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村松とあれくらいの深酒

村松の自宅へ向かうため、夜に家を出て地下鉄に乗車。
地下鉄は朝でも地下なのに、夜はちゃんと夜の表情を作っているのですごい。

村松とは何回も飲んでいるけれど、家に行くのは初めてなので駅で待ち合わせる。
学生同士のカップルみたいなことしてるなと思った。
こちらの到着時刻を送ると、近くの喫煙所にいると連絡が来た。学生同士のカップルみたいではなかった。

駅に着き喫煙所へ向かう。そこに村松はいないが、特に驚きはしなかった。
大人しく待機し、電話をかけてみる。
「今改札前。え、喫煙所の方行っちゃったの?了解。すぐ行く!」と元気な声。
小学生の頃、書道の教科書で「元気な子」という見本があったのを思い出した。あの頃想像していた「元気な子」とは相違していた。
そういえば「書道の教科書」ではなく、「習字の教科書」だった気がしてきた。あれは字を習っていたんだなぁ…。

自分が場所を間違えた可能性をゼロにするため、一応LINEを見返そうかと思ったが、取り急ぎ数秒前まで自分の耳を添えていたスマホの画面を迅速に拭き、ロック画面で時刻を確認した。ちょうど約束した時間くらい。
もうしばらく待っても村松は来ない。これもまた、驚きはしない。
いると言われた場所にいる思っていたら、彼とは付き合えないし、すぐ行くと言われてすぐに来ると思っていたら、彼とは仲良くなれない。
こちらから改札の方へ出向こうと思い、歩を進めた。

駅前にある信号機の青い点滅の下に標的を捉える。こちらに気が付くと小刻みに手を振り、すぐにやめた。理由はわからない。
合流にかかった時間は5分ほど。まずまずのタイムだなと。

家に着くとさっそくベランダへ。「ここが気持ちいいのよ」と。
ジャージにアウターを乗っけて、サンダルを踏んづける。丸椅子の上に灰皿を置きつつ、タバコをくわえ、火をつける。
「ビールは泡がない方がいい」と言ってグラスを傾ける。泡なしビールが喉を越していく。

居酒屋で話す時とは違って、昔のことを話したり、相方に感謝したり。
寒さを堪えながら煙を吐き出していると、いつも話さないようなことも口から出てくるものなのかなと思った。

話は弾むけれど、寒さが続々と増してくる。凍てつくベランダ…。中に入って体を温める。
一息つくと、「飲みに行こうぜ。近くにいい店あるから」と。
その言葉に流されるように、ゆるりとお店に向かう。

ふと思い出したのは、今年の春だったか初夏だったか、よく村松と深酒をしていた。
賞レース決勝の生放送が終わって朝まで飲んだこと。大阪の仕事について行って朝まで飲んだこと。
店に入ってカウンターに座ると、やはりその時と同じ顔をしていた。
何かがひと段落して、「飲むかぁ」というあの時の顔。
前見た時は柄シャツでくつくつと笑いながら、居酒屋でタバコをくゆらせていた。

今回はこぢんまりとしていて料理が美味しい上品なお店だったので、さすがに似つかわしくないなと気が抜けた。
今日もきっと深酒だろうなと、泡のないビアグラスと乾杯する。
「希望の朝」という見本も思い出した。

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