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年の瀬、煙る大崎さん

12月24日15時。浅草で劇場終わりの大崎さんを待つ。
暮れも押し迫る浅草は、昼時から観光客が鈴なりに集まっていて、忙しなく賑わっている。
浅草は気取らぬも風情な街。

雷門を通過し、オレンジ通りを抜けていく。
ホッピー通りの提灯を横目に六区通りを進む。
「世界で一番小さな劇場 浅草リトルシアター」と書かれた入口が現れる。
まだ少し時間があったので、劇場の先へと道を行き、周辺を拾い歩く。
洋食屋「ヨシカミ」の看板が見えると、ビーフシチューの口になる。光沢が美しいブラウンソース。食べ終わった後の銀の皿。

その口のまま、再びリトルシアターへ。
程なくして、熟れたオレンジ色の帽子をさりげなく乗せた大崎さんが入り口から出てくる。「おう、お疲れ。じゃあ一服するわ」と。
淡白な言葉が小気味よく出てくるので、耳に入る音が楽しい。

劇場の裏の喫煙所でタバコに火をつける。
「アカギ」に憧れたが、色を間違えて買ってから吸い続けてるというハイライトのメンソール。色は緑色。
確かにハイライトといえば少し薄い東西線の青。実際に東西線が参考にしたのだとか聞いたことがある。
メンソールの緑も、哀愁のある緑で味わい深く、心惹かれる色をしている。

しばし歓談し、足早に浅草駅へ。
次のライブのため渋谷に向かう。銀座線で35分ほど。
混んでいるわけでも空いているわけでもない車内で大崎さんと2人、漫才の立ち位置と手の使い方の話をした。
見事なまでに当てはまっていた法則が、みるみるうちにこじつけになっていく様がおかしかった。
小さく悔しがる大崎さん。

渋谷ユーロライブ。リハを終え、また一服。
多くの芸人が入れ替わり立ち替わり、煙を吐いては、たわいもない話を気兼ねなく続けている。
この瞬間もみな芸人。

本番終わり。少しミスがあったと苦笑い。
寒さを感じさせぬようなワイシャツ姿で灰皿とにらめっこ。
年の瀬で乾き切った冷たい空気にくすんだ煙が溶けていく。

日が落ちて陰の密度が高い夜の渋谷。
クリスマス・イブで賑わう音と、空っ風が交差していく、大通り。
駅へと向かって行く背中をささやかながら見送る。
オレンジ色の帽子が人の波に消えていく。
あと少しで24時。日付けが変わる。

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