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おそらくもっとも万人受けする万年筆

2023年、誕生日を迎えた数日後。その日は初夏のような陽気であった。
筆者は「Pelikan」の文字とロゴが入った紙袋を手に、意気揚々と丸善を後にした。中にはスーベレーン M400の青縞が入っている。
不慣れな”友達の友達”との飲み会の疲労や、転職活動で荒んだ気持ちを癒すには十分な買い物であった。自分への誕生日プレゼントという言い訳も付けて。
本来はヨドバシ.comのセールで安くなっていたところを狙って買う予定だった。というより、安くなっていることを知って欲しくなったのだ。
結局そこで買わなかったのは、ほしい色と字幅の在庫がなかったからである。
一度高まった物欲を我慢できずに最終的に定価で買ったのだから、ほとほと買い物が下手な人間である。

これといって用事もなかった休日、散歩がてらに丸善へ行き万年筆の並ぶショーケースの中にスーベレーンを見つけた。
高級ボールペンを贈答用に購入したとおぼしき先客が、会計手続きの間に年下の店員へ話しかけているのが聞こえた。

「今どき万年筆なんて買う人いるんですか?」
「それが、けっこういらっしゃるんですよ」

おいおい。お前の後ろにいるのは万年筆を買いに来た人間だぜ、と脳内で突っ込みながら店員さんの対応が終わるのを待った。

万年筆の魅力は、それを使ったことがない人間には理解し難いものであろう。なめらかな書き心地。ペンやメーカーによって特徴の出るペン先。美しい軸のデザイン。暇さえあれば手にとって、徒然なることを書き留めたくなる。そんな魅力が万年筆にはある。
そして、一度その世界を知ると他の万年筆が気になるという弊害も出てくる。

丸善の店員さんは万年筆にとても詳しく、自身もスーベレーンM400を持っているという話も聞かせてくれた。
ついでに気になっていた他のメーカーの万年筆も試し書きさせてもらいつつ、M400と比較する。そうして比較してみると、全体の重量、バランス、書き味。どれをとっても癖がなく、万人受けする理由がよく分かる万年筆だと改めて思った。

筆者は特殊ニブ好き人間なのだが、やはり定番は定番で良いものなのだ。万人受けするにはそれなりの理由がある。そんな感想を抱きながら、最終的にM400の青縞を購入することにした。

購入後、そそくさと帰宅してM400にインクを入れた。手に馴染むサイズとなめらかな筆記感。鮮やかなインクが紙に乗っていく様を見ているのは、なんとも言えない幸福感がある。なにより軸の青い部分を光に当てるとキラキラとしていてとても美しい。黒いキャップにクリップのゴールドが映えて上品である。
国産の無難なデザインの万年筆もいいが、海外製の豪奢なペンもそれはそれで良いものだ。

M400は万年筆としては小ぶりだ。
同じく定番のパイロット カスタム74に比べるとだいぶ小さい。国産ではセーラー万年筆の「プロフェッショナルギアスリム」と同じくらいのサイズだ。手が大きい人にはちょっと使いづらいかもしれない。小さい分、軽くて手が疲れない。本当に疲れないので、気がついたら一時間ほどM400でnoteの下書きを書きなぐっていた。筆記に集中できるという点でも、万年筆は非常に実用的な道具である。

このM400、M5サイズのシステム手帳にピッタリのサイズなのだ。軽くて小さくて、手に馴染む万年筆は手帳と一緒に使うことにした。
これからよろしくね。


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