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ドンココと天井の下

影も気取り出す、夕方。人通りが増える阿佐ヶ谷駅。
横断歩道を渡り、目に入る円形の屋根をくぐらずに、中杉通りのケヤキ道に浸った水たまりを跨ぐ。
一つ一つの木々を見残し、ガードパイプの下に目を落とす。ハルに助けられた黒猫が隠れていた草むら。
トラックが平和に通り過ぎる。

緑を背にして、やはり高い天井の下の道へ。
立ち並ぶ多様なお店を眺めながらパールセンターをゆっくりと進んでいく。
グレン・ミラーが15年かかった真珠の首飾り。ユーミンがベッドの下に捨てた真珠のピアス。
店内の光沢が街を上品な装いにする。

目に入るピンクの電飾。阿佐ヶ谷アートスペースプロット。
ライブに出演する芸人たちが集まっていた。
ドンココの裕が丁寧にお辞儀をする。無駄のない動き。

空き時間に劇場の喫煙所で一服。
手際よく箱を開けて火を点ける。
弟の龍とネタの打ち合わせ。
思惑を語る兄。のほほんと聞いて頷く弟。
最初の温度差はだんだんと打ち解けていき、笑い合う2人。兄弟。

近くのスーパーでコーヒーを買う。
それを飲み一服。ネタ合わせ。衣裳に着替えてセリフを確認。また一服。
作業の合間を埋めるように煙を吐き出す。
舞台へ向かう。

ライブ終わり。
喫煙所のベンチに腰を下ろす。
今日のネタの話から始まり、お笑いを始めたきっかけの話へと遡り、その頃を照れくさそうに思い出していた。
「いつか深夜ラジオをやってみたい」と語る裕。
ドンココのタイトルコールを想像する。

劇場を出て帰りは南阿佐ヶ谷へ。
商店街を進むドンココ2人の背中が文字通り大きい。
青梅街道に出て道幅に比べては僅かばかりの街灯とビルの窓明かりの下に入る。

人が控えめに降りていく階段の先。改札のタッチ音が寂しく鳴る。
丸ノ内線に乗り地下鉄から新宿へと向かう。
乗り換えで降りる裕を見送る。人混みへ消えていく、やはり大きい背中。
駅のアナウンス。ジングルが流れる。

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