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ネタバレしない「君たちはどう生きるか」について

ネタバレしないという原則は守ります。つまりストーリーについては触れません。
たまたま映画館に行って、そこで映画を選ぼうとしたらいつもは空いているはずのロビーがいっぱいでした。
 
なぜなら前日からジブリの新作「君たちはどう生きるか」が始まっていたのでした。早速チケットを取ろうとすると、二時間後の六百円も高いIMAXシアターの端の席しか空いていません。
とにかくその席を確保して時間を潰すことにしました。ショッピングモールを回り、食事して映画館に戻るとほぼ満席でした。
 
子連れが多いこと想像していた映画館は大人だらけ、これがジブリ映画だろうか、と考えてみましたが、きっとジブリを見てそだった世代が大人になったのでしょう。
 
映画を見終わったとき、これはこれまでジブリが作ってきた商業映画では無いということに気づくでしょう。ここまで巨匠になると、宣伝も不要ですし、商業映画にならなくてもいい作品として作った映画に思われました。
 
だとすると、評価は分かれるでしょうね。期待を裏切られたという人と、宮崎駿氏の作品らしいという人。あるいは、こういう謎めいた映画の謎解きが楽しいという人。
 
私は謎解きが楽しいと思うのでした。そこで気づいたのが様々な作品からの引用の多さでした。正解がない謎解きっていいですね。
 
まずタイトル。
「君たちはどう生きるか?」
映画の中で言及される、吉野源三郎が書いた原作は、コペル君という父を亡くした中学生と、その父親がわりの叔父との往復書簡のように作られています。そしてこの本は1937年、言論の自由が統制された中で書かれました。原作は、今の人が読むと、道徳の教科書か、というぐらい押し付けがましいと感じるかもしれません。でも、そこには「自分の頭で考えましょう」というメッセージが繰り返し出てくるのです。その書かれた時代背景を合わせて考えると、これは軍国主義への抵抗だな、ということも感じます。
 
そもそもなぜ他人の作品名をタイトルにまで持ってきたのでしょうか。それは、これは引用ですということを明らかにするためでは無いでしょうか? そのリアクションはどれであってもいいはずです。この原作を読んでみようというリアクションがあればしめたものと考えたのではないでしょうか。
 
次にイメージの引用。
まず宮崎駿氏らしいモチーフの繰り返し、例えば飛行機の風防。これは「紅の豚」ではもちろん「ナウシカ」が王蟲の抜け殻の目玉。これまでいろんな空飛ぶ乗り物の風防を描いてきた宮崎駿は風防フェチなのだということがわかります。でもこれは作風のうちでしょう。ゴッホの向日葵や、モネの睡蓮のように。
 
そして、他人からの引用もあります。
そして引用と気づく人と、気づかない人での評価が分かれると思います。気づかない人はそのまま見続ければ問題はないでしょう。
気づいてしまったら、私のように悩み始めるのだと思います。だって宮崎駿という人は、自分でイメージを作ってきた人だから、他人の引用なんてしなくてもいいはず、とも思いますが、実はそうではなくて、いろんな仕掛けがあることに気づかされます。
 
最初に出てくる引用は白雪姫でしょうか。7人の小人ならぬ、7人のおばあちゃん。すると白雪姫は、主人公の真人くんとなりますかね。
 
一番明らかな引用は、ベックリーンの「死の島」でしょう。同じ作家が数点のバリエーションを残しています。大きな木の茂 みの向こうには黄泉の世界があるという、これはジブリの他の作品でもあったことはお気づきでしょう。さらには同じ作家の「生の島」も引用されていることに気づくでしょう。
 
次にルネ・マグリットの浮かぶ巨石。原作名は「ピレネーの城」。これはすでに、「ラピュタ」でも引用されていますから、この引用も初めてではないでしょう。
 
と考えていくと、宮崎駿氏は、さまざまな引用から風景やモチーフを作ってきたことに気付かされます。それが宮崎駿氏の作風なのです。そして、今回の作品は、それを意図的に、謎解きのように配置していったのではないでしょうか。
 
AI時代に入り、原作と引用と、剽窃と要約の境がいっそう不明瞭になってきました。安っぽい引用がキッチュで悪趣味だとすると、この映画の引用はどちら側?
人によっては、「かわいい」と表現してしまう大量の「わらわら」や太ったインコを悪趣味と捉える方もいるかもしれません。


コペル君は自分の頭で考える少年になって欲しいと叔父に言われました。
同じことを宮崎駿は、この映画を作った大叔父として君臨するとともに、この映画の中の大叔父として、自分で読み解くべき映画ですよ、と言っている気がしています。
 
私の読み解きは、皆様の参考にはならないかもしれませんが、皆様はそれぞれ自分ならではの読み解きをして、それぞれの謎とそれぞれの答えを私にも教えてくれませんか。


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