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黄色い愚鈍とピンクの憂鬱と青い海とあとなんとか

薄荷飴を舐めながら
スッと口の中から鼻に抜けて行く風

私はぼーっと干された洗濯物を眺めながら
何も考えないこと
それを考えている

薄荷飴がなくなりそうになると
それを無理矢理噛んでしまって
何か罪悪感に襲われる
ここで何も考えず解放されている時間が一番気持ちいい
少し昼寝をすると祖父へ一言声をかけて
畳に横になる
祖父はいそいそと畑に向かう

じっとりとした暑さに襲われて
起きると毛布がかかっていた
きっと祖母がかけてくれたのだろう
ありがとうと言いたいところだが
起き上がったら汗でびっしょりで
着ていたシャツが濡れ雑巾みたいになってしまった

肌着一枚で海の風に当たるのはきもちいい
化粧もせずに
日焼け止めなんか塗らず
今日も従兄弟を連れて海へでかかける
こんなところで誰かに見られることなんかないんだ
恥も外聞もなく
のんびりとした夏を過ごす
これ以上に幸せなことはない

祖父は私にはよくわからない高校野球を見ている
途中まで見ていると段々と瞼が重くなってきたようで
いつのまにか寝ている
私と祖母はそれを他所にご飯を食べる
今日は鰤の煮付け
いつも私は皮と目ん玉しか食べない
そこが一番美味しい
昔からこんなことしてるから
いつもクラスでも変なやつだと思われるんだろうか

LINEの返信は来ていないようで
もう3日前に確認するのやめた
スマホの電源を落とす
友達からのLINEも申し訳ないけど面倒くさいから放置
もう忘れることにした
最初はめちゃくちゃイライラして
友達にあたったりTwitterに愚痴を書いたりしていたけど
それも馬鹿馬鹿しくなってやめた
結局はこうなってしまう運命だったのかもしれない
なんて思うのもありきたりな展開すぎて吐きそうだ
どうせなら
きっと死にたいと思えるような恋をさせて欲しかった
一生を後悔するような女になりたかった

今はこうやって従兄弟の頭を撫でているだけで
とっても幸せなんだ

だけどもう少し時間が経って
家に帰って
授業が始まって
カップルなんかが目の前を通ったりすると
これがいけないのである
考えただけで頭がクラってなる
いつまでもこの夏休みは続いてはくれないんだ
私はそんなに弱くはないけど
強くもないから
結局なんの行動も起こせずに
この海に委ねてしまうの

X連鎖劣性遺伝病の1つである赤緑色色盲は
女性がかかる可能性はとても少ないんだって

そんな私の眼球には
いつも赤信号と黄色信号の色の違いが
少しわかりにくいのと同時に
誰にもわからないであろう
私にしかわからないであろう
綺麗な青い空と海が映っている

一階から祖母の呼ぶ声が聞こえる
吸っていたセブンスターをポケットにスッと忍ばせて
ギシギシいう階段を恐る恐る降りていった

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