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麺の硬さと信子さん

夜の薄暗さを忘れさせるように、無差別にネオンを灯す新宿西口。
その中で、本来の陰りを少し喚起させてくれる裏通り、思い出横丁。
「出前一丁」が入った紙袋を手に提げた、ロケ終わりの信子さんと並んで、小刻みに足を運ぶ。
紙袋がぺしぺしと小さく音を立てていた。
この袋麺は後にいただくことになる。

細い道を進みながら、「あんまりお腹空いてないけど」「とりあえず飲みたい」と正直な言葉を次々と口に出す。道を隔てて、歌謡曲の弾き語りが聞こえた。
建ち並ぶお店を見渡し、「牛タン」という名前に惹かれて入店を即決する。
2階の座敷席に腰を下ろした。

荷物を横に置き、速やかにタバコへ火を点ける。
ビールが届き、その美味さに感銘するように声を上げた。
お酒とタバコを進ませつつ、料理にも手際よく手をつけていく。
「お腹がすいていない」と言っていたのが、嘘のように一品一品を手際よく咀嚼していく。

今日のロケが楽しかったと、仕事を振り返りながら料理もきちんと味わう実直さが垣間見える。
畳の居心地の良さから、このままここで寝たいと横着しながらも、2軒目はどこに行こうかと、同義語のような対義語をきれいに並べた。

階段を降りて再び細い道に出る。弾き語りの声はもう聞こえなかった。
数軒先にある日本酒のお店に意志を決め、三度2階の座敷に腰を下ろす。

1杯目から日本酒を嗜もうと、地元大分のものを選んだ。
その飲みやすさから2杯、3杯とお猪口が空き、新しい徳利が届いてくる。

日本酒を進ませながら、また畳の居心地に心を休める。
このまま居座るのではないかと優しい不安を覚えるほど、その空間と打ち解けていた。

そのまま何種類かを楽しみ終え、横になることはなく立ち上がった。
お店を出て、駅へと向かう。
「明日も仕事だ」と喜ばしい苦労を残して改札を越えていった。

信子さんの背を見送り、もらった袋麺を手にした。その硬さを確認し、自分の改札へと向かった。
道中耳を澄ます。上を向き、1人になったばかりの夜を歩く。
帰りの電車、想像の中でお湯を沸かした。温かいスープの香りがした。

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