ジョブ型キャリアの落とし穴〜「ジョブ型」より「ジョブズ型」のすすめ

今朝の日経新聞の社説に「利点は多いジョブ型採用」という記事が出ていた。

「企業が求める能力を明確にし、在学中から専門性を高めることを促すジョブ型採用」により「能力のある若者を採って戦力にし収益力を高めれば、それを原資により多くの学卒者を雇用でき」、大学の教育改善にもなるというのだ。

まあ、そういう一面もあるかもね。

だが、これまでジョブ型の外資でキャリアを積み、ジョブ型の人事制度をコンサルタントとして多くの会社に導入した経験から言うと、ジョブ型採用はそんな利点ばかりではない。
今日は特に個人のキャリアという視点で述べたい。

(ジョブ型を本気で運用しようとした時の大変さは以前書いたこちらの記事をご覧いただきたい。https://note.com/alaneliot/n/n1c407d3d66d7

まず、ジョブ型採用で専門職としてキャリアを歩んだ場合、専門職のトップ、すなわちキャリアゴールに到達するのは意外と早いということだ。
たとえば外資で新卒から人事をやっていれば、外資系日本法人の人事ヘッドであれば、(規模にもよるが)だいたい40代前半までにはなれるだろう。それ以降だとむしろちょっと遅い。(あくまで個人の経験則によるもの)

40代前半でその「ジョブ」のトップになってもそこから先のキャリアは意外と長い。人生100年と言われ、少なくとも70歳までは働くことが当たり前になろうとしている今の世の中において、あと30年近くの仕事人生をどう過ごすのか?

私が見てきた限り、だいたい次の4つのパターンに集約される。

①専門職のトップとして会社を転々とする

②大学教授などアカデミック系にいく

③ゼネラリストとして経営者になる

④コンサルタントや講演家、執筆家などとして独立する

私の経験則としては①が一番多い。ただ、会社が変わっても結局別の会社でやってきたことの焼き直しをしているだけで、何の成長も刺激もないようなケースも多い。転職のたびに給与は上がり、楽に仕事はしていけるのだろうが、果たしてそれで楽しいのか私にはわからない。(というか私には耐えられない。)

しかし、上に挙げたような選択肢がある人はまだいい。実際には専門職の中でトップになれない人も山ほどいるのだ。40代、50代になっても専門職のミドルとしてやっていて、その職種のトップになれるようなマネジメント力もない。当然他の仕事ができるわけでもない。同じような役割をずっとやってるので給与が上がるわけでもないし、40、50代でミドルクラスの転職ではそんなにいい条件の求人もない、他の仕事もできないので本人も今後のキャリアなど諦めて、ただただ惰性で働いている。残念ながらジョブ型雇用の成れの果てにはそういう人材も少ながらずいるのが現実だ。そういう現実を無視して「ジョブ型は素晴らしい」というような論調は甚だ疑問だ。

そもそも今ある職業が10年後、20年後にはほとんど消えていくとすら言われている状況において、専門性を持って1つの職種を極めろ、ということ自体がナンセンスだ。

とはいえ、私もジョブ型を全否定しているわけではない。デメリットも理解した上でうまく運用することが大事だと考えている。

ジョブ型を導入するのであれば、最低限以下のような工夫は必要である。

①早い段階で経験の幅を広げる

ジョブ型だからといってそれしかできない人材を増やしすぎてもそれぞれの職種内における硬直化を招く。40代、50代になってから初めて新しいことをやります、というのはあまりにもリスクが高いし、適性がなかった場合に本人も不幸である。兼務やプロジェクトでもいいから若いうちから職域や経験の幅は広げておくことが大事だ。

②ゼネラリストを育てる時の処遇に関する運用ルールが必要

会社によっては早期ローテーションができず、上級マネジメント層になってから将来の経営層としてローテーションさせてゼネラリストを育成するケースもあるだろう。その場合、新しい職務について1から勉強、というケースであったとしても処遇はある一定期間維持するなど、運用に幅を持たせることも必要だろう。そうでないと誰もやりたがらない。

③社員に「プランドハップンドスタンス」を持たせる

ここではプランドハップンドスタンスの詳しい説明は省くが、ある程度のキャリアの方向性は持ちつつも、多少の想定外の経験も受け入れながらキャリアを築いていく姿勢を社員も持っていないと、「私は人事で入ったのに何でこんな仕事をやらないといけないんですか!」といった輩が出てくる。

スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大における有名なスピーチで”Connecting Dots”のエピソードを語ったが、まさに人生に無駄な経験はなく、点と点はいつか線でつながっていく、と信じてチャレンジしていくことが大切なのだ。

まとめると、これからは「ジョブ型」よりもいわば「ジョブズ型」、専門性よりも点と点をつないでいく柔軟性と学習能力が重要だ。間違っても学生たちに自分が歩む職種を早く決めて、専門性を磨きなさい、といった教育が大学でなされないことを願いたい。




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