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誰もやっていない事をしたい

帰宅中の電車で目の前に座っていたスーツ姿の男性(四十代くらい)が、給料明細を生気のない目で眺めていたことを時々思い出す。髪も目と同じように力がなく、スーツもよれよれだったので勝手に同業(IT関係)かなと思った。指輪をしていたので、家族のために遅くまで頑張っていたのだろう。
その時筆者が考えていたのは「このままだと自分もこうなるぞ」だった。当時の筆者は興味のない仕事を遅くまでしていて、メンタルが病んでいたのである。

去年、三年ぶりに転職した。なんだかそれまでの仕事に対して自信がなくなっていたし、仕事内容も楽しくなく、モチベーションもなかった。将来的に何をしたいとかどうなりたいとか、キャリアパスも一切思い浮かばなかった。そもそも会社の業務内容に一切の興味をなくしていた。
当時のプロジェクトでは属人化を避けていたので、極限までシステム化された仕事に、自分がいなくても仕事が回るというのが一番モチベを下げていたかもしれない。属人化は可能な限り避けたほうがいいという理性に反し、本能は「他の人ができるなら自分がやる必要はないな」と思っていたのである。

次の仕事が決まる前に退職し、貯金を消費しながら何がしたいのか考えていたときに浮かんだのが「誰もやっていないことをやりたい」だった。
そのためにするべきことは今までと違う業界に行くことだと思った。同じ業界では同じスキルを持った人が多くいるので没個性。違う業界に行けば、今まで得たスキルを使っても新鮮な体験ができるはずだと考えた。

果たしてその考えはまあまあ正しかったらしい。偶々、いろんな偶然が重なって内定を得た。求められるスキルは今までの業務内容とほぼ同じ。だが、その業界で同じ事をやっている会社はまだ見たことがない。
業務内容もそうだが、自分に任された仕事もまた、他の人がやっていないことだった。今のプロジェクトが完成したら業界初かと思うと、少しワクワクする。全体からみたら小さい事だが、チームはもちろん、いつかは業界全体を引っ張っていきたいという盛大な野望がほんの少し頭の中にある。

転職には大手のエージェントを使った。エージェントの面談から会社の面接まですべてオンラインだった。これは人によるのかもしれないが、筆者にとっては大変ありがたいことだった。

ここで筆者の経験から、お金で解決するオンライン面接のコツを一つ伝授しよう。
コンデンサマイクを使うことである。安いものなら一万円程度で買えるが、周辺機器も揃えるともうすこし必要かもしれない。
なぜコンデンサマイクが良いのかというと、面接時のアイスブレイクに使えるからである。ポイントはカメラの画角にマイクがちょっと入るようにセットしておくこと。
面接官「すごい本格的なマイク使ってるんですね!」
筆者「リモートの期間が長くてオーディオ沼にハマってしまいましてね〜」
面接官「あ〜、そういうのすごくエンジニアっぽいですねw」
今の会社の面接で最初の会話がこんな感じだった。他にも何件か面接したが、現場の人との面接でこういう反応があるところは総じて手応えがよかった。

そんなわけで今の仕事に就いたわけだが、もともと趣味で興味のある業種だったので学ぶことが多くて楽しい。
そして会社の業務内容にも興味があるのでモチベーションが維持できる。それまでBtoBで誰が使ってるのかわからないものを作っていたが、実際にお客さんの反応が見えるBtoCは新鮮である。もっとも、ポジティブなフィードバックだけではないが。
そしてなにより、会社がすごくちゃんとしている…。それまで中小ブラックに居た身だが、今回は大手である。上場している。だからなのか、環境が良い。支給されたパソコンも十分すぎるスペックだし、ソフトも申請すれば買ってもらえるので環境的なストレスがない。周囲の人もまともだ。何よりフルリモートなので出社はごく稀である。
だからなのか、自然と会社目線でも思考するようになった。それまで「経営者目線?何いってんだこっちは従業員だぞ」と思っていたが、経営陣の話に耳を傾け、自分だったらこうするな…と考えるようになった。そうしてそれは、これから数年以内にやりたいことになり、実際に今活動している。実現するかは今後のお楽しみだ。

そんなわけで何回目かの転職活動は終わった。やりたいことは色々ある。漠然とやりたかったことが明確になったり、夢物語で終わると思っていたものに距離が近づいたり。転職しただけでこれほど大きな変化があったのは初めてなので、正直自分でもびっくりしている。仕事なんてお金が貰えればなんでもいいやと思っていたが、ちゃんと興味のある内容だと仕事も楽しいということをようやく理解した。
2023年はそんな年だった。
今年の目標は、チャンスをくれた会社で成果を出すことである。そのうち自分の仕事が、この記事を読んでいるひとの目にも着くといいなと考えながら。

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