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【ネトフリ】「このサイテーな世界の終わり」。ロード・ムービーのすべてがここにある。

唐突だが、僕はロードムービー・フェチである。別に旅が好きなわけじゃない。むしろ嫌いだ。ただ、あらゆる映像作品のジャンルで、ロード・ムービーだけは、無条件に好きになってしまう。

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ロードムービーの面白さは二つある。一つは、旅が進んでいくごとに、登場人物たちが成長していくことだ。画面に映る風景が変わっていくごとに登場人物の関係性が変化していくさまや、内面に変化が現れる描写がリンクしていくことで、より深い感慨を覚えてしまうのだ。

そしてもう一つは、旅には終わりがある、ということである。旅の目的地にたどり着いた時、物語は終わりを告げなければならない。その儚さが、美しい。その時、主人公たちは、どのように旅を終わらせるのか。ロードムービーは、他のジャンルの作品より「終わり」に重きが置かれる。そして、その結末が素晴らしければ素晴らしいほど、今まで映し出されてきた旅の道のりがより鮮明に脳裏にフラッシュバックする。

僕の中ではロードムービーの映像体験に勝るものは、多分存在しない。

そんな僕がとりわけ好きなのが、Netflixオリジナルドラマ『このサイテーな世界の終わり』(2017)だ。この作品にはロードムービーのワクワク感と儚さのすべてがある。

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物語の始まりは、アメリカの小さな田舎。17歳の少年ジェームスは、自分のことをサイコパスだと信じて疑わない。そしていつの日か、人を殺すことを夢見ている。そんなある日彼の学校に同い年の少女、アリッサが転校してくる。彼女もまた、義理の父親との関係や田舎での暮らしに思い悩み、人生に絶望していた。

学校の食堂で偶然出会った二人は、次第に惹かれあっていくが、ジェームスは彼女を殺人の獲物として、そしてアリッサは彼を退屈な毎日を変えるためのトリガー、としか考えていなかった。

そんなある日、アリッサは思いつきで「家出をしよう」とジェームスに提案する。ジェームスはその計画に乗り、旅先で彼女を殺そうと画策する。そして二人は父親の車を盗み、旅に出る……のだが、この道のりがまた一筋縄ではいかない。

車は事故でいきなり爆発。たどり着いた先のハンバーガー屋で食い逃げ、挙句の果てに知らない人の家に押入り寝床にしようとする。

そう、これは退廃的なロードムービーのふりをしたコメディなのである。ジム・ジャームッシュの監督作品や、近年でいう『アトランタ』にも通じる、アウトローなオフビート感が、見ているうちに意外とクセになる。

しかし、ジェームスがアリッサを守るために、殺人を犯してしまったことで物語は一変する。ユーモラスなロードムービーは、一転してクライムサスペンスの様相を帯びてくる。そして逃亡の旅の中で、二人のなかに人間性が芽生え始める。そんな二人の旅は絶望的な状況でありながら、どこか甘美で美しい。

甘美で儚い逃亡劇、といえばデヴィット・リンチの『ワイルド・アット・ハート』や、タランティーノが脚本を務めた『トゥルー・ロマンス』、あるいはエドガー・ライトの『ベイビー・ドライバー』のラストシーンが思い起こされるが、そうした要素のすべてが、この作品にはある。

そんな絶えず変わり続ける二人の関係性と、反転し続ける価値観、そして変わりゆく風景を味わい続けたいという感情に駆られるのだが、虚しくも逃亡の旅は終わりを告げる。

これで1シーズン全8話、約200分。

あまりにも、簡潔で完璧な終わり方をしたこの作品に、続編はないと思っていた。だからこそ、2019年の秋、シーズン2が配信された時、心底驚いたと共に不安も覚えた。

しかしながら、前作とはまた一味違った物語が、ここでは展開されている。

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物語は前作の2年後から始まる。離れ離れになっていた二人は、思わぬ形で出会い直す。お互いの過去と現在の差にとまどいながら、想いを通わせようとするジェームスとアリッサ。そして、そこにシーズン1でジェームスが殺してしまった人物の恋人が現れ、ロードムービーは再び始まりを告げる。

その三人の関係性と、旅の中で移ろう感情が、ユーモラスでありながら重たく心に突き刺さる。今回も美しくも儚い……と言いたいところだが、残り1話はまだ観ていない。なぜかって?

だって観終わったら、旅が終わってしまうじゃないか。
いや、なに言ってんの、当たり前でしょ、と言うなかれ。それくらい、のめり込んじゃうんです。

(ボブ)

【第33週のテーマは『とまどいながら』でした。】

<今週の一枚>

『このサイテーな世界の終わり サウンドトラック』グレアム・コクソン

この作品のサントラは、なんとブラーのギタリスト、グレアムが手がけている。物語のオフビートな雰囲気にふさわしい、ブルージーで乾いたギターの音が、なんとも粋だ。

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