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夏の夜道

手を繋ぐ。未だに一瞬ドキッとしてしまう。ときめきではなく、ある種の背徳感。誰が見ているか分からないのに。

でもすぐに、見られたからといってそれがなんだと思い直す。酔いも手伝って気が大きくなっているのだろう。

繋いだ手の熱を冷やすかのように、夜風がすり抜けていく。今確かに繋がっているという感覚だけが、我々の両手を支配している。この不確かな世界の中で、繋いだ手だけは。

指を絡められるとなんとなく照れ臭くて、つい上を向いてしまう。月が綺麗だ。自らと遠く離れた対象物に思いを馳せることで、無意識に距離を取ろうしている。このままずっと触っていて欲しい。この感触を忘れたくない。

汗ばむ掌は、体温のせいだけではないだろう。誰も知らない物語。我々だけが知っていれば良い、それだけの話。

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