「〔少女庭国〕」のかんそうぶん

あるいはhttps://www.amazon.co.jp/dp/B07T3KL71L/ref=cm_sw_r_tw_dp_LcgbGb29JNKEY?_encoding=UTF8&psc=1

読みました。設定と描写と諸々の相性が私とあまりにも良すぎて一息に読み切ってしまいました。これはすごい本に巡り合いましたよ!!

この本は癖が強く、はっきり言って奇書の類に分類されるものだと思いますが、おしなべてそういう本はハマる人にはとことんハマるものだと思います。
本記事ではパートごとにネタバレの有無を分けつつ、全力で自分の思うところを書こうと思います。


どんなお話なのか?〔特にネタバレはない〕

〔少女庭国〕は閉鎖空間で発生するデスゲームものです。卒業式の日に、突然扉だけしかない狭い小部屋に閉じ込められた少女(卒業生)。その扉には”卒業試験”と題され、以下のような課題が出されます。

ドアの開けられた部屋の数をn、死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ

そして、扉の先にはまた同じような小部屋。同じように少女(卒業生)。その小部屋にもまた同じように扉。その扉の先には同じように小部屋と少女(卒業生)……以下延々と続きます。

小部屋にはドアしかありません。それ以外は何もありません。窓もなければ外に出るための道も見つかりません。食料も当然見当たりません。そこに生まれるのは、閉鎖的極限環境です。

果たして、少女達(卒業生達)の脱出は叶うのか?


・・・というお話です。
デスゲームものというと、閉じ込めた主催者と参加者、そして閉じ込められた者たちの間における心理的駆け引きなんかが見どころだと思います。

設定された課題に取り組もうとするもの、抵抗し主催者の意図を挫こうとするもの、他者を蹴落としてでも生き残ろうとするもの、誰かを生き延びさせようとするもの、生存を放棄しようとするもの・・・いろんな人間同士の関係が生まれてくるわけですが、その図式を卒業式当日の中学三年生の少女たちに当てはめようというわけですから、これは随分とインモラルで、趣味が悪い本です。もちろん、それが好きだって方もいますよね?私は好きです。











文体の癖、会話のテンポ〔特にネタバレはない〕

会話のテンポ感が非常に独特、かつリアルでいいなあと思っています。
読点を極力挟まず、省略を多分に用いて、地の文もとても控えめ。言葉と言葉の応酬をスピーディーに繰り広げる文体はかなり独特です。


「将来?  将来やりたいことは、やりたいことじゃないけど、一応小説書いて応募して、駄目なら社会人なろうと思ってます」「小説書いてるの」「ないない嘘内緒。以上質問ないよね」「好きな人」「わ ーない」「ええ」「もういい?」「お話ってどう書くの?」「知るか」君子が笑った。「え、だから、出る人物に何か欲しがらせて、手に入れるために行動させんだよ」「ちょうすごい!」「プロい」「もうやめて」「拍手!」」

こんな塩梅です。口語のテンポ感をそのまま持ってきたという感じのスピード感。時として読みづらくもありますが、その読みづらさがまた会話らしい。勢いよく展開する小気味よさ、言葉選びのらしさが、死と隣り合わせの極限空間にいながらして得も言われぬユーモラスさを醸し出します。ホラーコメディとでも言うんでしょうか……始終この調子です。

これに加え地の文も同様に読点句点が少な目で、ガーーッと読ませる文章です。読んでいてどんどん情報の濁流に押し流されていくようです

人を選びますが、ハマると抜け出せなくなります。










無限空間の最悪性〔特にネタバレはない〕

本作の重要な要素は、何といってもこの空間が「無限」であることです。

少女(卒業生)が閉じ込められた小部屋は、ドアを介して次の小部屋と繋がります。次の小部屋には少女(卒業生)がまた閉じ込められていて、その小部屋もまたドアを介してそのまた次の小部屋と繋がります。これが無限に続くわけです。無限に続くということは、少女(卒業生)もまた小部屋の数≒ドアの数だけ存在しており、つまりは、少女(卒業生)もまた無限に存在するわけです。

ドアを開ければ開けるほど少女(卒業生)が増え、卒業試験の条件を達成するのが困難になってくるということですね。少女(卒業生)の人数が増えていくということは、その分、死ななければならない少女(卒業生)の数も増えていくということです。大変悪趣味だと思います。(褒)

人数が増えれば人命の扱いも変わっていくかもしれません。少女(卒業生)は無限に存在すると思われるわけですから、一人や二人死んだってどうってことはないのかもしれません。もしくは、命はそんなに軽く扱うべきものではないということになるかもしれません。

本編では何人にまで増えるのか、ぜひ読んで確かめてみてほしいなと思います。











おまけが本編〔若干のネタバレがある〕

この言葉を用いる日が来るとは思いませんでした。

本作は仁科羊歯子という一人の少女(卒業生)の視点から展開されます。羊歯子をはじめ、同じ境遇に置かれた少女達(卒業生達)がこの空間でどう行動していくのか……そして試験の結末は……というところまでを描き切ります。

