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ドラマフリーク達へ。『俺の話は長い』どう観てますか?

先週の『同期のサクラ』に続いて、今週も日本テレビのドラマについて。目眩く日常を描いた物語『俺の話は長い』についてだ。

生田斗真が演じる主人公・満は、過去にコーヒー屋を起こしたことがあるが「こだわりが強すぎて」受け入れてもらえず廃業。以降、ニート生活を送っている。

物語は満が母・房江(原田美枝子)と住む実家に、満の姉家族(小池栄子/安田顕/清原果椰)が仮住まいしにくるところからはじまる。この物語はそんな家族の毎日を極めてリアルに描く。各話の題に食べ物の名前が入っているのがそれを象徴している。

#1 -1「すき焼きと自転車」#1-2「寿司とダンボール」 #2-1「焼きそばと海」#2-2「コーヒーと台所」........                         

このドラマは60分なのだが、30分1話構成になっている。すなわち、1週間で2話進むことになる。

正直に言おう、ブログのネタにするのには非常に難しい作品なのである。捉えどころがない。あまりにも描き方がリアルで、この作品を特徴付けて語るのは困難に近い。

このドラマの魅力をあえて言語化するとインサイトをついた会話劇だろうか。ノーモーションから「ハッ」と気づかされるセリフの応酬させる。

綾子:毎朝コーヒーを淹れることと、息子が定職に就くことと、どっちがお母さんにとって幸せがわかるでしょ!? 
満:どっちが幸せかなんて、どうして判断するのお~?
春美:やっぱ先に動かないとダメなんだね。こんなに後悔するなんて思わなかった。どうして人生の大事なことに限って誰も教えてくれないんだろう。
満:たまに教えてくれるんだけど、聞いているときはそんな大事なことって気づかないもんでさ。大抵のことは傷ついて覚えるしかないんだよ。若いうちだけだよ。
春海:だといいけど。ありがとね。
満:え。
春海:焼きそばつくってくれて。悪くなかったよ。
満:人生の大事なことを教えてやるよ。ちゃんと素直に「おいしい」っていう子の方がモテるよ。
春海:そういうときはちゃんと言えるし。
満:本当かよ。

ドラマの構造としては、同じ日本テレビの『生田家の朝』/『緑山家の朝』と非常に似ていると言ってもいいかもしれない。

ただ『生田家』が『サザエさん』的にいつまでも変わらない物語なのに対し、『俺の話』内では時間は進行している。

春海:満にいちゃんは、もし再婚相手が家に来たら居場所がなくなるから嫌なんでしょ。

満の日常は変化を余儀なくされている。「話が長い」というのは自らの日常を守る防衛行為だろう。そんな守るべきものが外堀から埋められていく様が描かれはじめつつある。

これまでのシチュエーションコメディー、主に福田雄一やバカリズムやオークラのそれ。(具体的なドラマ名でいうと『勇者ヨシヒコ』、『架空OL日記』『住住』『漫画みたいに行かない』.......)では、主人公の「克服すべき困難」や「達成すべき目標」とはだいぶ距離をとり、人間のおかしみの方に重心を置いていた。

が、『俺の話』は前者の方の比重も大きい。その意味で、近年稀に見るカテゴリーの作品ではないだろうか。

動的平衡な関係性の妙もこのドラマの魅力だろうか。『俺の話は長い』というタイトルは主観と客観を共にして内在化している。

真面目に働いている/真面目に働いていない、積極的に恋をしている/積極的に恋をしていない、好んで食べている/好んで食べていない.....それが果たして本当に望んでいる/望まれているのは誰か、なぜか。人は常に自分の考えや思いと共に、誰かからの視線も考えに孕ませる。このドラマはそんな現実に徹底的に向き合っている。

『俺の話は長い』は誰しもの毎日にある選択と決断を応援するドラマになっているのではないか。

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