよう」ということをしますが、
あれは方向性を修正する役割であって同じ方向性を足並み揃えてするには不十分です。
同じ目標、つまり『KPI』を一緒に持つことが1番早くて、かんたんな連携方法です。
そもそも"組織と組織"、つまりは"人と人"が体現することなので「はい、じゃあ連携して頑張ってね」ではただの放置プレイです。
『KPI』を持たせることで、「できる・できない」ではなく、「どうやったらできるか」という頭に切り替わります。
そこからがスタートです。
下記のようなポストでも同様の考えが広まってきています。
5. アクションしよう
『シン・ザ・モデル』を実行するには、KPIロープの合意が必要です。
『KPIロープ』の実装 = アクションに落とし込む際に最も大きな壁となるのが、
各ファネルごとの「長期的」・「短期的」のギャップです。
「商談中の顧客」と「導入済の顧客」とでは、やることも違うので自然と"視野"や"施策"にギャップが起きます。
このギャップをいかに埋めて、お互いにやるべきことを整理整頓できるかが重要になります。
その際に、必要なのが『KPIロープ』です。
まずは一旦、ロープで繋いでみましょう。
ロープが綺麗に張っていなくても構いません。
最終的には、足並みを揃えて販売プロセスを構築することができます。
企業やサービスによってどこに揃えていくかは変わってくるので、そこは自社モデルをつくっていきましょう。
ここからは具体的に何をすべきかをご紹介します。
おすすめなので、自社に置き換えて様々なアプローチを考えてみてください。
1番初めに着手すべきなのは、
① Sales MgrとCS MgrのKPIを、「MRR」にすることです。
New MRRもExpansion/Churn MRRも、MRRです。
あえて分ける必要はなく、SalesとCSで同じKPIとして持つことが、かんたんな連携方法です。
※場合によっては、Expansionせずとも新規で高単価で受注できればOKという意思決定すら取れます。
次におすすめなのが、
② MarketingとCSで、「リード」のKPIロープを繋ぐことです。
なぜならば、販売プロセスのスタートを変えることができるからです。
そもそも、「ユーザー解像度」と「プロダクト理解」が高いのは1番現場に近いCSになります。
※これは必然です。
CSからの細く、正確なフィードバックを新規顧客向けのMarketingに還元していくことは短期的にみても効果が出やすいため、おすすめです。
実際のアクションとしては、Customer Marketing(最初はSuccessと兼務でOK)のメンバーが、コンテンツ作成やウェビナー登壇するのが下手なコミュニケーションもなく、PDCAを回しやすいです。
また、CSQLはそもそも既存顧客が増えることが大事です。
事業フェーズにもよりますが、CSが責任を持って新規リード向けの施策に関わっていくことは短期間でも効果検証可能なのでおすすめです。
最後になりますが、SaaS企業は"LTV"がポイントです。
成約までがゴールではなく、継続と拡大が目指すべき目標であるため「シン・ザ・モデル」をいかに理解して現場を回せるかが、事業の成長性を決めます。
まずアクションを起こすとなると、各ファネルのマネージャークラス以上の力量が試されます。
いわば、組織改善レベルの話になってくるからです。
しかし私自身、色んな方々とお話しさせていただく中で今の業界にはとても優秀な方々ばかりなので必ず体現できるだろうと思っています。
また、色んなところでお話ししましょう。
それでは、また。
※ おまけ
『シン・ザ・モデル』の中で、CS部分を簡潔に表現しましたが、実はかなり複雑です。
「継続率」を因数分解して、現時点でどこをレベルアップしていくべきかを考えてみると組織としてハッキリとした方向性がみえてくるはずです。
Customer Marketing領域では、「CSQLの創出」がメインKPIになりますが前提として下記のような方程式が組めます。
{ 既存顧客数UP = 新規顧客UP = 受注率UP = 案件化率UP = 商談化率UP }
既存顧客が少ない状態でも、新規向けのMarketingと「商談化率」でKPIロープを繋ぐと事業全体として短期的にも効果が出ると思います。
それくらいCSからのフィードバック + コンテンツは強いはずです。
また改めて、note書きます!