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【#23 駆け込み】Chelmico、今からハマっても間に合いますよね?

「あ、この人もうこんな売れてるんだ」

役者やアイドル、アーティストを観てて、そう思うことが、しばしばある。例えば、テレビから「鳩麦玄米月見草〜〜」という気だるくも明るいユニゾンが流れてくる時。あるいは、Apple Watchに手を引っ張られるショートカットの女性が映されたCMが流れている時。いや、どちらもChelmicoの話なんですけれども。

渡賀レイチェルと鈴木真海子、二人合わせてChelmico。そんな安直なユニット名があっていいのか、と思うけれども、言っているうちに馴染んでしまうのが不思議だ。

「『TOKYO TRIBE』の染谷将太のラップを聴いて『私たちにもラップできるんじゃね?』とヒップホップを始めた。そんなテンションのアルバム」

というポップがSHIBUYA TSUTAYAに掲げられていたのは確か3年前。いま思うと染谷将太にもChelmicoにも失礼すぎる文言だが、その言葉の通り、少しラフで人懐っこい声が彼女たちの魅力であったし、実際そんなふざけた売り文句に惹かれて僕はファーストアルバムの『chelmico』をレンタルした。(僕はいま、100文字に一回『Chelmico』とタイプしていることに気づいた)

それから3年後、こんな風にメディアサイズで、あるいはソーシャライズされた形で彼女たちを見かけるようになるとは思わなかった。ラフさやインディー感が売りだったChelmicoがお茶の間をじわじわと侵食しているのをどこか俯瞰しながら観ていた。

実を言うと、メジャーデビューを果たして地上波にガンガン出ている彼女たちの状況をしばらくはナナメから見ていたフシがあった。

トラックも昔のローファイなビートから、バキバキのハイファイな音になっているし、歌もラップもJ-POP的な正しくテクニカルなものになっているような気がしてならなかった。

そんな、少し聴いただけで醸成された勝手なイメージから、僕はChelmicoの音楽をここ1年くらい遠ざけていた。今年の7月までは。

※※※

Chelmicoの音楽を久しぶりに聴いたのは、横浜アリーナで行われたJ-WAVE LIVEだった。あいみょん、平井堅、秦基博、SHISHAMO、Nulbarich、というミュージックステーションのようなラインナップの中、彼女たちはオープニングアクトを務めていた。

その日のChelmicoはたった4曲だけで、1万2000人の会場を掌握していた。無論、彼女たちをナナメに見ていた僕も、やたらと興奮した。「爽健美茶」の歌も、Apple Watchの歌も、そしてインディーズ時代の曲も、不思議とすべて覚えていたし、なんなら新曲も知っているような気がした。

僕はChelmicoの魅力をラフなインディー感だと勘違いしていた。彼女たちはひたすらポップでハッピーな音楽を鳴らせるのだ。それはただラフな存在であることより何倍も難しく、そんな境地に辿りつけるアーティストはそういない。

あまりにもポップなエンターテインメントにまみれた僕は、たった20分で大きなショックを受けたのだった。

※※※

そんなこんなで、僕はChelmicoにすっかりハマってしまった。ニューアルバムの『Fishing』も、もう何度も聴いている。

そしてChelmicoショックを受けてから、似たような出来事を何度か経験した。なんとなく知ってはいたけど、ちゃんと聴くと予想以上にカッコいい、というアーティストが増えたのだ。

Creepy Nutsもただただスキルフルな人だと思っていたら、しっかりと今のヒップホップの音を鳴らしている、ということに気づいた。

「クレイジー・ジャーニー」で観たBAD HOPも、Vince StemplesやBROCKHAMTONで目の当たりにしたような熱狂を生み出しているように見えた。

いま、意外とカッコよくて面白いものが溢れてるんじゃないか、と駆け込みで気づいているわけだが、まだ「あなたの番です」は一話も観れていなかったりする。まだ、間に合いますかね?

<今日の一曲>

「reiji no machi」パソコン音楽クラブ

パソコン音楽クラブを「パ音」って略すことを最近知ったんですけど、まだ間に合いますか?

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