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暮れ、りなぴっぴと繰り出す

洗われたように澄んだ夕暮れの冷たい空気。
恵比寿でりなぴっぴと待ち合わせる。
「お疲れ様です」と軽い一言。
あっさりとした言葉使いの中に情感があり、好感が持てる話し方だと思った。

りなぴっぴとは、定期的に餃子を食べる謎の会を開催している。
会の発端は、あるお店の餃子の味に納得のいかなかったりなぴっぴが「今度美味しい餃子を食べに行きましょう」と言ったことだった。

恵比寿駅西口の恵比寿像から歩いて2分ほど。
恵比寿様の満面の笑みに見送られ、身を運ぶ。
暗くなりかけてきた街の路地に、優しく明かりを灯すように立ち並ぶ飲食店たち。

細長い建物に到着。
階段を上り、3階の個室へ。掘りごたつの座布団にこじんまりと腰を落ち着ける。
手際よくメンソールのカプセルを噛み、うっすらと煙を吐き出すりなぴっぴ。
吐き出したその口で「いいお店ですね」と素早い判断を下した。

お通しで出てきたくるみの飴炊き。というものらしい。
中国のお節の定番で、日本でいうところの甘露煮。西洋でいうところのグラッセ。例えは少し取り損なっている気もするが、味は美味しい。
このお店では、行儀よくカシューナッツもご一緒させていた。

パクチーに目がなく、最近はエビマヨにハマっているというりなぴっぴ。
きびきび動く店員さんから、お目当ての品が飄々と運ばれ、ご満悦の表情が続く。
りなぴっぴはよだれ鶏があったかいものだと思っていたらしく、その冷たさに面食らっていた。
今まで何を口にして、よだれ鶏と認識していたのかと束の間思いを巡らす。それが油淋鶏あたりであれば一応は安心する。

餃子を何種類か軽快にいただき、「最高なお店ですね」と上機嫌。
お酒は時間をかけて一杯を計らう。
これが上級者であると思わせるかのように、順序のよい手さばきでメニューをこなしていく。

箸を進めた分、身の上話も転がっていく。
聞けば聞くほど難解な経歴に、幾度も不意をつかれる。

短い時間で数品を楽しみ、店を出る。
特段垢抜けてはいないが、ささやかな充足感が漂っているように見えた。気がした。
店の明かりにじんわりと照らされて、うっすらと微笑む。
その表情は、前日に劇場の楽屋で小道具を作っていた時のそれと同じだった。

工作気分で手堅く仕事を進めていた。
仕事をする音が心地よい人には魅力がある。

恵比寿。入る前より少しばかり暮れていた。
違う店の明かりに気付く。
建物の間を抜く夜の風。
肌寒い空気に包まれながら、次へ繰り出そうかと歩み出した。

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