ところで〔少女庭国〕は「少女庭国」と、おまけの「少女庭国補遺」で構成されます。

おまけは、仁科羊歯子ではない別の少女達(卒業生達)を描写していきます。


なお、おまけは分量にして本書全体の75%ほどあります。




























〔少女庭国〕の感想〔ネタバレしかない〕

なんだこれはーーーーーーーーーー!!!!こんなもの世に出しおって!!!奇書!!!!!奇書!!!!!!最高!!!!
あれあるじゃないですか順列都市ってイーガンの小説あれって円周率みたいに無限に存在する可能性のなかにこういう配列もありますよだからきっと都合のいい存在も観測しえますよみたいな論理で出来上がってると思うんですけど無限ってのはこういう風にもできるわけですよねただこれは少女たちがどのように死んでいくかを眺めて楽しむ少女死亡シミュレーターじゃないですかほんとなんというものをしかもバラバラにローグライクよろしく初期条件に戻されるんじゃなくてみんなちょっとずつ所持物が違うのでそのあたりの運の兼ね合いによって異なる所持物と排泄物とで土が出来最終的に庭国が出来上がっていくというのはほんと無限の為せるワザだなという感じがしますよねいやほんとすごいですねSFですねこれしかもあれですよ途中まではあーこれいろんな死に方をひたすら出していく感じなのかなと思ってたら食料のリソースとして人肉食を始めるあたりからああこれ危険な匂いがするなって思い始めてきましたけどなんかドア破ることに成功したあたりでえっそこ破れるんだってなるじゃないですかそれでだんだん生き残りのレベルが高くなっていってどんどん文明が進んでいくのとかも相俟って壮大な構想が進んでいくあたりでもうヒートアップですよね無限に続く閉鎖空間における社会のシミュレートも見事で社会の階層構造がどうやって生まれていくかとかそういう話を読むだけでも結構面白いんですが何よりも超序盤の羊歯子達のパーティと合流する展開とそこから「反省」という言葉がまさかそんな形で生きてくるとは思わないじゃないですかなんなのこれランダムで少女たちの死に様を観測していく悪趣味な遊びかなと思ったらいきなりこれですよ伏線回収か?は?みたいなほんとねやってくれますよねそして最終的に卒業試験そのものをぶち壊しにするっていうか奴隷になるために卒業させるっていうのはほんと皮肉もいいところじゃん?まああんまり社会風刺とかそういうの考え始めると話がややこしくなるっていうかそういう視点を常に介在させて読まなきゃいけなくなるのはある種の足枷かもなと思うんでそのあたりのコメントは差し控えますけれどもそれにしてもほんと卒業試験ぶち壊しにしやがったなってあたりでめっちゃ笑いましてはい最高でしたもちろんいろんなところに詰めると穴も皆無ではないと思うんですけれど結局そんなのどうでもいいくらいには文章と設定で殴りに来るみたいな感じですよあっあとこれは作中でも言われていますけれど次第に時間が経過していく中で少女達も歳を取っていくわけですけど最年長がもともと中三しかいないので大人が介在しないことによって思考レベルが進化せず外見は年寄りになるけれど会話は中三のまま大人になっていくみたいな歪な描写をはじめ悪趣味が極まってますよねこの本百合SFフェアで宣伝されたって聞いてますけどこれを百合として扱って出すのほんと危険だとおもいませんまあ確かに百合か百合でないかといわれたらまあ百合かなって思わなくはないですけれどでもわたしは普通にこれ百合って言われて最初にこの一冊を読んだとしたらもう絶対百合っていうものに対してゆがんだ思想しか持てなくなると思うんですけどいいんですかねそこんところまあでもいっかだってこれほんと最高だしとにかくその分ほんと徹頭徹尾趣味が悪くて最悪です最悪です笑顔で最悪ですって言えるというかもう何か気持ち悪い笑いが出ちゃいますよねデュフフっていうかほんとそんなかんじでさいあくなんです悪趣味が極まってて大好きでしたこの本に出会えてよかったです。

























併せて見たい作品〔特にネタバレはない〕

〔少女庭国〕を気に入った方ならきっとご存じとは思いますが、いくつか個人的にお勧めしたいものを挙げておきます。

まずは、もはや説明不要の名作「CUBE」です。突然立方体の空間に閉じ込められた数人が、限られた情報をもとに脱出を図るワン・シチュエーションスリラーです。立方体空間はかなり殺意が高く、デストラップだらけです。
少女庭国における「閉鎖空間脱出スリラー」の要素を強く感じさせます。
CUBEは三部作ですが、初代をまず絶対にご覧になることをお薦めします
少女庭国にサスペンスみが足りないな、と思われましたらこちらです。



続きまして「パラドクス」です。
これも非常に秀逸なSFスリラーです。
こちらは少女庭国における「無限」の要素を感じさせるような映画で、
詳しく書くとネタバレになってしまうのですが、これについては予告編をご覧になると嗚呼なるほど……という気になってくれるかもしれません。

謎の提示とその解決が大変見事で、二度は同じ気持ちでは見られないタイプの映画でしょう。ぜひ見てほしいなと思います!


表紙について〔特にネタバレはない〕

少女庭国の表紙は現在二種類見受けられますが、私はこちらが好きです。
ただこちらは旧版の表紙なので、お求めの時はトップリンクの新盤をお読みになった方がよいかなと思います。

色とりどりのキャラクターがいそうに見えてその実その違いはあまりなく、かなり無表情気味、あるいは無個性な印象をさせているというところが本作の内容との兼ね合いからもとてもマッチしている印象です。あと地味に手に持っているものがね……本作読み終えてから見直すとああーこういう子たちがーーーってなってエモーショナルさが増し増しです。読んで地獄に行きましょう。





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