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タイムカプセルは楽しくない。

小学3年生の私へ

私は今29歳の夏を過ごしています。

住まいは東京。そう、あなたが憧れていた場所に私は住んでいます。
ここは楽しいけれど、夏は暑すぎて毎日脇汗と背中汗でブラウスに染みを作りながら過ごしておるのであなたが憧れていた都会のOLとはかけ離れた姿で日々を過ごしております。湿度も高くて一日の最後には体がベットリとして気持ち悪いです。

今はお盆で実家に帰省しています。こちらの夏も暑いけれど、カラッとしていて東京よりは過ごしやすいですね。

さて、さっき小学生の頃の同級生が家を訪ねてきて、当時小学校の庭に埋めたタイムカプセルのお手紙を届けてくれました。

タイムカプセルのことはうっすらと覚えていましたが正直みんなそんなこと忘れて掘り起こされることなんてないと思いこんでいました。

だから20年前に書いた手紙が今自分の手元にあることにとてもびっくりしています。

小学校3年生の私は、未来の自分宛てに何を書いたのだろう?

タイムカプセルを開封することなんてそうそうありませんから、気分が高揚します。

だから私は家族の前でその封筒を開封し、意気揚々と便箋を開き、声に出して読み始めたのです。

「20年後の私へ!

あなたは今、結婚してますか!?

してないのだったらかっこいい彼氏くらいいてよーー!・・・」

小学生の純真無垢な私がピュアな気持ちで書きなぐった文章。タイムカプセルというなんだかSF映画みたいなワードにワクワクしながら書いた文章。それが皮肉にも、今の私に向かって残酷な刃を向けてきました。

私は気まずそうな母の視線を感じ、読むのをやめ、

「あはは・・ふ~ん、覚えてないや~・・うんうん・・・」

と、乾いた笑い声を上げながら便箋を折りたたみ、封筒の中に戻しました。

実は封筒の中にはもう一枚便箋がありました。

「あ、もう一枚あるーー!」

気持ちを切り替え、私はそちらの手紙を取り出しました。

それは20年前の両親からの手紙でした。

「あなたは今幸せですか?もう結婚していますか?
お母さんはあなたのかわいい孫を見ているのでしょうか?・・・」

両親からの手紙も、結婚の話題で持ち切りでした。

そしてさらに悪いことに、孫にも言及されていました。

こちとら、結婚すらしてないのによぉ・・・。

隣に立って手紙をのぞき込んでいたおばあちゃんに

「あらあら、早く良い人みつけないとね~」

とトドメの一撃を刺されました。

私は静かに便箋を折りたたみ、封筒にしまいました。

最初のあの高揚は今やどこかに消え失せ、私の暗い心には惨めという2文字だけがぷかぷかと浮かんでいました。

さて、小学3年生の私よ。

今、29歳の私に何かアドバイスできることがあるとすれば、こういうことです。

安易に結婚とか彼氏とか、そういうこと書くんじゃねーぞ!
でないと20年後のお前は、家族の前でこの手紙を読んで赤っ恥かくことになるぞ!

現実はそんなに甘くないのです。普通に生きてれば自然と彼氏ができて自然と子供が出来て家族が出来て、そうやって考えていたと思うけど、全然そうじゃないのです。もちろんそういう人もいるでしょう。私の年齢で結婚、出産、さらには離婚も経験した同級生ももちろん存在します。でもあなたの人生はそんな風にとんとん拍子に進まないです。そんなに器用に生きられる人間ではないのです!

彼氏作るにも、結婚するにも、家族作るにも、すべてに努力が必要なのです!

タイムカプセルっていうワードに浮かれるなよ。

いや、ほんの1分前の私も、そのワードに浮かれていたことは認めるよ。
でも今気づいたんだ。タイムカプセル、使い方を間違えれば容易に人を気付つける凶器になり得るということに。

だからさ、安易に夢や希望で一杯の文章を書かないでほしいんだ!

健康が一番です、とか、老後一人でも生きていけるような趣味を今のうちに見つけてください、とか現実的なこと書いとけ。

そうしたら、20年後の私もタイムカプセルを楽しめるからさ。



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