日本の名経営イノベーター 小林一三

阪急電鉄、阪急百貨店、宝塚歌劇団、阪急ブレーブス、東宝。

すべて小林一三という名経営者、いや、イノベーターが生み出したものだ。

東急の五島慶太はこの阪急の小林の手法を真似したに過ぎない。

なぜそのようなイノベーションを成し遂げることができたのか?5つのポイントがある。

(1)より良き社会を築くという理想

健全なる環境に住むことによって健全なる精神の持ち主となる。そう願って大衆向けの健全な住環境を提供しようと阪急鉄道とその周辺開発に取り組んだ。

また、娯楽は人の生活を潤し、人間性を豊かにしてくれる。より多くの人々にウェル・メイドな娯楽を提供した。

これらを通じて「より良き社会」を築く、という理想を掲げていた。

(2)100歩先を見てことを行う

小林はこんな言葉を残している。

「千里先の見える人は、世の中から気狂い扱にされる。現状に踏み止まるものは、落伍者となる。100歩先を見て、事を行うものが世の中の成功者である。」

(3)世の中に貸勘定をつくる

小林は他社の役員も務めていたが、役員報酬は受け取らなかった。周囲のものが尋ねると、「えらい人ってのは、つまり世の中に対して貸勘定の多い人ってことだね。」

世の中に対して貸勘定をつくっておけということだ。

また、「薄利多売」ではなく、「多売薄利」という言葉も残している。多く売って、そのお客さんに利益を返すサービスを提供するという考え方だ。

また、映画事業の立て直しに当たってはこんなことも言っている。

「会社を立派にすることが第一で、たとえ利益は少なくとも、その会社は必ず隆盛になる。という理由は、会社が立派になり堅実になれば、そこに利益は必ずどしどし増加するもので、従来、映画事業がややもすれば儲けることにのみ専念して、目的のためには手段を選ばない、こういうやり方では駄目であります。」

まずは社会や顧客に価値を提供し、利益はあと。そんな考えが貫かれている。

(4)6つのカン

観察、鑑定(分析)、看(見守る)、関(相関関係や関係性)、感(感情)、これらをしっかり見ることで、第6感が生まれてくるという。

顧客や現場を6つのカンでしっかりと見ることで、彼は次々とイノベーティブな事業アイディアを生み出したのだ。

(5)無理はしない

とはいえ、小林はただの夢想家ではない。事業にあたってはこんなことを言っている。

「事業は無理してはいけない。(中略)まづなすべきことは大方針を立てること、計算の基礎を確立することだが、その大方針に無理をしてはならない」

元々三井銀行で長く下積みをしていただけあって、しっかりとした計数が土台にあったうえでの新たな事業なのだ。

最大多数の最大幸福を目指すという小林の思想は、ニーズが多様化し、欲しいものがないといわれる成熟した現代においては実現が困難かもしれないが、彼の経営に関する考え方は今もなお十二分に通じるものではないだろうか。


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