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海外ポスドク1年目にやってよかったこと

ポスドク2年目が始まって心穏やかに過ごしている。毎日やるべきことにきちんとフォーカスして目標に近づく活動を積み重ねることができているのは1年目で生活の土台、モチベーションの土台を整えることができたからではないかと思う。バタバタしていた1年目だが、振り返ると自分なりにやって良かったと思うことがあるので共有する。

初めに私のプロフィールを簡単に述べる。2023年3月に日本で博士課程を卒業し、渡米。ここヒューストンに構えるライス大学にてポスドクとして研究活動に従事している。最初のオファーは3年間で給与は保証されている。専門は神経工学、バイオテクノロジーを使って神経科学研究の発展や疾患治療に貢献できる技術開発を目指している。ここでのポスドク経験後はできるだけ早く自分のラボを持って独立したいと考えている。

やってよかったこと1・フェローシップ獲得


フェローシップを獲得したことはラボでのプレゼンスを高め、研究活動を堂々と進める上で重要だと感じた。僕の場合は幸いボスがどんな状況でも給与は保証すると言ってくれていてフェローシップがなくても金銭的に困ることはない。しかし実際にフェローシップをとった後は自分自身に大きく自信を持つことができ、ボスに対してもメンバーに対してもこれまでより自信を持って発言が出来るようになったと感じている。どこかでポスドクとして雇ってもらっているという引け目があったのだと思う。さらに大きいのはフェローシップの応募に費やしていた時間やエネルギーを今目の前にある研究に費やすことができるという変化だ。フェローシップは言わずもがな実績としてカウントされる側面がある。そのためなんとか獲得しないといけないという焦りから常に文書作成、編集、図の作成、先行研究の勉強などに追われていた。今はそれらから多少なりとも解放されて目の前の研究にじっくりと向き合い、戦略やデータ分析などに深い思考を使うことができている。最後に大きな変化はフェローシップをとったことによる給与アップである。本年度の給与は昨年より20%以上アップしており、テキサスで暮らす上で金銭的不安を全く感じないほどになった。一社会人として堂々と胸を張れる懐を持てるようになったのは嬉しい。多少の貯蓄に回しながらもファッションや経験、勉強などに積極的に投資していきたい。
 フェローシップ獲得はこれらの変化をもたらしてくれたので、1年目本当に苦しみながら幾つも出し続けて良かったと思っている。また採択までに献身的にサポートしてくれたボスや、添削をしてくれた沢山の友人、推薦状を書き続けてくれた先生方に深く感謝している。帰国の際には一人一人に御礼をするべく会いに回るつもりだ。

やってよかったこと2・研究以外の趣味習慣の確立


主に陸上競技のクラブでの活動とベース演奏に日々励んでいる。もし一年目でこれらの活動を行う十分な環境を得ることが出来てなければ、色んな運動の機会に参加したり、成果の出るかわからないことを脳死で努力したりと変にエネルギーや時間を吸い取られていたと思う。これらの活動に自信を持って取り組める土台があるのは時間の制約が大きいポスドクにはありがたい。
 健康のためにも何かしらの運動はしていたいと思っていた。たまたま研究所の建物の前に陸上競技場があったことから試しに見にいってみると学生以外を主に活動しているクラブがあり、それに誘っていただいた。実際に練習に参加すると、そのメニューは質、量共にかなりレベルの高いものであることがわかった。それもそのはず、コーチは本アメリカのリレーチーム代表、何人かのシニアのメンバーは世界マスターズでチャンピオンにもなっている。日本で準トップアスリートくらいの立ち位置にいた自分にとってそんな猛者どもとレベルの高い練習することはとてもエキサイティングだった。健康のため、ストレス発散のためと思っていたが今は少しばかり、もう一度日本選手権に出場してみたいなと思ったりなどしている。活動は平日ほぼ毎日夕方に2時間ほど行っている。17時くらいに研究所を出てワークアウトして帰宅する、なんとも健康的な生活を送っている。
 昨年から本格的に始めた趣味としてベースの練習を続けている。こちらについては1年弱自己流でYouTubeを見ながら知っている曲をさらっていたが、昨年末あたりからオンラインコミュニティにも加入して効率的な練習をしていこうと努めている。趣味としてこれは人生を豊かにしてくれるものであるという確信から、時間を十分にベットすることに決めた。大体平日なら1日2時間強、休日なら4-5時間は練習している。この時間の費やしかたは、海外ポスドクでかつ独身者として生きている人の特権だと思う。数年後どれだけ自分の技術がたかまっているのか想像するだけでワクワクする。
 以上の研究以外の活動においてルーティン的に行動する基盤を作れたことが、有意義な日々を過ごしているという実感に繋がっている。

やってよかったこと3・人間関係、コミュニティ形成


新天地に来て初年度は色んなコミュニティに顔を出してみたり誘われれば積極的に足を運んだりとネットワーク構築に精を出していた。これはひとえに研究生活に役に立てば、みたいなことだけではなく単純に心穏やかに関われる大事な友人関係を欲していたからである。良くも悪くも僕は1人では生きられず、ストレスフルな日には話を聞いてほしいし、たまには羽を伸ばして飲みにいったり遊んだりしたい人間なのだ。
 結果的にいくつかの場所では、深く仲良くなりたい!楽しい!と思う人と出会うことができた。定期的にテニスをしたり時間を合わせて飲みにいったり、タイミングが合えばなるべく参加したいと思える研究コミュニティにも出会うことができた。その一方で、なんか違うな、疲れちゃうなと思ってしまうパターンもいくつかあった。これに関してはしょうがないと割り切っている。もちろんこれからも面白そうと思ったものには足を運ぶことをやめないが、初年度ほどネットワーク作りに焦るひつようはないと思う。今もつことが出来た大事にしたい繋がりを大切にしていきたい。
 どんな人間関係をもつことが出来るかは人生の幸福度に大きく寄与するらしい。何もない状態でアメリカに渡り寂しさや、孤独を多少なりとも抱えていた自分も、今は会いたいと思える人たちが沢山いる。こうした穏やかなメンタル状態を迎えることができているのは、初年度に多少なりとも無理をして色んな人に会ったりしようとしたからだと思っている。日本にいる大切な友達に会いたいとはもちろん思うが、ここにいる友人との時間も同じくらい楽しく大事なものなので、もう寂しさなどは感じない。

以上3点が初年度にやっておいて良かったと強く実感していることだ。研究活動の生産性という点で考えると、もしかすると非効率だったかとしれないしもっと研究自体にエネルギーを使えたかもしれない。ただもし自分がそれをして上記3点を得られていなかったとすると、幸福度としては低く、もしかすると研究も長期的に頑張れる状態になかったかもしれない。初年度に培った生活の土台を元にポスドク2年目思いっきり研究も生活も遊び尽くしていきたいと思う。今こそ思う存分打ち込める時であり、間違いなく今までの人生で1番幸せな時なのだ。

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