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2016年のスマスマでのcero、2020年の香取慎吾

今年の正月、あまりテレビを観なかった。特に深い理由はなかったのだけれども、ここ5年ほど変わらないバラエティ特番と顔ぶれだけが変わっていくお笑いネタ番組、そしてなんだかテンポ感の悪い音楽番組にどこか飽き飽きしていたのかもしれない。

その代わりにずっとゴロゴロしながらSpotifyで音楽を聴いていたのだけれども、新年最初に耳を奪われたアルバムは香取慎吾の『20200101』だった。この作品は、香取慎吾が単独で歌っている2曲と、アーティストをフィーチャーした10曲で構成されている。

作品に参加したアーティストたちは、ただ香取慎吾に楽曲提供するだけでなく、一緒に演奏し、歌っている。そのためか、ソングライティングの面においては香取自身の溌剌とした自由なイメージは抹消され、アーティストの本来の持ち味や音楽のスタイルが前面に押し出されているように感じる。そして、アーティストたちが自らの個性を打ち出すからこそ、一枚のアルバムでありながら驚くべきほど統一感がないのだ。いわば「香取慎吾のプレイリスト」なのである。

それでもただのプレイリストにならない所以は、香取慎吾の声だ。

高くもなく低くもない絶妙な音域で少しザラついた声をまっすぐと響かせる香取の歌声は、一般的なアーティストやアイドルとも異なる、素朴な響きを持っている。そうした声が多種多様なトラックの中で通奏低音として鳴っているからこそ、一枚の「アルバム」として成立しているように思える。

さて、この作品は香取慎吾が普段から好んで愛聴しているアーティストたちにオファーしたことから始まったという。そのエピソードを聞いて改めてアーティストの並びを見てみよう。

BiSH・氣志團・KREVA・SALU・須田景凪・スチャダラパー・SONPUB&向井太一・Teddy Loid&たなか(旧ぼくのりりっくのぼうよみ)・WONK・yahyel

こうしてみると、R&Bやヒップホップを基調とした楽曲を作るアーティストが大半を占めていることがわかる。そこから思い起こされるのは、4年前の『SMAP×SMAP』であった。

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2016年3月7日、『SMAP×SMAP』にceroが出演したのを覚えているだろうか。彼らは、この番組の名物コーナー『S-LIVE』でSMAPと共に「Summer Soul」を演奏したのである。

あの独特なメロディラインを5人が歌い踊っていることにも驚いたのだけれども、ceroがテレビに出て歌っているという事実もかなり衝撃的なものであった。

そして番組内では香取慎吾が以前からceroを愛聴していたことが明かされている。

(リアルタイムでも観ていたけれども、この前YouTubeにアップされていたのを知った。しかし、違法アップロードのリンクを貼るのは如何なものか、と思うので放送後にアップされたブログ『青春ゾンビ』のリンクを貼ることにする。)

この記事で紹介されているツイートによると、2015年時点で香取はceroをフェイバリットとして挙げ「『マクベス』がお気に入り。小沢健二やスチャダラパーを彷彿とさせる歌モノで、聴けば聴くほど気に入っている」と語っている。小沢健二とスチャダラパーといえば、SMAP在籍時から現在にかけて幾度となくカバーしている「今夜はブギーバック」が思い起こされる。(思い込みかもしれないが、この曲を歌う香取慎吾はやけに楽しそうだ。)奇しくも香取は、予てから好きな音楽として幾度となくマイケル・ジャクソンの名前を挙げている。

そして1月20日に発売予定のSWITCHではアルバムでも共演したKREVAとの対談記事のプレスリリース資料には「同い年で音楽的ルーツも近い」との記述が見られる。(ちなみにKREVAの音楽のルーツは90年代のUSヒップホップの他に久保田利伸やライムスターにあるとか。)

つまり、表現者としての香取慎吾のルーツはR&Bにあると言えるのではないだろうか。少なくとも、アルバムのリードシングルの「10%」や「Trap」を聴けば、彼の今の関心がファンクやR&Bに向いていることがわかるだろう。

そもそもSMAP自体もR&Bと親和性の高いグループであった。代表曲「SHAKE」や「夜空のムコウ」、「Fly」などにはディスコやファンクの意匠が取り入れられているし、1995年発表のアルバム『SMAP 007 〜Gold Singer』はアメリカのジャズやR&Bシーンで活躍していたミュージシャンが演奏を担当しファンク歌謡の名盤とも言うべき作品である。

SMAPは、アメリカ由来のR&Bと日本の大衆芸能の間に橋をかけることができる稀有な存在だったように思える。

※※※

そう考えると香取慎吾が自身初めてのアルバムで現行のR&B・ヒップホップシーンとリンクしたポップスを作ろうとした理由が、なんとなくわかる気がした。

そして、この作品でフックアップされたWONKとyahyelがあの日のceroと重なって見えてしまうのだ。2016年3月のSMAP×SMAPの続きを、この作品に垣間見た気がした。

そんな思考を巡らせていると、最終的にはこんな野暮なことを考えてしまう。

もし今SMAPがアルバムを作るとしたら、誰が曲を書くのだろう、と。

ちなみにcero出演回が収録された2016年1月7日は、奇しくもSMAPの解散報道が取りだたされてから初めての収録であった、とされている。

(1月17日 追記)
https://twitter.com/aya717/status/1217956687522304000?s=19

複数の方々からご指摘を頂いたのですが、ceroの収録はSMAP解散報道が出る前だったそうで……記憶違いでした。申し訳ありません。

それにしてもすごいタイミングで収録したもんだ。
報道後、トークパートはなくなってしまったけれども一番印象に残っているのは2016年秋のTHE YELLOW MONKEYとの共演。再結成後に出した新曲「ALRIGHT」をSMAPが吉井和哉と共に歌った。5人が声を合わせて「月日は流れて 力を集めて 一つに集めて」 というフレーズを歌ってる姿を観たとき、様々な感情が渦巻いた。

(ボブ)

【今日の一本】

「ARASHI'S Diary -Voyage-」(Netflix)

最初のエピソードの中盤に差し込まれる全シングル曲のミックスには嫌が応なしに反応してしまう。。

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