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シャネル No.5のヘアミストを手に入れた

歴史に残るほど売れた名香といえども、人によっては向き不向きがある。

私にとって、着けられる名香はゲランの夜間飛行でありシャネルのNo.19であり、着けられない名香はシャネルのNo.5やゲランのミツコや、あとディオールのミスディオールとかジャドールとかランコムのミラクとか……挙げればキリがない。
あなたがもし好きな香りに出会うことができているなら、それは幸運だったのだろう。

どんなにその香りが作られた経緯やブランドが好きでも、身につけていて気分が良くなければ意味がない。似合わないと思って身につける香水ほど無駄なものはない。……それは言い過ぎだが。

そうは言っても、名香とはいつか使いこなしたいと思うものなのかもしれない。私にとっての「いつか使いたい香水」はシャネルのNo.5であり、同時に、決して使えるようにはならないだろうなと思える香りである。

シャネルのカウンターに行くと、いつもチャンスのオータンドゥルを勧められる。ピンクの丸くてかわいいボトル。春を思わせる爽やかなフローラルでフルーティーな香りなので、嫌いな人は少ないだろう。いい香り。
いい香りなのだが、自分でつけようとは思わない。冒頭で挙げた香水たちもそうだが、女性らしすぎる香りは自分では使いこなすことができない。というより単純に好みでない。通りすがりに香ってきたら良いと思うけれど、自分から香ったら嫌だな、という香り。しかし人気だからか、頻繁に関連商品が出るためカウンターに行くたびに勧められる、そんな香り。

とはいえフローラルも、嫌いではないのである。

やっぱり人気の香りはいい香りだ。自分には似合わないと思いつつも、「いつか…」という憧れを捨てられずにいる。

そのときも発作的に、フローラル系の香水が欲しくなった。理由はなんだったか思い出せない。たぶん、ネットで香水のレビューを見ていたのがきっかけだったと思う。
とにかくフローラルな香りが着けたくて、しかし冒頭で挙げたような香水たちに出会うたびに「これは無理だ…」と撃沈していた。

私、ナタリー・ポートマンが好きなんです。そう、スター・ウォーズの影響でね。でも、いくらナタリーが好きでもミスディオールは着けられない。いくら広告が魅力的でも、使いこなせない香りはある。香水って、そういうものなのだと思う。

それからシャネルのNo.5にたどり着くまでに、そう時間はかからなかった。

自分はNo.19を持っているし、No.5の香りも試したことがあるが、当時の感想は「これは自分には使えない」だった。改めて今試してみても、やっぱり使えるとは思えない。
しかし、シャネルも商売である。現代人に香りを楽しんでもらうため、あれこれ戦略を考えていた。それが、昨年の終わり頃に発売されたNo.5のヘアミストである。

ヘアミストってなに?と思った方に雑に説明すると、髪の毛に香りをつけるものである。
香水はアルコールが含まれているため、髪に直接つけるのはよくない……らしい。らしいというのはシャネルのBAさんから(うろおぼえで申し訳ない)聞いた話だからである。まぁ、良くないだろうなということはなんとなく体感でわかる。しかも香水は香りが強いので、髪の毛に着けた日にはシャワーを浴びるまでその香りと向き合わなければならなくなる。体温で変化するという香水の特性も活かせるとは思えない使い方だ。

その点、ヘアミストは香水よりも香りの持続時間が短く、香り方も微かで、しかも髪に優しい成分も入っているという。ちょっと気分転換したいときなんかにつけるにはピッタリなのだ。

シャネルは以前からチャンスシリーズやガブリエルなどのヘアミストを出していたが、ついに昨年、No.5のヘアミストが発売された。
チャンスはオーフレッシュを持っているし、ガブリエルはそんなに興味も惹かれなかったのだが、No.5のヘアミストは気になった。
これを気に、気軽にNo.5が着けられるんじゃないかと思った。

いやいやNo.5は気軽につけるもんじゃなくもっとこう、気合と覚悟を持ってつけるもんでしょ。

という主張も(する方がいるかはともかく)理解はできるのだが、やっぱりNo.5をいきなり買うというのはハードルが高い。だってあの香り難しいんだもの。女性らしすぎるんだもの。そして強すぎるんだもの。

ともかく筆者は年明けにシャネルのカウンターに赴き、そこで限定コレクションのアレコレを見ながらBAさんとおしゃべりをしたあと、No.5のヘアミストがほしいということを伝えることができた。
(ちなみに春コレクションはほしいものがなかったので何も買っていない)

幸いにも在庫があったNo.5のヘアミストは、香水と同じあの四角いシンプルなボトル。液体の色はうっすらピンク。35mlと量が少ないので、飽きる前に使い切ることができそうだ。
香水よりもスプレーのミストが細かく、髪につけやすくなっている。

髪を取って、毛先に吹きかける。あっというまに髪からNo.5の香りがするようになった。

これがとてもいい香りで、たしかにNo.5を嗅いだときのあの香りなのに、いつの間にか消えてしまう儚さを持っている。全面的にフローラルで、残り香がかすかにパウダリー。
あー、No.5の香り。

しかし香水ほどきつくなく、いつの間にか消え去っている。ほんのひとときだけ、No.5を体験することができる。

シャネルの方よ……No.5のヘアミストを作ってくれて本当にありがとう。

なんかもういろんな人に感謝したい気分。これを手に入れることができて大変満足している。髪からいい香りがするし、しっとりするし、No.5の香りだし。

ヘアミストをつけるようになってからも、相変わらず「この香りの香水は苦手だな…」と思っている。髪をかきあげたときに少し香るならともかく、常にこの香りに包まれているのはちょっときつい。

そんなわけで、私がNo.5を使いこなせる日はまだまだ先なのである。(そもそもそんな日が来るのだろうか?)
しかし、一足先に名香の香りのヘアミストで少しだけ、No.5の香りを体験することができてとてもハッピーである。

もし使い切ったら、違う香りのシャネルのヘアミストも試したい。

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