ポジ
眠れない夜がある。
遠足の前日。
昼間に寝すぎた日の夜。
友達の家に泊まった日。
キャンプに来てる時の寝袋の中。
台風が来てる夜。
台風が来ると、いつもおやすみなさいと両親に言って布団に潜ってから、しばらく待った後にこっそり窓の近くへ布団を被ったまま外を見に行っていた。
ごうごうと音が鳴って、街頭の白い明かりに照らされた薄暗い家の前の道を、葉っぱやゴミとかが飛んでいくのを眺めていたのだ。
たまにその葉が窓にあたって小さな音を立てるのが面白くて、ずーっと見ているうちに窓のそばで寝落ちして風邪をひいたこともあった。
本当は、窓の外に出てみたかった。
その風を感じて見たかった。
危ないから出るなと言われると、余計に気になるものだろう。
だから、大人になって一人暮らしを始めてから初めて台風を体験した時は、子供のように心踊ったのを覚えている。
風が強く吹いているから、窓の外からごうごうと低い音が不規則に聞こえてきて、たまにマンションのすぐそばに生えている長い雑草の葉っぱが、窓にあたってパシパシと軽い音を立てていた。
その様子を窓から見ていたら、なんだかいてもたっても居られなくなって、サンダルを履いて音が小さくなった隙を見て家を出た。
外には人なんてだぁれもいなくて、少し雨も降っていて、強い風が吹くと小さな葉っぱとともに髪の毛が吹き上げられて、Tシャツもはためいて、なんだかそれがおかしくって、たのしくって、街灯の少ない暗い夜道で小さく笑い声をあげてしまった。
そうしたらなんだか気分が良くなったので、弾んだような足取りで近くのスーパーに行って、ヤクルトくらいの大きさの飲むヨーグルトをたくさん買って、帰ってきた。
それで家の前に帰ってきたとこでとても強い風が吹いてきて、全然やまなくて、なんだか私を家に入れないようにしてるみたいだと思ったらまたおかしくって、笑った。
風が一瞬弱まったスキをついて家に入って扉を閉めたら、そのスグあとにまたごうごうと大きな音を立てて風が通り過ぎていくのが、なんだか怒っているみたいだった。
部屋に入って、飲むヨーグルトのたくさん買ったうちの1本を飲んだ。
子供の頃は1本で十分だと思ってたけど、この容器でこんなちょっとしか入ってなかったんだなぁなんておもった。
おいしかった。
1ヶ月前に切った髪の毛は、もうすっかり乱れてしまっていたけれど、吹きすさぶ風が楽しかったから気にならなかった。
その後も全然眠れなくて、窓の外見ながらあの時みたいに寝落ちして、朝日の眩しさに目を覚ました時には、風はすっかり止んでいた。
くしゅん、と小さなくしゃみが出た。
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